遠隔診療は今、すごくいい時期を迎えている

武藤真祐氏 医療法人社団鉄祐会 理事長

2017/07/10 10:30
大下 淳一=日経デジタルヘルス
出典: 日経メディカルOnline,2017年7月7月 , (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 「対面診療とオンラインでの遠隔診療を組み合わせた新しい医療を、次の診療報酬改定でしっかり評価する」。安倍首相がそう発言して話題を呼んだ、2017年4月14日の第7回未来投資会議。この場で、ICTを活用した次世代医療のあり方を提言し、次期診療報酬改定での遠隔診療の評価に向けた大きな流れをつくったのが、医療法人社団鉄祐会理事長でインテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長の武藤真祐氏である。

 循環器内科を専門とする同氏は、東大病院や三井記念病院、宮内庁、McKinsey & Companyなどを経て、2010年に在宅医療を提供する「祐ホームクリニック(後に医療法人社団鉄祐会)」を設立した。在宅医療を担うクリニックを東京都内を中心に展開し、2011年には東日本大震災をきっかけに宮城県石巻市にクリニックを開設するなど、地域医療にも力を注いでいる。2015年からは在宅医療の取り組みをシンガポールでも展開。医療支援システムの開発に取り組む企業、インテグリティ・ヘルスケアの経営を担う立場でもある。

 ICTを活用した新しい医療の姿をさまざまな立場から提言している武藤氏。遠隔診療の可能性や普及への課題などについて、同氏に聞いた。

(聞き手は大下 淳一=日経デジタルヘルス)

武藤氏(写真:栗原 克己、以下同)


――遠隔診療はこれからの医療においてどのような役割を果たすか。まずは、この点についての考えをお聞かせください。

 外来と入院、在宅という医療の3つのカテゴリーと、遠隔診療はどのような関係にあるか。まずはこの点から考えてみたいと思います。

 このうち遠隔診療とのかかわりが深いのは、外来と在宅です。そして、遠隔診療と外来は互いに行き来できる、つまり組み合わせが可能ですし、遠隔診療と在宅の関係もそうです。外来の一部が遠隔診療であってもいいし、在宅の一部が遠隔診療であってもいい。つまり現行の医療と遠隔診療は、相容れないものではなく共存するということです。

 外来医療や在宅医療の現在のあり方は、決して理想的とは言えないでしょう。外来であれば、患者が病院を離れた場でどのようにすごし、服薬にどう向き合っているかといったことはよく分かりません。時間や空間の制約を受けざるを得ない。在宅についても、都市部はまだしも地方では医師が不足しており、患者の自宅に足を運ぶ余裕がないというケースは少なくありません。

 遠隔診療は、こうした課題にアプローチできるのではないかと考えています。外来医療や在宅医療の弱点を補い、医療の質を高める手段になれる可能性がある。

 医師と患者のコミュニケーションを考えてみても、患者が自分の状態をうまく言葉で伝えられないことは少なくありません。家族の付き添いがほしい場面ですが、それができないこともあります。遠隔診療はこうした場面でも価値を発揮するでしょう。オンライン化して患者とのタッチポイントを増やすことが、これまでは得られなかった患者の情報を得ることにつながります。患者の病態をトレンドとして見られるようになるわけです。

 医療の質と財政的負担は、一般には対立関係にあると捉えられていますよね。医療の質を高めようとすればするほど、医療費がかかる。そうではなくて、患者と医師、国にとっての“3方よし”を実現する手段はないだろうか。その一つの答えになる可能性があるのが、遠隔診療ではないでしょうか。医療をめぐるエコシステムの中で、こうした観点から遠隔診療のポジションをうまく見いだせるのではないか。そう私は考えています。

――有用性が期待される一方で、対面診療と比べた場合の医療としての質の低下を懸念する声もあります。

 人間の五感のうち、一部しか使えない。そんな限界が遠隔診療にあるのは確かです。良い点もあればそうでない点もあって、対面診療と遠隔診療のどちらが優れているかという一元論では語れません。外来や在宅という形が好ましいケースもあれば、遠隔診療が好ましいケースもある。その最適な組み合わせを、それぞれの患者の疾患や生活環境、経済状況などに応じた“引き出し”として提供できるかどうか。これが問われています。

 在宅医療を例に取りましょう。自宅での看取りを絶対的な善のように捉える風潮もありますが、私はそれに賛同できません。重要なのは、人生の最期を自宅で迎えることもできるという、オプションを提供することだと考えるからです。遠隔診療にも同じことが言えるのではないか。遠隔診療の方が適すると考えられる場面で、そのオプションを患者に示せるというあり方が大切なのだと思います。

 それでは、医療の一オプションとして遠隔診療が普及するためには何が必要か。医療のインフラを構成するさまざまな要素との“組み合わせ”がポイントになると私は考えています。

 医療・健康分野ではさまざまなアプリが登場していますが、広く使われているものは少ない。それはおそらく、さまざまな要素との組み合わせによって、誰もが使いたいと思うサービスに仕上げることができていないからでしょう。そういうモデルを作れる人がまだいないということです。

 遠隔診療でも、そうしたモデルをつくれるかどうかが問われます。既存の医療のインフラに遠隔診療をいかに組み込めるか、例えば電子カルテなどのシステムといかに連携させることができるか。これが、誰もが使う仕組みになれるかどうかを分けると見ています。

――そうした視点に立って、遠隔での診察とモニタリングを組み合わせ、密度の高い医療を提供しようとする試みも増えてきました。

 モニタリングとの組み合わせはとても重要だと思います。いわゆるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)によって、さまざまなバイタルデータを家庭などでも収集できるようになってきました。こうした仕組みとの親和性の高さが、遠隔診療の強みの一つでしょう。

 ただしこうして得られるデータは、患者自身が何を訴えているかというコンテキスト(文脈)の中で解釈すべきものです。例えば、体温が37度前後でも「死にそうです」と訴える患者がいる。それに対して「それくらいの熱では、発熱の範囲には入りませんよ」などと答えていても仕方がありません。患者自身が感じている状態が悪いのであれば、医師は何らかの介入をすべきなのです。

 つまり、数値化された情報が患者のすべてだと思ってはいけない。患者が発する言葉はとても重要で、それがあってこそ客観的な情報としてのバイタルデータも生きるわけです。

 医療の質はこのように、主観と客観を行き来しつつ、それらをいかに組み合わせて活用できるかに左右されます。遠隔診療でも、主観と客観の両方の情報が得られるような仕組みを構築できれば、その質はより高いものになるでしょう。診療報酬においても、そうした価値に適切な評価がなされていくことが望ましいと考えています。

――遠隔診療の普及策として、未来投資会議では「適切な評価と報酬」「ルールの整備」「標準化」の3つを提言されました。その意図するところを教えてください。

 適切な評価と報酬という点を指摘したのは、診療報酬上のインセンティブを与えることが、遠隔診療の普及の後押しになることは確かだからです。対面診療と同等の評価というわけにはいかないかもしれませんが、何かしらの後押しはあった方がいい。それによって利用がある程度広がらないと、効果検証もできません。あくまでも私見ですが、2018年度診療報酬改定では遠隔診療に対する一定の評価が試験的に導入され、本丸は2020年度改定ではないかと見ています。

 ルールの整備という話をしたのは、遠隔診療には可能性を感じている一方で、それだけに大事に育てなくてはいけないと考えているからです。マンションの一室でひたすら遠隔診療だけをするサービスが現れるのではないかとか、医師や患者のなりすましにはどう対処するのかなど、遠隔診療をめぐる懸念はいろいろとあります。

 最悪のシナリオを考えていては何事も前に進みませんが、遠隔診療がこれから立ち上がろうとするタイミングでおかしなことが起こるのは望ましくない。ある程度のルールを定め、それに従って良い事例を積み重ねていくことが大切でしょう。そういう意味で、ルールづくりが必要という話をしました。

 標準化に関しては、電子カルテなどの例を見ても、いわゆるガラパゴス化が起こりえるということへの懸念を指摘したんです。いったん異なる仕様のシステムが沢山できあがってしまうと、それらを互いに接続することへのインセンティブは働きません。遠隔診療のプラットフォームを当初から標準化することは、実際には難しいでしょう。それでも、ある程度の数が出そろってきた段階で、一定の標準化は進めたほうがいいというのが私の考えです。システムだけでなく、遠隔診療の運用に関しても標準化が必要だと思います。

 遠隔診療は今、すごくいい時期を迎えている。厚生労働省も医師会も、ICT活用に対して前向きな姿勢を示しています。今を逃せば、こうしたチャンスはめぐってこないとも限りません。だからこそ大事に育てていきましょう、と言いたいわけです。

――福岡市と福岡市医師会、鉄祐会、インテグリティ・ヘルスケアが組んで、オンライン診療を活用したかかりつけ医の機能強化に向けた実証事業を2017年4月に始めました。

 福岡市という先進的な取り組みに積極的な自治体を舞台に、医師会の協力も得て実証を始められたことは非常に良かったと感じています。メジャーな疾患を対象に、遠隔診療が都市部でどのような意義を持つかを検証することは、医療のコアに切り込んでいけるかどうかの試金石になるでしょう。

 遠隔診療のニーズはへき地にもあるし、自由診療として行われる禁煙外来などにもあります。ただしそうした領域だけにとどまっていては、医療の形態としては十分な広がりを持てません。やはり医療におけるメインストリームを目指すことが重要だと思います。

 メインストリームを目指すうえで必要なこと。それはニーズの再定義だと私は考えます。既に見えているニーズに応えるだけではなく、ニーズそのものを作り出せるかどうか。難しい挑戦ですが、それが問われている。医療において遠隔診療がどのような役割を果たせるのか。そのニーズを探り、医療におけるニーズそのものを再定義していくことができるかどうかです。

 私自身は、循環器内科医として外来と入院、在宅という医療のカテゴリーを一通り経験してきました。(医療やそれを支えるシステムの)実プレーヤーとしての立場もありますし、そうした取り組みについて理解してもらうための発言の場も与えられている。これらの立場を生かし、多様な視点から医療におけるICTの可能性を考えていきたいと思っています。

――遠隔診療とともに次世代の医療インフラとして注目を集めているのが人工知能(AI)です。政府もAIの医療応用を推進する方針を打ち出しました。

 AIが医療にどのような恩恵をもたらすかは、現時点では未知数だと思います。ひたすらにデータをかき集めてAIで解析しても、医療にとって意味のある情報は抽出できないでしょう。

 先ほどもお話しましたが、大切なのはどういうコンテキストでデータを捉えるかです。患者にとってそのデータがどういう意味を持つのかといった情報を含む、臨床的に意味のあるデータをいかに集められるか。それが医療におけるAI活用のポイントになるでしょう。

 遠隔診療であれAIであれ、問われているのは世の中の技術進化をいかにうまく医療に取り込んでいけるかです。医療の側でそれを受け入れる準備をすべきであり、その取り組みこそが先進的技術を医療に生かす鍵だと考えています。

むとう・しんすけ
1996年東京大学医学部卒業。2002年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。2014年INSEAD Executive MBA。東大病院、三井記念病院にて循環器内科、救急医療に従事後、宮内庁で侍医を務める。その後McKinsey & Companyを経て、2010年に在宅医療を提供する「祐ホームクリニック」を設立(2011年に法人化し、医療法人社団鉄祐会となる)。2015年には、シンガポールで「Tetsuyu Home Care」を設立、同年8月よりサービスを開始。2016年にインテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長に就任。東京医科歯科大学医学部臨床教授、厚生労働省情報政策参与、日本医療政策機構 理事。