“イケイケ”なサービスは使えない、私が起業したワケ

大久保亮氏 Rehab for JAPAN 代表取締役社長、作業療法士

2018/04/11 08:30
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス

 リハビリテーションの専門家がいなくても、リハビリをきちんとできる体制を整える――。そんなITサービスが、Rehab for JAPANの「リハプラン」である。

 実は、同社を立ち上げた大久保亮氏は、作業療法士として現場で長年働いてきた経験を持つ。ここにきて医療従事者がIT系サービスを手掛ける会社を起業するケースが相次いでいる一方で、作業療法士や理学療法士、介護士などの介護従事者がIT系サービスで起業する例はこれまであまり存在しなかった。

 作業療法士としての現場での経験をサービスにどう生かしているのか。大久保氏に聞いた。

Rehab for JAPAN 代表取締役社長、作業療法士の大久保亮氏(写真:秋元忍、以下同)
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(聞き手は伊藤瑳恵=日経デジタルヘルス)

――起業に至った経緯を教えてください。

 作業療法士になるための学校に通っていた時に、作業療法士の資格を持ちながらリハビリ特化型デイサービス(デイサービス)を運営している先輩に出会いました。その方に憧れを抱き、いつかは起業したいと思うようになったのです。

 作業療法士になったのは、高齢者の力になれる仕事がしたいと思ったからです。両親が共働きだったので、幼少の頃から祖父母と過ごす時間が長かったことも影響しました。

 作業療法士としては、リハビリ特化型デイサービスや救急病院で約10年間働きました。それと並行しながら大学院で経営を勉強した後に立ち上げたのが、Rehab for JAPANです。

――作業療法士など介護従事者によるIT系サービスの起業は珍しいのではないでしょうか。

 リハビリ特化型デイサービスの運営に関しては、理学療法士や作業療法士が起業するケースが増えてきています。一方で、私のようにITを使った新規性のあるサービスを開発する会社を立ち上げる人は少ないと思います。ほとんど聞いたことがありません。

 介護従事者によるIT分野での起業にあまり例がないのは、畑が全く違うからだと思います。利用者の生活や体の状態を見ている介護従事者にとっては、IT分野の言葉遣いや考え方を理解するのが難しいのです。投資家とコミュニケーションをとる際にも苦労すると思います。私は大学院で経営を学んだり、ベンチャーキャピタリストに教えを受けたりすることでこのギャップを埋めました。

 新しい道を切り開くことになるので苦労はありましたが、それ以上に新しいことチャレンジしたいという思いが強かった。だから、ITサービスの事業で起業しました。

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 もちろん失敗も経験しました。私たちは当初、レシピ検索サイト「クックパッド」の運動版のようなサービスを開発したのですが、結論から言うとそのサービスが失敗に終わってしまったのです。

 開発したのは、使いたい野菜を入力してレシピを検索するように、筋肉名でトレーニング法の検索ができるサービスでした。でも、普通の人は「大腿筋膜張筋」なんて知りません。

 このサービスは、私たちが作れるものを作っただけだったのです。売れるものを作るのと、作れるものを作るのは違います。「このサービスいいね」と言ってくれる人もいましたが、本質的に求められるものではなかったのでうまくいかなかったのです。

――「リハプラン」は、その後に立ち上げたサービスというわけですね。

 デイサービス施設に、リハビリの専門家がほとんどいないことに目を付けました。今、多くの作業療法士や理学療法士などのリハビリの専門家は医療機関で働いており、デイサービス施設で働いているのは、1%にすぎないと思います。

 この課題をどう解決しようか思いを巡らせ、たどり着いた答えが、専門家がいなくてもリハビリがきちんとできる体制を整えることでした。現在の介護保険下では、決してリハビリの専門家ではない看護師や柔道整復師、あん摩マッサージ師などが機能訓練指導員としてリハビリを行っても良いという方針になっています。

 こうしたリハビリの専門家ではない人達を支えていけるようなシステムやサービス。それがあれば、多くの人にリハビリを届けることができると思い立ったわけです。

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――リハビリの専門家ではない人が機能訓練指導員として働くことで、どういう不便があったのですか。

 看護師や柔道整復師は、体の状態を診るプロです。でも介護の世界では、利用者の生活を見ていかなくてはいけません。病気などを抱えながらも生活を維持していくために、利用者の人生をプロデュースする仕事だからです。

 例えば、デイサービスの利用者が「一人でトイレに行けるようになりたい」という目標を立てたとします。これを達成するためには、「トイレまで歩く」「ドアを開ける」「便座に座る」…などいくつかの動作ができることが必須です。

 目標達成に向けてリハビリをするには、どういう動作が必要になるのかをひも解いて、利用者の身体能力に応じたプログラムを組む必要があります。これは専門家でなくては難しい作業なのです。

――リハプランでは具体的にどういうことができるのですか。

 利用者の身体状況や目標を加味したリハビリプログラムを提案することができます。これまで、専門家が経験で行ってきた分析の工程を、体系化したのです。

 リハプランは、“リハビリをマニュアル化した”という見方もできるかもしれません。専門的な文章で書かれた論文や書籍はありましたが、現場に対応しきれていない部分もありました。

 例えば、「脳梗塞を発症した人」のリハビリは書かれていても、「脳梗塞を発症した人が釣りにいけるようになるためのリハビリ」は書かれていません。でも、現場では〇〇という障害を抱えている人が△△をできるようになりたい、という掛け算を常に考えなくてはいけません。これに柔軟に対応できることが求められるのです。

トレーニングの方法はイラストでも紹介(画像提供:Rehab for JAPAN)
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 そこで、リハプランでは、700~800種類の目標設定や1800種類の運動プログラムを用意しています。さまざまな高齢者の生活ニーズに対応できるようにしています。

リハプランで表示できる利用者の状況(画像提供:Rehab for JAPAN)
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 ここが最も重要な部分なので、リハビリテーションの専門家3人で朝から晩までプログラムを作り込みました。充実した内容になっている自負があり、どんなデイサービス施設でも使えると思っています。他社にも到底真似できない出来になっているでしょう。

 介護ソフトと呼ばれるサービスはいくつか存在しますが、多くは介護請求などの事務作業を支援するものです。介護現場をITで支えるサービスはほとんど存在しなかった。リハプランは、その空白を埋める位置付けのサービスです。

――作業療法士として働いていたことが、ビジネスに生きていると感じることはありますか。

 作業療法士の仕事を経験していることは強みだと思います。医療系スタートアップに医療従事者の介入が必要だと言われているように、介護系サービスでも現場の温度感は必要だと感じます。

 介護現場で働いていると、ちょっと“イケイケ”すぎて現場に合わないものに出会うことが良くあるんです。新しいサービスやシステムを導入してみたものの、あんまり使わなかったという話を聞くことも多いのです。“ないと困る”もののニーズを掴めなくてはいけません。

 リハプランを開発する際にも、自分の経験を生かしました。具体的には、個別機能訓練加算に準じた書式で記録をとることができるようにしました。
*個別機能訓練加算=デイサービスで機能訓練指導員が利用者の状況に応じた個別の機能訓練を行った場合に算定できる加算のこと。

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 実は、この書式証明を残すという作業は、現場にとって悩みの種です。作業療法士としてリハビリ特化型デイサービスで働いていた際、パートの理学療法士と2人で130人の利用者を担当していました。個別機能訓練加算に関する計画書は1人当たり年間4枚書かなくてはいけませんでした。これが相当大変だったのです。

 リハビリの専門家でも大変なのに、専門家でない人は、独特の文言もリハビリテーションのプログラムも分からずに、大変な苦労をすることになるでしょう。現場では、コピー&ペーストはよくあることですし、リハビリプログラムのマンネリ化するという事態まで起きていました。

 リハプランでは、利用者の身体機能を入力すれば、身体機能に即した文言が返されるようになっています。書類作成時にどういう文言を使うか迷うことも減らせます。

――介護現場の人手不足についてはどう考えていますか。

 確かに人手不足は課題です。ただし、介護保険を使ったサービスを行っているので、売り上げの上限は決まってくる。つまり、やみくもに人材を増やしてしまうと給与水準が上がらなくなってしまいます。

 人手不足といわれながらも、介護現場がやっていけているのは、現場で働く人たちが「利用者のために何かをしたい」という強い気持ちを持っているからです。しかし、誰かが身を削って犠牲になってしまう働き方は、良い状態とはいえません。

 それならば、労働生産性を最大限に高めたい。リハプランでそのお手伝いができればと思っています。

――今後の展望を教えてください。

 これからも、介護の現場で働く人たちに愛されるサービスを作っていきたい。特に、これから個別機能訓練加算を新たに算定することを目指している方の不安は大きいと思います。そういう人に寄り添っていきたいです。

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 導入したら後は自由に使ってください、というサービスが多いですが、それでは顧客は満足しません。特に介護の現場は、新しいサービスを導入するだけで悩みが解決するほど甘い世界ではないと思っています。サービス導入後も徹底的にサポートしていきたいです。

 将来的には、リハビリプログラムの提案などにAIを活用することも視野に入れています。そのためにも資金調達に力を入れたいです。斬新でインパクトのある製品を介護業界に展開していきたいと思っています。