メガソーラーの番人、先進的O&Mの現場

世界初、現地で工場出荷時の性能評価、トラックをパネルの移動式ラボに

パネルメーカーに提示できる品質のデータを現地で取得

2016/10/20 00:00
加藤 伸一=日経BPクリーンテック研究所

 太陽光発電所が長期間、想定した発電量を維持するためには、設置後の太陽光パネルがメーカーの保証した出力性能を保っていることが前提となる。O&M(運用・保守)のなかで、パネルの出力性能の変化をいかに把握するかが、ポイントになる。

 発電量の確認は、パワーコンディショナー(PCS)やストリング(接続箱に入力する単位)ごとに、遠隔監視システムを使うのが一般的となっている。これらは、複数のパネルを束ねた状態で発電量のデータを蓄積し、経年変化などを分析することで、出力の異常を推測する。ただ、パネル単体の経年劣化などの状態を特定するためには、パネルごとの出力測定などが必要になる。

 理想的には、パネルメーカーが出荷前に実施するのと同じ測定を、発電開始後にも定期的に実施することである。

 ただし、屋外で測定することが難しい項目もある。その場合、測定するパネルを架台から取り外して梱包し、測定する設備を備える企業や機関に持ち込む必要がある。費用や手間、輸送中にパネルが損傷するリスクを考えると、こうした方法は現実的ではない。

 そこで、パネルの信頼性評価サービスなどで知られるケミトックス(東京都大田区)は、パネル出荷前に工場で実施するのと同じ測定を、発電所の現地で実施できる手法を開発した。中型のトラックを使った「移動式PVラボ」である(図1)。

図1●箱型の荷台でSTCの条件によるI-V特性の測定、EL画像を撮影
9月に商業利用を開始した「移動式PVラボ」(出所:ケミトックス)
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 同社が運用をはじめた移動式PVラボは、結晶シリコン型太陽光パネルに対し、標準的な試験状態を指す「STC(Standard Test Conditions)」によるI-V(電流・電圧)特性の測定を可能としている。パネルメーカーの示す公称最大出力は、STC条件下でのI-V測定値を基にしている。

 STCの条件によるI-V特性の測定は、パネル温度・25℃の状態で、照度1000W/m2で太陽光のスペクトルに近似した光を照射して実施する。

 現地で実現しようとする場合、難しいのが、25℃という温度への対応だった。太陽光を浴びて発電している状態のパネルの温度は、外気温に比べて25~30度程度、高くなることが一般的である。この状態で、太陽光パネルの温度を25℃に保つのが難しい。しかも、数度の違いで、パネルの出力が大きく変わり、特性が正確に測定できなくなる。

 このため、従来、現地でのI-V特性の評価サービスや機器は、この温度の条件を緩和した簡易的なI-V特性の測定を基にしたものとなっていた(関連記事)。

 ケミトックスによると、今回の移動式PVラボは、世界で初めて、現地でSTCの条件によるI-V特性を測定できる手法となる。発電所の現地で、屋内の試験所と同じ品質でSTC条件によるパネルの性能を評価できることから、より正確にパネルの状態を評価したい発電事業者、O&M事業者のニーズに、現実的な手間や費用で応えられるとしている。

 STCの条件でI-V特性を測定することで、メーカーの公表する公称最大出力と正確に比較できること、不具合を生じているパネルを確定できることに加えて、パネルメーカーに示せる品質でデータを得られることが大きい。

 すでに、5カ所・合計出力約23MWの稼働済みの太陽光発電所に出向き、太陽光パネルの抜き取り検査に対応した(図2)。例えば、出力約3MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)では、設置されている約1万3000枚のパネルのうち、60枚を抜き取って測定した。

図2●20枚ごとに運び込んだパネル温度を25℃に管理し、測定する
出力約3MWのメガソーラー(画像の発電所とは異なる)では、60枚を抜き取って測定した(出所:ケミトックス)
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25℃でのI-V測定とEL撮影を一度に集約

 移動式PVラボでは、STCの条件によるI-V特性の測定に加え、EL(エレクトロルミネッセンス)画像を撮影する。

 EL画像からは、太陽電池セル(発電素子)のマイクロクラック(微細な割れ)の有無や、セルとインターコネクタ(内部配線)との接続状態などを確認できる。

 箱型の荷台の中という限られた場所を有効に使うため、1台の測定装置で、I-V特性の測定、EL画像の撮影という二つを連続して実施できるようにした(図3)。それぞれ個別の装置を使うよりも、パネルの着脱や機器の操作の手間も少なくできた。

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図3●1台の装置でI-V特性の測定と、EL画像を撮影
パネルをステージに設置(上)し、I-V特性の測定(左下)後、ステージの高さを上げ、EL画像を撮影(右下)。個別の装置を使うよりも、パネルの着脱や機器の操作の手間も少ない(出所:日経BP)

 水平型のステージにパネルを固定し、まずI-V特性を測定し、次にEL画像を撮影する。I-V特性の測定に必要な光の照射装置、EL画像の撮影装置などは、荷台の下側に置いている。I-V特性の測定とEL画像の撮影では、光の照射や画像の撮影に必要なパネルからの距離が異なるため、ステージの高さを変える。I-V特性を測定した後、ステージを上げて、EL画像を撮影する。

 1日に最大60~80枚を測定できる。測定速度を上げる上で、ボトルネックとなるのは、やはりパネルの温度調整という。

 測定場所となる箱型の荷台は、測定時には密閉し、空調機やヒーターを使って25℃を維持する。また、光の照射や撮影に影響しない面からも、屋内の試験環境と同じように室内の壁は黒くしている。

 パネルは、荷台の後部から20枚ずつ運び込み、ラックに立てかけて25℃になるよう、温度を管理する。

 運び込む前のパネルは、太陽光が当たっているために、例えば、50℃といった高温になっていることが多い。このパネルの温度を25℃に安定させるために、1時間ほど要する。

 この温度の安定化、測定と撮影、パネルの入れ替えといった一連の作業は、20枚単位で約2時間かかる。このため、1日に処理できる枚数は、最大60~80枚になる。

 出力約3MWのメガソーラーで実施した60枚の抜き取り検査は、ほぼ1日に測定できる最大の枚数となった。

転売や借り換え時の需要も想定

 ケミトックスでは、発電事業者やEPC(設計・調達・施工)サービス事業者、O&M事業者などに対して、移動式PVラボによるサービスを展開している。主に、施工時の受け入れ検査、運用時の定期点検、特定パネルの不具合の診断などを想定している。

 今後は、発電所の転売や融資の借り換えなど、資産価値の評価ニーズが増えてくると予想している。パネルの状態は、発電所資産の大きな要素となる。

 受け入れ検査では、発電所にパネルが納品される際、現地で抜き取り検査し、メーカーの公称最大出力と比較する。結果はその場でわかるため、必要に応じて検査する枚数を増やせる。

 定期点検では、パネルの経年劣化の状態を把握する。メーカーの出力保証値を満たしているかを確認する。不具合の診断では、パネルの性能を現地で確認できるため、その後の対応を迅速に進め、発電機会の損失を最小に抑えられるなどの利点がある。

 現地では、測定するパネルを、事前に架台から外しておく必要がある。この作業は、顧客の要望次第で引き受ける。地域の電気工事関連企業に取り外し作業を委託する体制を目指している。ケミトックスが自社でこの作業を担った場合に比べ、宿泊やレンタカーなどの費用を含めて削減できる。パネルの測定に関わる部署のある山梨県を足がかりに、全国に広げていく。

測定時の「酸欠」に注意

 移動式PVラボでは、荷台の前方に積んだ発電機(出力15kVA)を活用し、空調機やI-V測定・EL画像撮影装置などを稼働している。

 発電機というと、振動や音が大きな印象がある。ケミトックスでも、とくに振動によるI-V特性の測定やEL画像の撮影への影響を懸念したが、実際には発電機の稼動時も音は静かで、振動は少なかった。防振対策が功を奏したこともあり、影響はないという。

 車体は重くなった。自重を含め「最大8t対応」に対し、約7.5tとなっている。中型車の通行が難しい場所や、ぬかるんでいる場所を通る場合には、出向けない場合もあるという。また、発電所内にある程度、平坦な場所がないと、測定精度の確保が難しくなる。

 移動式PVラボには、車内外のいたるところに、「酸欠注意」という表示が貼られている(図4)。これは、車体の製造を委託したトラック関連企業が、これまでにない箱型の荷台の使い方に対して、留意すべきこととして取り付けたものという。

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図4●酸欠の注意を促す表示
密閉環境での作業における留意点の一つ。酸素の濃度を常に確認(下)しながら作業する(出所:日経BP)
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 一般的に、箱型の荷台は輸送などの目的で使われる。主に外から中に荷物を積み込むために使われ、従事者は扉を開けた状態で作業する。

 これに対して、移動式PVラボでは、箱型の荷台は密閉し、外部とは異なる環境を作るために使う。内側から扉を閉めて密閉環境とし、その中で作業するという、これまでのトラックにはない使い方になる。これにより想定される危険に関し、車体の製造企業から安全性の喚起に関し、提案を受けたという。

 万が一、内側から扉を開けられなくなった場合などを想定し、内部から音声で外に助けを求められる仕組みも講じた(図5)。また、密閉して測定する際には、酸素濃度を常に確認し、一定以下に下がった場合には、作業を休止して、扉を開けるといった規定で運用している。

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図5●内側から扉を開閉できなくなった場合を想定した仕組み
音声などで外に助けを求めたり(左)、非常用の脱出機構(右)を備える(出所:日経BP)