慈恵医大、AIを取り入れた救急搬送を実証へ

医療アプリ「Join」と組み合わせ、2017年春にも開始

2016/09/26 04:00
大下 淳一=日経デジタルヘルス

 医療用ソフトウエアとして保険適用第1号となった、医用画像や病院内映像を医療従事者間でリアルタイムに共有できるアプリ「Join」。これに、ウエアラブル端末で集める患者のバイタルデータ、さらには患者の容体や搬送先の人工知能によるアセスメントを組み合わせた救急搬送システムの実証研究を、東京慈恵会医科大学が2017年春にも開始する(関連記事1同2)。

日本医学放射線学会 秋季臨床大会で発表
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 主導するのは、同大学 脳神経外科学講座 先端医療情報技術研究講座 准教授の髙尾洋之氏らのグループ。「第52回 日本医学放射線学会 秋季臨床大会」(2016年9月16~18日、東京都)に登壇した同氏が、その構想を語った。

 髙尾氏は脳神経外科医であると同時に、慈恵医大グループへの3000台を超えるiPhone導入を主導するなど、医療のICT化の旗手として知られる。「通信の力で日本の医療を変える」(同氏)ことを掲げ、今回紹介したJoinの開発にも携わった。

 髙尾氏がとりわけ高い関心を寄せているのが、遠隔診療/遠隔医療。脳卒中のような「時間との勝負」(同氏)である疾患において、迅速かつ適切な診断・治療につながる可能性があるためだ。講演では冒頭、2015年夏の厚生労働省の事務連絡により、遠隔診療をめぐる動きが急速に盛んになっていることに触れた。「遠隔診療(の普及)が進んでいくことは間違いない」と同氏は見る。

 ただし、医師と患者を直接つなぐ「DtoP」の遠隔診療については、厚生労働省が2016年に入って、対面診療との組み合わせが原則である旨を確認するなど、揺り戻しの動きもある。そこでまずは、医師同士をつなぐ「DtoD」を先行させようというのが髙尾氏の考え。Joinはまさにそのためのアプリだ。

 

遠隔での診断でも「問題なし」

 Joinでは、クラウドとモバイル端末(スマートフォン)を活用し、医療従事者間のコミュニケーションを提供する。X線CTやMRIなどの医用画像、さらには手術室や集中治療室(ICU)などの院内映像を、互いに離れた場所にいる多数の医師がリアルタイムに共有できる。チャット機能も備え、医師の“集合知”を脳卒中などの迅速かつ適切な診断・治療につなげる。

 髙尾氏はJoinの効用について、東京慈恵会医科大学附属病院への導入前後で、平均の入院日数で1.6日、総医療費で6万円の削減効果があったことを紹介した。今後は、患者の予後改善につながるかどうかが検証課題だ。

 3省4ガイドラインに準拠させるなど、Joinではセキュリティー面にも配慮した。慈恵医大グループなど6病院において医用画像(DICOM)を遠隔診断した3642症例において、(遠隔での診断が)問題となった症例は1例も確認されていないという。

 

ウエアラブルで連続血圧計測

 Joinは既に、国内で約100施設の医療機関が導入済み。海外での利用も始まった。米国FDAや欧州CEなどの認証/登録を取得済みで、米国や欧州、南米などで使われている。

 海外での利用例の1つに挙げたのが、救急搬送時の患者の容体や搬送先をアセスメントするアプリを、Joinと組み合わせる使い方だ。このアセスメントアプリは、アプリ上で10個ほどの質問(問診)に回答することで、患者の容体や搬送先に関する判断を支援する情報を提供するもの。医師はこの情報と、Joinの医用画像などを組み合わせて判断材料とする。

 これにならう形で、髙尾氏らは「AI(人工知能)を使った同様の取り組みを、日本でも来年4月から始める」計画だ。アプリでの問診、さらには医用画像やバイタルデータを活用し、患者の容体や搬送先に関して精度の高い判断を導く。これを、独自に開発する人工知能エンジンを使って実現する狙いである。バイタルデータの取得については、血圧を連続計測できるウエアラブル端末を開発中で、これを利用する考えという。