「血液1滴でがん発見」のヒント、太陽電池にあり

鍵を握るデバイス技術、名古屋大学の馬場氏が語る

2017/09/13 10:00
大下 淳一=日経デジタルヘルス
講演する馬場氏
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 1滴の血液から13種類のがんを超早期に発見する――。そんな目標を掲げ、国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野 主任分野長の落谷孝広氏が主導する「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト」(関連記事)。高い注目を集めるこのプロジェクトに参加している研究者の1人が、名古屋大学教授 先端ナノバイオデバイス研究センターセンター長の馬場嘉信氏である。

 分析機器・科学機器に関する総合展示会「JASIS 2017」(2017年9月6~8日、幕張メッセ)のライフサイエンスイノベーションゾーンの基調講演に登壇した馬場氏は「ナノバイオデバイスが拓く未来医療・創薬」と題して講演。血液によるがん発見に向けたデバイス技術などについて話した。

 馬場氏が参加している体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクトでは、細胞間の情報伝達などに関わるエクソソーム、およびエクソソームが内包するマイクロRNAに着目したがん検出技術の開発を進めている。ここに貢献する技術の一つが、太陽電池などに使われている“ナノワイヤー”だという。

 ナノワイヤーはナノメートル(nm=10-9m)サイズの直径を持つ細線構造を指し、デバイス表面の特性の精密な制御に利用できるという特徴がある。プロジェクトでの研究ではこのナノワイヤーを、がん細胞由来のエクソソームを体液から取り出すために使うチップの底面に敷き詰めておく。この構造により、体液からエクソソームだけを捕捉し、表面の膜を壊して内部のマイクロRNAを効率よく取り出せるという。

 例えば、尿検体をこのチップに1回流すだけで、含有するエクソソームの約95%を取り出せた。既に、体液から1000種類以上のマイクロRNAを同定することに成功している。

“分子夾雑”やAIが重要に

 こうしたナノデバイスを医療や創薬に応用していく上では今後、大きく2つの技術体系が重要になると馬場氏は指摘する。

 一つは、「分子夾雑(ぶんしきょうざつ)」という考え方に基づく生命科学技術。細胞や生体組織を「さまざまな分子が高密度で雑多に混在する系」ととらえ、こうした環境下での構造解析や機能制御ができる分子を設計する技術を確立する。「試験管の中で起きている現象と、細胞や組織の中で起きている現象は異なる」(馬場氏)ことを重視した技術体系である。文部科学省が支援するプロジェクトが2017年度に始まっており、馬場氏もここに加わって京都大学や甲南大学と共同研究を進める。

 もう一つは人工知能(AI)だ。AIは、生体内などでやりとりされる「シグナル(信号)の意味を知る上で極めて有効だ」と馬場氏は話す。従来のナノデバイスでは、信号/雑音比(S/N比)を限りなく100%に近づけることが求められた。これに対し、雑音も含めた膨大な種類の信号をAIに学習させることで、S/N比は80%といった水準でも解析の精度を十分に高めることができるようになったという。AIは複雑系の解析に向く技術で、創薬はその一つであるとした。