ヘルステック、理想の押し付けではダメ

医療法人社団鉄祐会の武藤真祐氏が「ベンチャー祭り2」基調講演

2017/05/24 10:30
小口 正貴=スプール

 日経デジタルヘルスは2017年5月22日、東京都内で「デジタルヘルスベンチャー祭り2」を開催した。15社のベンチャーによるピッチなどのプログラムに先立ち、医療法人社団鉄祐会 理事長の武藤真祐氏が基調講演に登壇。「ICTを使った次世代医療の方向性とベンチャーの役割」と題して講演した。

基調講演に登壇した武藤氏
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 武藤氏は現在、医師として在宅医療の現場に立ち続ける傍ら、厚生労働省 情報政策参与や内閣官房IT総合戦略本部 新戦略推進専門調査会 医療・健康分科会 構成員などを務め、未来投資会議やさまざまな政府の委員会で医療のICT化推進を提案している。また、デジタルヘルス分野のベンチャー企業であるインテグリティ・ヘルスケアの代表取締役会長も務める。

 武藤氏はまず、「医療は典型的な労働集約型産業」だと説いた。同時に、高齢化に伴い医療の需要はますます高まっており、医療コストが増加している現状についても触れた。こうした状況を踏まえ同氏は、「医療資源が急激に増えるわけではない。これからの時代は持続可能な医療インフラの再構築が求められる」と指摘した。

医療資源が限られる中、今後は“持続可能な医療”が重要になると指摘
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 持続可能な医療の実現に必要なこととして武藤氏が挙げたのは3つ。すなわち、(1)時間的・空間的制約からの解放、(2)医療従事者の役割分担の再構成、(3)患者や患者家族の積極的な医療への参画、である。

 これらの実現に向けた鍵を握るのは、ICTの利活用だ。例えば、武藤氏は(1)に関しては遠隔の画像診断・オンライン診療やオンライン服薬指導、医療従事者のマッチングシステムなどが該当するとした。(2)に関しては医師の負担を分散させるためのAIの発展、(3)についてはITを生かした学習やモニタリングなどを挙げた。

日本でなかなかできない仕組みは海外から

 武藤氏が2010年に自ら開設した「祐ホームクリニック」では、当初からICTと在宅医療をどのように組み合わせるかを考えてきたという。在宅医療は自らのクリニックだけでは完結せず、他の職種との連携が必須となることから、「ITやクラウドとの馴染みが良い」(同氏)と話す。

 現在、約50人の医師を抱え、1日に130件以上の訪問を重ねている。業務を効率的に進めるため、位置情報の一元管理を利用した緊急往診や、移動中にカルテを口述入力するシステムといったICTの仕組みを整備してきた。

 2015年にはシンガポールでも同様の在宅医療サービスをスタート。シンガポールではITシステムの開発にも取り組んでいる。電子カルテやレセコン、患者情報を共有できるSNSなどを含んだプラットフォームを構築し、付随してIoTやロボットの利用を進めている。

シンガポールでは最先端技術を導入。右下がiPadを装着した移動型ロボット
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 「セグウェイのような移動型ロボットにiPadを装着し、日本から遠隔操作ができるようにしている。必要ならばロボットを使ってシンガポールの患者と会話することができる。日本ではなかなかできないことをシンガポールで試して、結果的にその仕組みを逆輸入することを考えている」(武藤氏)。

医療のプロのノウハウがベースにあるからこそ

 このように医療分野にICTを活用しようとする動き、すなわち「ヘルステック」とも言われる動きは活発になってきており、特にベンチャー企業の取り組みが目立つ。自らもベンチャー企業を率いる立場から、ベンチャーに期待することとして、武藤氏は「スピード・イノベーション・コラボレーション」の3つを挙げた。

武藤氏が挙げた、ヘルスケアベンチャーに期待すること
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 ただし、単に製品ドリブンであったり、企業が思い描く理想を押しつけたりするようなサービスは上手く行かない可能性が高いとも指摘し、次のように結んだ。

 「ヘルステックは、医療のプロフェッショナルが長年培ってきたノウハウがベースにあるからこそ有効なもの。それをテクノロジー本位で根本的に変えようとするのは、むしろおこがましいのではないかと私は思う。

 やはり絶対的に必要なのは、現場で必要とされるものだ。理想形から提示して、それが実現すれば現場の人たちの考え方も変わるだろうといったアイデアもあるが、なかなか難しい。いわゆるデザイン思考が最も生きる分野がヘルステックなのだ」。