「医療にはビッグデータよりクオリティデータが必要」

経産省の江崎氏、AI活用の可能性と課題を語る

2018/02/05 08:00
大下 淳一=日経デジタルヘルス

 経済産業省 商務・サービスグループ 政策統括調整官(兼 内閣官房 健康・医療戦略室 次長)の江崎禎英氏は、2018年1月19日に京都市で開催された「第3回 デジタルヘルスシンポジウム」(主催:京都大学、ミクシィ)に登壇。「健康・医療情報を活用した予防政策の実現 ―医療分野における人工知能の役割―」と題し、健康・医療分野におけるデータ活用やAI(人工知能)活用の可能性と課題について話した(関連記事1同2)。

登壇した江崎氏
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 江崎氏は冒頭、2018年1月に開催された世界経済フォーラムのダボス会議で、健康・医療政策に関して「世界が日本を見ている」(同氏)ことを実感したと話した。各国が健康・医療分野の進むべき道に迷いを抱えていることが背景にあるという。一方、日本では医療費の高騰が続いており、健康・医療を支えるシステムの抜本的な見直しが欠かせない。そこでは「どこにデジタルをきっちり使うか」(同氏)が大きなポイントになるとした。

 その一つとして昨今、ビッグデータ活用に期待が集まっている。だが医療分野で本質的に重要なのはクオリティデータ、つまり品質が担保されたデータだと江崎氏は指摘する。「海外ではビッグデータの活用が叫ばれているが、データの質が悪いからこそビッグなデータが必要だとも言える。ディープラーニング(深層学習)も、最初に誤ったデータを学習させたのではディープに間違い、後戻りできなくなる」(江崎氏)。クオリティデータをもとにAIのアルゴリズムを構築し、医療分野での使用に耐えられる水準を実現する取り組みが重要になるとした。

 日本は1億人強という小さくない人口を抱えながら、質の高い健康・医療データを収集するための土壌はあると江崎氏は見る。一方で、そうしたデータを活用しさまざまなサービスを生み出せるとの期待は以前からあるものの、「そのプラットフォームに電車が走ったことはない」(同氏)。

マルチファクターに目を向けよ

 日本では対策を打つべき疾患が一昔前とは大きく変化しており、それを見据えた医療政策やシステムが求められると江崎氏は話す。具体的には、感染症のようなシングルファクター(単一因子)の疾患よりも、生活習慣病や認知症などマルチファクター(多因子)の疾患への対策が重要になってきた。マルチファクターであるがゆえに、万人に対する効果が見込める標準治療は通用しにくく、患者の個別状態に応じた医療や「患者の状態を変えることで治療効果を変える」(江崎氏)といった考え方が大切になる。特に、医療費抑制の観点からは、1次予防よりも「2次予防に近いところが重要。その対策によって医療費は劇的に減らせる」(同氏)。

 江崎氏が指摘するようなマルチファクターの疾患の扱いは、AIが得意とするところでもある。その活用に向けては、まずはクオリティデータを集積することが肝心だ。

 江崎氏は、健康・医療分野のクオリティデータを日本で集積する試みとして、経産省が支援するプロジェクト「チーム七福神」の取り組みを紹介した。毎日の糖尿病管理を「七福神アプリ」で支援し、健診の未受診や治療脱落、コントロール不良をなくすことを目指す(関連記事3)。

 このプロジェクトでは既に、8つのコンソーシアムを通じ、総従業員164万人から約1000人分のデータを集積。血糖コントロール改善などの効果が得られており、今後は対象となる総従業員数を300万人に拡大して、約2000人分のデータを集めることを計画している(関連記事4)。

 このプロジェクトでは、生活習慣改善などによって、血糖値だけでなく多くの項目が「芋づる式に改善する」(江崎氏)ことが明らかになってきた。「どれだけデータを集めても、それが社会実証につながらなければ活用はできない。今回のプロジェクトでは先に(社会実証という)電車をつくる」と江崎氏は意気込みを語っている。