ロボット支援手術、保険適用拡大から1年で何が変わった?

「順調に症例数増加」「施設基準が厳しい」などの声

2019/01/28 17:00
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス

 2018年度の診療報酬改定では、ロボット支援手術(いわゆるda Vinci手術)の保険適用対象が一挙に拡大した。以前から保険適用されていた前立腺がんと腎臓がんに加えて、肺がんや直腸がん、胃がんなど新たに12件のda Vinci手術が対象になったのだ(関連記事12)。

 この改定を受けて、臨床現場ではどのような変化が起きたのか(関連記事34)。2019年1月26日に開催された「第11回 日本ロボット外科学会学術集会」では、「保険適応の拡大における現状と今後の課題」と題してパネルディスカッションが行われた。保険適用後は症例数が増え、直視下手術や内視鏡手術に対するda Vinci手術の優位性が見えてきた一方で、実施施設の基準が厳しいといった声もあった。呼吸器外科や消化器外科、心臓血管外科など、それぞれの診療科における状況を見ていこう。

2019年1月26日に開催された「第11回 日本ロボット外科学会学術集会」

年間18例行わないと「採算がとれない」

 呼吸器外科では、肺がんの手術が保険収載されたことで「かなりの施設でda Vinci手術が行われるようになってきた」と福岡大学病院 呼吸器・乳腺内分泌・小児外科の山下眞一氏は強調する。今回の改定では、胸腔鏡下縦隔悪性腫瘍手術と胸腔鏡下良性縦隔腫瘍手術、胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術(肺葉切除または1肺葉を超えるもの)の3つが保険適用となった。

 福岡大学病院では、保険収載後に肺葉切除のda Vinci手術を14例行ったという。しかし、da Vinciの維持費を1回の手術料で割ると、少なくとも「年間18例の手術を行わないと採算がとれないことが分かった」と山下氏は話す。

 さらに、肺がん診療ガイドラインには、ステージⅠの肺がん患者に対してはda Vinci手術を推奨するほどのエビデンスはまだないと書かれている。そこで今後は、da Vinci手術の有用性を証明して、「腹腔鏡手術よりも高額な診療報酬を得られるようにしたい」と同氏は展望する。

消化器外科は「手術件数が順調に増加」

 腹腔鏡手術の普及が進んでいる消化器外科領域では、da Vinciを使った直腸がん手術が2018年だけで296件行われるなど「手術件数が順調に増加した」と東京医科歯科大学 消化器外科学分野の絹笠祐介氏は振り返る。2018年8月時点でda Vinci手術を実施した医療機関は70にのぼり、食道がんのda Vinci手術件数は例年に比べて6倍だったという。

 ただし、診療報酬点数が低いことや施設基準および術者基準が厳しいといった課題も明らかになってきた。厳しい施設基準は安全上必要だが、該当施設でも1~2人しか術者がいないとなれば人材育成につながらないことを絹笠氏は危惧している。日本内視鏡外科学会では、推奨するプロクター(手術指導医)のリストを公開しているが、「まだ明確な規定や制度がないのが現状」(同氏)という。術者の勉強会を開催するなど、教育に力を入れていきたい考えだ。

泌尿器は手術指導に力を注ぐ

 以前から前立腺がんと腎臓がんのda Vinci手術が保険適用されていた泌尿器外科でも「手術の質を向上するための教育に力を入れている」と名古屋大学大学院医学系研究科 泌尿器科学の後藤百万氏は話す。

 実は、名古屋大学では、2010年にロボット支援下の腹腔鏡手術を受けた胃がん患者が死亡する事故が発生した。この原因を調査したところ、問題の一つに指導医不足が挙げられた。

 そこで、外科医の技術を担保するためにプロクター制度を設けた。泌尿器外科領域では2017年度までに348人のプロクターを認定している。2018年9月からは術式別のプロクター認定を開始し、既に腎部分切除術に114人、膀胱全摘除術に60人が認定されているという。

「治療の実態と保険点数が合っていない」

 低侵襲手術の普及が遅れているとされる婦人科領域では、腹腔鏡下膣式子宮全摘術と腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がんに限る)が保険適用となった。この1年で「登録施設と症例数は順調に増加している」と京都大学医学研究科 婦人科学産科学分野の万代昌紀氏は言う。

 しかし、実は今回の改定では子宮体がんの傍大動脈リンパ節郭清が含まれていないなど「治療の実態と保険点数が合っていない」と万代氏は指摘する。これを解消するために、症例数を増やしてda Vinci手術の優位性を示していきたい考えだ。

手術時間と弁形成の質で有意差

 胸腔鏡下弁形成術のda Vinci手術が保険適用された心臓血管外科領域では、憎帽弁形成術をda Vinci手術と直視下手術のそれぞれで行ったデータを分析したところ、da Vinci手術の方が手術時間が短く、弁形成の質が向上する傾向が見られたという。ただし心臓血管外科では、ロボット支援手術は「まだまだ導入されたばかり」(国立循環器病研究センター 心臓血管外科の角田宇司氏)という位置付けのようだ。

 da Vinci手術の普及に向けて、最も大切なのは安全性だと同氏は考えている。心臓血管外科で行う心臓の手術は、他の診療科とは異なり心臓を止めて行わなくてはいけないからだ。安全に心臓を止められる時間は限られているため、da Vinci手術中に万が一トラブルが起きた場合も手を止めて相談する時間はない。安全性を重視するためには、場合によっては「直視下手術や開胸手術に移行するなど適切な判断が求められる」と同氏は指摘する。

肝胆膵外科用のデバイスは不足

 肝胆膵外科領域のda Vinci手術は、2018年度の改定では保険収載されなかったものの、海外では年間2000件の肝切除術、年間4000件の膵切除術がda Vinci手術で行われたと報告されているという。

 藤田医科大学では2009年から自費診療で109例のda Vinci手術を行ってきた。その結果、「空間が認識しにくい上、肝胆膵領域ではロボットアームの先端に装着する専用鉗子などのデバイスが不足している」ことが明らかになったと藤田医科大学 総合消化器外科の杉岡篤氏は話す。こうした課題を解決した上で、保険収載を目指したい考えだ。

 診療科ごとにばらつきはあるものの、保険適用拡大を受けてda Vinci手術は確実に普及し始めている。若手医師に、まずは内視鏡手術やロボット手術を教える時代もそう遠くはないかもしれない。優位性を示すエビデンスの構築や新しい教育体制が求められるだろう。