経産省主催ビジコン、ベンチャー5社の激闘に沸く

2018/01/24 09:00
大下 淳一=日経デジタルヘルス

 「ファイナリスト5社ともにサービスの完成度が高く、非常にレベルの高い争いだった」――。経済産業省が2018年1月18日に東京都内で開催した「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2018」(関連記事1)。経済産業省 商務・サービスグループ 政策統括調整官の江崎禎英氏は表彰式で、こう評した。

 同コンテストは、次世代のヘルスケア産業の担い手を発掘・育成することを目的に、新たなビジネス創造に挑む企業・個人を表彰するもの。2016年、2017年に続く第3回の今回は、厚生労働省が主催する「データヘルス・予防サービス見本市2017」の併設イベントとして開催された。

グランプリ発表の瞬間
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 挨拶に立った経済産業副大臣の武藤容治氏は、少子高齢化がいち早く進む日本でそれに応える技術やイノベーションを実現することは、世界に範を示すことになると強調。「健康維持を支える製品やサービスが不可欠であり、特に生活習慣病に焦点を当てたイノベーションが必要だ」と述べた。厚生労働省からは保険局保険課長の安藤公一氏が挨拶し、少子高齢化という課題に立ち向かうには「官も民もない、省庁の垣根も飛び越えた取り組みが求められる。データヘルスも保険者が単独で進めるのは難しく、民間事業者のノウハウや力を借りなければ実現できない」と話した。

 コンテストでは、応募各社が提案したビジネスを「社会的課題の解決に資するインパクト」「成長性&将来性」「新規性&革新性」という3つの基準で審査。1月18日のイベントでは、書類と対面の審査を通過したファイナリスト5社が最終プレゼンを行い、グランプリ(最優秀賞)を競った。

 ファイナリストに選ばれたのは、ユカシカド、OQTA、PREVENT、iCARE、mediVR。審査はヘルスケアビジネスへの造詣が深い15人の審査員が担当し、各社のプレゼン後にはコンテストのサポート企業が札を上げて事業支援の意思を示した。

尿から栄養の過不足を知る

 トップバッターは、ユカシカド代表取締役の美濃部慎也氏。栄養の過不足を尿で評価するパーソナル栄養検査サービス「VitaNote(ビタノート)」を紹介した(関連記事2)。

ユカシカドの美濃部氏
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 全世界では約20億人が栄養状態に問題を抱えており、国内でも700万人近くが低栄養状態にある。美濃部氏はまず、そうした状況を説明し、幼児やアスリートの低栄養も問題になっていると指摘した。

 一方、栄養の過不足を定量的に評価できる有効な手段はこれまでなかったという。ユカシカドが2017年4月に提供を開始したVitaNoteは、これに応えるサービスである。利用者が自宅で採取した尿を送るだけで栄養状態が分かり、それに応じたサプリの提案などを受けられる。価格は約7500円。

 特徴は大きく4つある。第1に、ビタミンB1/B2、葉酸、ナトリウム、カリウムなど15種類の栄養素の過不足を定量評価できる。第2に、行動変容につなげやすい。実際、サービス利用者の80%以上が、検査結果を受けて栄養を補うサプリを購入しているという。第3に、滋賀県立大学との共同開発をもとに、独自の測定技術を実現した。「尿による栄養検査サービスはありそうでなかった。尿は夾雑(きょうざつ)物が多いことに加え、ビタミンが失活しやすいなど扱いが難しい。我々は構想段階を含め12年をかけて、この課題に取り組んできた」(美濃部氏)。第4に、尿検査からテーラーメードサプリの提供までをワンストップで提供する。

 栄養改善に関わる市場は、2025年に国内に限っても8兆円規模と見込まれている。ユカシカドはこの巨大市場を狙い、「ドラッグストアや調剤薬局とも連携しながらサービスを提供したい。企業の健康経営向けの利用も見込んでいる」(美濃部氏)。世界市場に向けては“2030年までに飢餓をゼロに”することが目標だ。途上国に検査センターを設けるなどの展開も視野に入れる。

1秒の音で愛情を伝える

 続いて登壇したOQTA(オクタ)CEO&Co Founderの中野功詞氏は「世の中から人生最大の悲しみ『孤独』を無くしたい」と題してプレゼンを行った。同社が提供するのは、孤独や社会的孤立がもたらす心の病を解決するサービス「OQTA」。

OQTAの中野氏
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 同社は、情報社会や超スマート社会と呼ばれる時代の中で「人の心が置き去りにされている。これからは心や意識の社会が到来すると考えており、そこに軸足を置いたソリューションを提供する」(中野氏)。日本では独居高齢者が約600万人いるとされ、孤独や社会的孤立がうつ病や認知症、自殺などにつながることも社会問題になっている。OQTAは人の根源的な欲求である“心を満たす”ことを通じ、その解決を図る。

 同社が提供するのは、“1秒の音で愛情を伝える”サービスだ。高齢者などの自宅に、インターネットとつながった鳩時計を設置。離れて暮らす子供や孫が、親や祖父母のことを思い出したときに、専用スマートフォンアプリのアイコンをタップすると、鳩時計が音を鳴らす。その音で、誰かが自分のことを思ってくれているという愛情を感じられる仕組みだ。8人以下のグループで利用するサービスである。

 このサービスのポイントは、一方通行であり、しかもグループ内の誰がアイコンをタップしたかは分からないという匿名性にある。アイコンをタップする側も、鳩時計の音を聞く側も気をつかう必要がなく、「言葉にできない愛情を伝える」(中野氏)手段として適している。

 モニター利用では、高齢者と6人の孫の間で6200回を超える音が交わされた例もあったという。2018年3月にサービス提供を始め、同年9月には廉価版の月額課金サービスも開始する。企業における従業員のメンタルヘルス対策にも効果が見込めるといい、近く実証を始める計画だ。

病気を抱える人こそ健康づくりを

 続いて、名古屋大学医学部発ベンチャーのPREVENT代表取締役を務める萩原悠太氏が登壇。脳梗塞や心筋梗塞などの再発予防(3次予防)を支援するインターネットサービス「iPrevent」を紹介した。

PREVENTの萩原氏
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 昨今のヘルスケアサービスの多くは、もともと健康に対する意識が高い健康な人を対象に、健康増進や病気予防を支援する。これに対しPREVENTは「病気を抱える人に健康づくりのプラットフォームを提供する」(萩原氏)ことを目指す。病気になってしまった人に対し、その重症化や再発を防ぐことを支援する形だ。

 例えば脳梗塞では、治療後に再発を起こす患者が少なくない。脳梗塞患者を外来診療だけでフォローした場合の再発率として、約30%という数字が報告されている。これに対し、生活習慣を改善することで、この再発率を約1/10に抑えられるとの研究結果がある。

 こうした視点に立って、iPreventは脳梗塞や心筋梗塞の患者の生活習慣改善をインターネットで支援。これにより、再発のリスクを下げる。医療専門家によるサポートをPREVENTが提供しながら、アドバイスやeラーニング、ライフログとそのアセスメント、主治医との連携などを通じて生活習慣改善を支える。萩原氏がかつて研究者として所属した、名古屋大学大学院医学系研究科のノウハウをもとに開発したサービスである。

 糖尿病や高血圧など、生活習慣病患者の重症化予防もサービスの対象だ。健康保険組合や生命保険会社を通じて、被保険者や保険契約者向けの付帯サービスとしてプログラムを提供している。

 2017年4月にサービスを開始しており、6ヶ月間にわたるプログラムの提供価格は約10万円。脳梗塞や心筋梗塞を再発したり、糖尿病が重症化したりした場合にかかる医療費を考えれば、十分にペイできるとした。効果の一例として、プログラムを通じて利用者の血圧を8.3mmHg下げることに成功。血圧を10mmHg下げると、脳卒中や虚血性心疾患のリスクを20%以上下げられることが知られている。

カンパニーケアとセルフケアの両輪で

 4番手として登壇したのは、iCARE COOの片岡和也氏。“中小企業でも大企業並みの産業衛生体制を実現できる”ことをうたった健康経営支援サービス「Carely」を紹介した。

iCAREの片岡氏
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 Carelyは、カンパニーケア(職場の環境づくり)とセルフケア(個人の行動づくり)という2つの側面から、企業従業員の健康づくりを支援する。「この両輪を回してこそ、予防を実現できる。企業にとっては生産性が上がり、採用力も高まり、不調者の早期発見にもつながる」(片岡氏)。

 サービスの特徴は大きく3つある。第1に、従業員の健康診断やストレスチェックの結果、勤怠情報などを、クラウドに取り込んで一元管理できる。第2に、取り込んだ健康データを自動解析できる。これにより「組織として、どこ(どの層)にアプローチすべきかが分かる」(片岡氏)。第3に、専門家による介入が可能だ。チャットを介して医師や保健師に相談ができるほか、ハイリスク者にアドバイスやコンテンツを提供するような使い方もできる。

 サービス開始からの1年半で、既に80社以上が採用した。利用者数は約1万5000人に達しており、利用継続率は9割を超えるという。

 今後は医療費削減や働き方改革につながるソリューションを、パートナー企業と連携しながら構築していく。AI(人工知能)ボットを活用したサービスの効率化なども検討するという。「不調になったら、まずはCarelyに相談する。そんな予防医療のインフラを目指したい」(片岡氏)。

運動リハビリ治療機器「怒涛の開発スピード」

 トリを務めたのは、mediVR 代表取締役社長の原正彦氏。同社は、VR(仮想現実)とAI(人工知能)を活用した運動リハビリテーション治療機器を手掛けるベンチャーである(関連記事3)。

mediVRの原氏
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 原氏はまず、高齢化などに伴って、歩行を中心とする「運動機能のリハビリのニーズが爆発的に高まっている」と指摘。一方、運動リハビリを支援できる専門人材は不足気味で、しかも各人の技量に頼る部分が大きいという。そこで、個々人に適したリハビリを自動で提供できる手段が求められている。

 こうした状況から、mediVRは大阪大学および国立循環器病研究センターと連携し、体幹コントロールのためのプログラム開発を進めている。リハビリとは、最大運動耐用能を高める作業。この目的を意識し、mediVRは「VRを用いた定量指示」「3次元トラッキングによる定量評価」「AIによる目標値の再設定」という3つの特徴を備えた運動リハビリテーション治療機器を開発している。

 同機器は手を伸ばすことで体を揺さぶり、歩行に重要な要素である体幹バランスを鍛える。その際、体幹バランスの定量化にHMD(ヘッドマウントディスプレー)とコントローラーを用いたVRを活用。目標値の最適設定に、AIを活用する。デュアルタスクと呼ばれる頭を使いながらの運動を課すことで、運動機能と認知機能を同時に鍛え、高齢者の転倒リスクなどを減らせることが大きな特徴である。「こんなことができるといった提案では、現場では使われない。我々が提案する体幹コントロールは、VRでなければ実現できない。マストハブ(Must have)だ」(原氏)。

 強調したのが、2017年9月に基本特許を取得した後の開発のスピード感だ。通常は1.5~2年を要するという安全性試験を3カ月で完了し、2017年11月には医療機器専門ベンチャーキャピタルからの出資が決定。同年12月に医療機関への導入が決まり、2018年1月には医療機器製造販売許可を取得した。

 医療機関や老人ホーム、フィットネスクラブなど法人向けの提供を計画しているほか、個人向けも対象とする。既に導入が決まった医療機関のほか、介護施設やデイサービス事業者などから声が掛かっているという。同社の治療機器は「ノンバーバル(非言語)のコミュニケーション手段。グローバルに展開できると考えている」(原氏)。

グランプリは…

 5社によるプレゼンの後、審査結果が発表された。速報で報じたとおり、グランプリはmediVRが獲得した。

グランプリはmediVR
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