VRで名医の手術を体験、J&J

医療研修用のVRコンテンツを開発

2018/11/06 07:00
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス

 いつでもどこでも名医の手術を体験できる――。

 ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーは、そんな医療研修用のVRコンテンツを開発すると2018年11月5日に発表した。VRを活用した人材育成ソリューションを手掛けるジョリーグッドと共同で手掛ける。

 同日開催した記者発表会では、その第1弾として作成した、心房細動の治療法である「カテーテルアブレーション」のVRコンテンツを紹介した。今回のコンテンツでは、ヘッドマウントディスプレーを装着するだけでカテーテルアブレーションに精通した術者と同じ視点で手術を体験することができる。コンテンツを作成するために、医師が手術している様子を高精度360度カメラで撮影し、実際の医療現場にいるような臨場感のある映像を実現した。

作成したVRコンテンツ
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 これまで、他の医師の手技を学ぶためには、時間を割いて見学に行かなくてはならなかったが、医師が業務の合間を縫って遠方を訪ねることは難しかった。他の医療機関を訪ねても、衛生上の問題から間近での見学が難しかったり、手術室の大きさの問題から一度に見学できる人数が限られてしまったりしていた。

ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーの長谷川聡史氏
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 今回作成したコンテンツを使用すれば、自分の時間が空いたときに場所を選ばずに研修を受けることができる。術者の真横にカメラを設置して手術を撮影したため、間近で手術を体験することを可能にした。「名医の横に立って手術を見学しているような体験ができる」とジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニー バイオセンス ウェブスター事業部 マーケティング部 プロダクトマーケティング Txグループ マネジャーの長谷川聡史氏は言う。

 さらに、今回のコンテンツ作成には、映像に登場する医師が編集に携わり、VR動画に合わせて解説を加えた。手技を行う上で注意すべきポイントなど詳細な解説を受けることができる。

不整脈専門医の不足解消へ

 今回着目した心房細胞とは、心房が小刻みに震えて心室が不規則に拍動し、全身にきちんと血液が行き届かない状態のことである。これによって、胸の痛みや動悸が生じる。血栓ができて脳梗塞を発症する恐れもあることから、早期の治療が必要となる。

心房細動の概要
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 代表的な治療法の一つが、患者への負担が少ないカテーテルアブレーションだ。足の付け根から心臓に向かってカテーテルを挿入し、電気を流すことで不整脈の原因となる心筋を焼灼する治療法で、根本治療が期待できる。

ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーの岩井智光氏
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 ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーは、この治療を支援する医療機器を手掛けているが、「手技に精通した医師が不足している」と同社 バイオセンス ウェブスター事業部 バイスプレジデント 事業部長の岩井智光氏は指摘する。心房細動と診断された患者は80万人以上いると推定される中、不整脈専門医は950人余りしかいないという。

VR活用で記憶に対する学習効果が3倍に

 そこで同社は、時間や場所を選ばずに名医の手術を解説付きで研修できる今回のコンテンツ開発に乗り出したというわけだ。

 特に、カテーテルアブレーションは、開胸手術や開腹手術と違って術野が目で見えるわけではない。そのため、術者は指先でカテーテルを操作しながら、検査画像を確認したり高周波の出力を調整したりと同時並行で手術室の動き全体を把握しなくてはいけない。こうした特徴から、術野だけが見える動画よりも、「全体が見渡せるVRと相性が良かった」と岩井氏は強調する。

ジョリーグッド 代表取締役 CEOの上路健介氏
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 実は、VRを活用したコンテンツは、ビデオやeラーニングなどの教材に比べて「記憶に対する学習効果が3倍に向上する」とジョリーグッド 代表取締役 CEOの上路健介氏は話す。ヘッドマウントディスプレーを装着した状態で周囲を見回すなど能動的な姿勢が求められるため、受動的に学ぶ他のコンテンツよりも記憶に残りやすいと見られる。

 今後は、手術器具が多いとされる整形外科分野についても研修用のVRコンテンツを作成することを検討している。リアルタイムの手術映像をVRで共有できるようにし、今行われている手術を遠隔地から見学できるようなコンテンツ開発も視野に入れているという。