本庶氏の会見、日本の製薬企業に対する懸念にも言及(page 2)

「PD1ノックアウトマウスの実験が転機に」

2018/10/02 11:00
久保田文=日経バイオテク
出典: 日経バイオテクONLINE,2018年10月2日 , (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

――受賞はどのような形で知ったのか。
 「メディアと違って、私はやることがいっぱいあり、毎年ノーベル賞を意識することはほとんどなかった。正直今日も、完全に受賞発表日だということを忘れ、予定があって自分で車を運転してきてしまい、先ほど事務官に叱られたぐらいだ。今日は17時ごろ、今年は誰になるのかなあと思いつつ、研究室で准教授やポスドクと論文の推敲をしているときに、ノーベル財団から電話があった。突然だったので驚いた。研究室のスタッフも非常に驚いて興奮していた」

――受賞誰に伝えたか。
 「家族や研究室の関係者には連絡した。いずれにしても思いがけないことだという主旨で伝えた。家族からはおめでとうという感じだった」

――ノーベル賞の受賞については。
 「どんな賞でも、それぞれ賞を出すところによって考え方も違う。その意味で、今回受賞できたのは幸運だったと思う。初めからPD1が癌免疫療法になるとは思っていなかったし、PD1を同定したときもたまたま近くに癌免疫の専門家がいて、正しい方向に導いていただいた。それ以外も多くの幸運があってこういう受賞につながった」

――Allison氏との共同受賞については。
 「極めて妥当だと思う。彼とは、非常に古い交流があり、彼の研究と僕の研究とは非常に違う局面を持っていたが、現在、オプジーボとヤーボイを併用することでより高い効果を認める癌種が出てきている。ノーベル財団も詳しく説明していたが、僕自身としては非常にベストな組み合わせではないかと思っている」

――オプジーボを始めとする癌免疫療法で治癒する癌患者も出てきている。
 「私はよく、癌に対するオプジーボなどを、感染症に対する抗菌薬のペニシリンに例えている。ペニシリンは、初めは限られた感染症にしか効かなかったが、その後次々抗菌薬が開発され、感染症は人類にとって脅威ではなくなった。オプジーボでは効果を認める患者はいるが、まだ効かない患者も多く、癌免疫療法は発展途上だ。効かない患者についてなぜ効かないのかを解明し、癌免疫療法がより多くの患者に効くようにできればと考えている。将来、感染症と同じように、癌も治せる日が来るのではないかと信じている」

――これまでの研究で転機になったのは。
 「in vivoの実験で、PD1が癌に効くと確信できたときだ。具体的には当時の研究室の大学院生に、PD1遺伝子ノックアウトマウスを作ってもらった。すると、正常のマウスと癌の増殖に差が出た。もしこの時、抗PD1抗体を使って実験していたら、抗体の選択によっては全く差が見られずに諦めていたかもしれない。初めにノックアウトマウスで必ず効くと確信できたのが大きな転機になったと思う」

――これまでに挫折はあったか。
 「挫折はなかったからこそここまで来たが、大きな壁にぶつかったことはある。2002年、動物モデルでPD1を標的にして癌を治すアプローチについて論文を出した後の話だ。ただ、抗体の作製は大学では難しく、小野薬品にやらないかと持ちかけた。当時はまだ、ライセンス前だったが、小野薬品には特許の出願を手伝ってもらっていたからだ。しかし、同社は癌の経験もないし、効くかどうか分からないのに自社で大金を投じられないと断られた。小野薬品は、その後1年、さまざまな製薬企業を訪問して、共同研究を申し込んだもののそれも全部断られてしまった」

 「そこで、米ベンチャー企業に話を持ちかけたところ、1時間の協議でぜひやろうと決まり、条件として小野薬品の権利の放棄を提案された。そこで小野薬品にその提案をしたところ、今度はちょとまってくれという。その後3カ月、突如小野薬品がやるということになった。それは結構だと、そこから実施権を許諾した。その後、我々の特許を見て、当時抗CTLA4抗体も開発していた米Medarex社(BMS社)が、小野薬品に共同研究を持ちかけ、結局共同研究の話がとんとんと進んだ。今振り返ると、実用化しようにもパートナーが見つからないという時が一番大変だった」

――製品の実用化で収益を得た企業からアカデミアへ還元があってしかるべきだと話している。
 「小野薬品工業は、研究自体に貢献したわけではなく、抗PD1抗体の特許を実施許諾している関係だ。それに対して、大学に十分なリターンを入れてもらいたいと思っている。そうすれば、基金を作り、次世代の研究者がその基金で研究をして育ち、新たなシーズにつながる。それをまた日本企業に還元するというのが、望ましいウィンウィンの関係ではないか」

――日本の製薬企業については。
 「日本の製薬企業は、多くの問題を抱えていると思う。まず、企業数が多い。世界のトップは20社、30社がせいぜい。しかし日本には、新薬の研究開発をてがけるところだけでも30社以上ある。資本規模、国際的なマネジメント、研究開発などで非常に劣ることになる。また、日本のアカデミアには結構良いシーズがあるのにもかかわらず、日本の製薬企業は日本より海外の研究者と組んで、研究費を出している。見る目が無いと言わざるを得ない」

――基礎研究を臨床応用するコツについては。
 「基礎研究を手がけてはいるが、いつも医療応用、社会還元は頭にあった。だから特許なども積極的にとってきた。私はゴルフが好きでよくゴルフ場に行くが、ある日知り合いがやってきて、『この前が最後のラウンドだと思っていたのにあなたの薬のお蔭でまたゴルフができる』と言われたことがある。自分にとって、これほどうれしいことはない。ノーベル賞の受賞より、その一言で十分だと思っている」

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