「血液1滴から13種のがん発見」、実用化へ動きだす

国がん中央病院で臨床研究開始、3年後に人間ドックのメニューへ

2017/08/03 08:00
大下 淳一=日経デジタルヘルス

 1滴の血液から、13種類ものがんを超早期に発見する――。国立がん研究センターは2017年8月、そんな技術の実用化を目指した臨床研究を同センター中央病院で始める。これまでは同センターのバイオバンクに保存された血清検体などを使った検証を進めてきたが、患者から新たに採取する血液による検証をいよいよ始める格好だ。血液や尿、唾液など、簡便に採取できる体液サンプルでがんを検出する、いわゆるリキッドバイオプシーの“本命”とも見なされる技術が実用化へと大きく動きだす。

 国立がん研究センターの研究倫理審査委員会が2017年7月、臨床研究の実施を許可した。患者登録期間は2年間を予定し、3440人分のデータを集める。がんの診断がついた患者約3000人と、健常な男女約200人ずつを対象にする予定だ。3年後をめどに、がんの1次スクリーニング法として、まずは自由診療の枠組みで人間ドックのメニューなどとして実用化することを目指す。臨床研究に参画する企業は、この研究を体外診断薬の臨床性能試験と位置付け、薬事承認申請につなげたい考え。

プロジェクトの全体概要(出所:NEDO)
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 今回の臨床研究は、国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野 主任分野長の落谷孝広氏が主導する国家プロジェクトの成果に基づく。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2014年度に、国立がん研究センターや東レ、東芝など9機関と共同で始めた「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト」がそれだ(関連記事1)。がん細胞が分泌するマイクロRNAに着目し、乳がんや大腸がんなど、各臓器のがんにそれぞれ特徴的なマイクロRNAを組み合わせて、がんの超早期発見につなげる。

 対象とするがんは、胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫の13種類である。実施期間は2018年度までで、現在は日本医療研究開発機構(AMED)がプロジェクトを引き継いでいる。

 このプロジェクトで解析対象にするマイクロRNAとは、20個前後の少数の塩基から成るRNA(リボ核酸)のことで、人間の体内には2000種類以上が存在する。近年、がん細胞を含むさまざまな細胞が分泌し細胞間の情報伝達などに関わるエクソソームや、エクソソームが内包するマイクロRNAががんの増悪や転移に深く関わることが明らかになってきた(関連記事2)。しかも、マイクロRNAには腫瘍が小さいうちからそのがん細胞の特性を反映するという特徴がある。画像診断や現行の腫瘍マーカーでは見つかりにくい、超早期ともいえる段階でがんを発見できる可能性があるわけだ。

13種類のがんのマーカー候補が出そろう

 落谷氏らは、各臓器のがんにそれぞれ特徴的なマイクロRNAが複数存在し、がんの罹患によってそれらの血液中の量が変動することに着目。新たな疾患マーカーとしてのマイクロRNAの可能性を、国立がん研究センターのバイオバンクに保存された血清検体など、約4万3000検体を使って検証してきた(関連記事3)。今回、「13種類のがんについて、早期診断に向けたマイクロRNAの候補が出そろった」(国立がん研究センター研究所の落谷氏)ことを受け、臨床研究に乗りだす。マイクロRNAの候補は各がんにつき数個ずつ程度で、合計で100種類強に絞ることができたという。

国立がん研究センター研究所の落谷孝広氏
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 血清検体を使った検証でこれまでに得られた結果は、驚くべきものだ。病期がI期やII期という比較的早期のがんを中心に検証を行い、多くの臓器のがんで「95%以上の検出感度が得られている」(落谷氏)という。特に、乳がんや大腸がんでは非常に確度の高い検出が可能になってきた。

 ただし、バイオバンクの検体は保存中に分解されるなどの影響を受ける可能性があることから、臨床研究では新たに採取したフレッシュなサンプルで効果を確かめる。落谷氏らの手法では現状、検出の感度は95%以上だが、特異度は90%前後にとどまっている。そこで臨床研究では健常者約400人をコントロール群として組み入れることで、特異度の向上を狙う。

 落谷氏らの成果などに触発される形で、最近ではマイクロRNAに関する研究が各所で盛んになっている。内視鏡や針を使って腫瘍組織を採取する従来の生検(biopsy)に代えて、血液などの体液サンプルを使ってがんの診断や治療効果予測を行うリキッドバイオプシー(liquid biopsy)の手法として、マイクロRNAの検出を本命視する向きもある。

 AI(人工知能)のような、最先端の解析技術との相性が良さそうなことも大きな魅力だ。国立がん研究センターは2016年11月、がん患者の臨床情報や、ゲノム/エピゲノム/血液などの網羅的生体分子情報(マルチオミックスデータ)、さらには疫学データや文献情報までをAIで解析し、患者個々人に最適化された医療を実現するプロジェクトを開始。この中でも「マイクロRNAや血液検査の結果に基づくがんの早期診断システムの開発」がテーマの一つに選ばれた(関連記事4)。マイクロRNAによるがんのスクリーニングにAIを活用することで、高い精度の検出につながる可能性を示す結果が既に得られ始めている(関連記事5)。