これがオンライン診療の現場、「臨時往診がゼロに」

福岡市の2医療機関が在宅・外来での実施例を報告

2018/02/28 10:30
大下 淳一=日経デジタルヘルス

 「臨時往診なしに、在宅で看取りができた。まさにオンライン診療のお陰だ」――。福岡市とその近郊で在宅医療を提供している、たろうクリニック院長の内田直樹氏はオンライン診療の有用性についてこう話す。看取り期の80代の男性に対して、訪問診療にオンライン診療を組み合わせることで、効率的で質の高いケアを提供できたという。

 たろうクリニックは、福岡市と福岡市医師会、医療法人社団鉄祐会、インテグリティ・ヘルスケアが2017年4月に開始した「ICTを活用した『かかりつけ医』機能強化事業」に参加。経験した症例について、「実証参加医師からみたオンライン診療 ―訪問診療ケース報告―」と題して「日本遠隔医療学会 スプリングカンファレンス(JTTA Spring Conference)2018」(2018年2月10~11日)で発表した。

たろうクリニック院長の内田直樹氏
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 この実証事業には、福岡市の複数の医療機関が参加した。まずは医療機関の外来待合室でiPadによるオンライン問診を実施し、同年8月からはスマートフォンのビデオチャット機能を用いたオンライン診察も始めた。内田氏の発表は、このうちオンライン診察に関するものである。

訪問診療の効率の悪さを補う

 たろうクリニックは、約650人の患者に対して訪問診療と臨時往診を提供している。内科や外科など複数科の医師が在籍し、対象患者の多くは認知症を伴う高齢者である。

 今回の実証に参加しようと考えたのは、訪問診療の効率の悪さを実感してきたからだと内田氏は説明する。「診察時間よりも移動時間の方が長い日もある。訪問診療がオンライン診療に取って代わられるのではないかという危機感もあった」。

 報告したのは、アルツハイマー型認知症と悪性リンパ腫を患う80代男性の事例。この男性はもともと夫婦で暮らしていたが、夫婦ともに認知症が進行したため、娘と同居することにした。男性は2016年9月に娘とともにたろうクリニックを受診し、それからは定期的に外来に通っていた。

 ところが2017年になって悪性リンパ腫が進行し、余命1~2カ月と考えられる状況になった。そのため、同年7月から在宅でのケアに切り替えた。2週間に1回の訪問診療を行いながら、その合間をスマートフォンのビデオチャット機能によるオンライン診察で補う形だ。

 初回のオンライン診察は2017年8月8日に実施。夏バテ気味で食事量が半分に減ったことなどを確認するとともに、悪性リンパ腫による発赤が広がっていることをオンライン画面で確認した。

 2回目はその2週間後の8月22日。男性は横になっていたものの、声掛けには反応して会話ができた。排尿回数が減り濃縮尿になっていることを把握するとともに、悪性リンパ腫の発赤の状態をオンライン画面で確認し、軟膏の種類を変更した。

オンラインだからこそ患者状態がよく分かる

 3回目のオンライン診察はその1週間後の8月29日。前日から痙攣が続いているとの話だったが、悪性リンパ腫による攣縮(れんしゅく)であることがオンライン画面から分かったため、坐薬を中止した。既に自尿が止まっていたこともあり、看取りが近いと判断して、親族を呼ぶように伝えた。そしてその日の夕方に臨時往診に向かい、看取りに立ち会った。この間、看取りの日を除けば臨時往診に赴く必要は生じなかった。

 この事例では、オンライン診察の有用性を4つの面から実感したと内田氏は話す。すなわち(1)移動時間を削減できた、(2)往診に行くかどうかを判断しやすくなった、(3)皮膚の状態や攣縮などを確認することで適切な判断をくだせた、(4)顔を見ながら話せるので患者や家族に安心感を与えられた。

医療機関向けオンライン診療システム「YaDoc」画面イメージ(出所:インテグリティ・ヘルスケア)
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 (3)に挙げた患者の外見上の変化は、看護師が担当医に口頭で伝えるといったやり方では医師が正確な判断をくだしにくいという。オンライン画面上で直接、状態を確認できる利点は大きかった。

 (4)に挙げた安心感については、患者の状態が急変しやすい不安定な状況にあって、常に医師とつながっているという思いを患者や家族に与えることができた。しかも患者や家族にとっては「家にいながら診察を受けられるので、病院の診察室にいる時のような緊張感を感じにくい。結果として、生活上の困りごとなどを思い出しやすくなる」(内田氏)。

 患者家族の満足度も高かった。「母親が通っている物忘れ外来にも、ぜひオンライン診療を導入してほしい」。父親を看取った後、娘からそんなリクエストがあったという。

 一方で、内田氏はオンライン診療の課題も指摘している。医師と患者、家族の間の信頼関係が前提になること、対面診療を完全に代替することはできないこと、スマートフォンなどの機器を使い慣れている必要があること、コストの問題などだ。

「生活の場」での医療を可能に

 にのさかクリニック(福岡市)院長のニノ坂保喜氏も、実証に参加した医師の一人。「実証参加医師からみたオンライン診療 ―外来診療ケース報告―」と題し、外来診療にオンライン診療を導入した事例を報告した。

 にのさかクリニックは外来診療と訪問診療を行っており、常勤医2人、非常勤医7人、看護師10人の体制で1カ月に約500人の患者を診ている。

にのさかクリニック院長のニノ坂保喜氏
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 今回、高血圧症や糖尿病など生活習慣病患者の外来診療にオンライン診察を取り入れ、その効果を検証した。糖尿病を患う80代男性の例では、1カ月に1回ほどの外来診療の合間をオンライン診察で補った。この患者は病状が不安定で3年前には脳梗塞も発症しており、通院に家族の介助が必要なことから、オンライン診療が有用と考えた。

 こうしたケースでのオンライン診療の利点としてニノ坂氏は、受診のハードルを下げられることや、密度の高い診療を提供できることを挙げている。患者や家族の“生活の場”に触れられるメリットも大きい。「医療者にとってはオンライン画面を通して患者や家族の生活の様子が見え、患者や家族にとっては生活の場から話ができる。結果として、医療者に対して気軽に相談できる関係性を築きやすい」。

 一方、オンライン診療に関する懸念として、便利であるがゆえに患者や医師が対面診療を軽視する姿勢につながる恐れがあるとした。そうなってしまえば、オンライン診療を使うことで異常の発見がかえって遅れるといったリスクもあるとニノ坂氏は指摘している。