メガソーラービジネス

「間違った雑草対策でメガソーラーが悪者に」。緑地雑草科学研究所・理事に聞く(第3回)

メガソーラービジネス・インタビュー

2016/10/12 00:00
金子憲治=日経BPクリーンテック研究所

緑地雑草科学研究所(福井県鯖江市)で理事を務める伊藤幹二氏(マイクロフォレスト リサーチ代表)と伊藤操子氏(京都大学名誉教授)に、メガソーラー(大規模太陽光発電所)における雑草対策のあり方などについて聞いた。過去2回のインタビュー記事では、雑草リスクとその対策の方向性を聞いた(関連記事1)(関連記事2)。3回目となる今回は、実際にメガソーラーの防除プランを立てる場合の筋道などについて聞いた。

緑地雑草科学研究所・理事の伊藤操子氏と伊藤幹二氏
(出所:日経BP)
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――これまでのインタビューで、メガソーラーに合った雑草管理のプラン(最良管理慣行)を構築する必要性を強調していました。こうしたプランを確立できた場合、雑草管理は、どんな頻度で、どの程度のコストになりそうでしょうか。

伊藤(幹) 具体的に管理プランが決まってみないと正確なことは言えませんが、イメージ的には、土壌の前処理(雑草地下茎のクリーンナップなど)を行った場合、年に1~2回、土壌の前処理を行わなかった場合、年に5回とか3回、理想的には、初年度に3回、次年度に2回、3年度目に1回というのが目標になります。

 コストについても具体的な対策次第ですが、1m2当たり高くて1回100円以上、一般的には50円台、10円台というようなレベルです。今後、メガソーラー事業の雑草防除の体系を確立していく中で、管理コストの相場も決めていく必要があります。

 例えば、すでに雑草の管理体系が確立している水稲の場合、1m2当たり1回3円、ゴルフ場で同10円、鉄道敷で同30円程度が相場になっています。もちろんこれはある程度の広さが前提になります。水稲なら1ha、ゴルフ場なら30haが1サイトの平均です。

 逆に言えば、既存の施設で、雑草防除にかけるコストはこの程度とも言えます。

―― 一概にメガソーラーの雑草対策といっても、住宅地に近いか、山奥で人家から離れているか、などで想定する雑草の生え方のイメージはかなり違います。

伊藤(幹) 実際に雑草管理プランを作っていく過程では、まさにその点が重要になります。つまり、目標とする「雑草の状態」をどのように設定するかです。

 防除対策の目指す雑草の状態には大きく、以下の4タイプがあります。(1)雑草を発生させない。(2)雑草を低草高に維持する。または、低い背だけの雑草植生にする。(3)雑草量を削減して、管理作業を軽減する。(4)芝生など被覆植物で維持管理するーー。

伊藤(操) 加えて、空間的にどの程度を想定しているのか、全面なのか一部でいいのか、例えば、フェンスなど周辺をどうするのか。そして、時間的な目標、つまり、1回の対策でどの程度の期間、目標とする状態に維持しておくのか、という点もあります。

5つの環境負荷のリスクを評価

伊藤(幹) こうした目標となる雑草の状態を決めるには、そもそも「雑草管理の目的」を想定しておくことがその前提になります。

――短期的な売電収入だけを考えれば、雑草はパネルに影を落とさなければよいことになります。実際、背が高い草だけを抜いている、というケースも多いです。

伊藤(幹) ここで注意を喚起したいのが、施設の存在が、地域環境に与える影響です。この場合の環境負荷には、大雨の際に敷地から流れ出る「表面流水」とそれによって表土を流す「掃流水」、日光の反射などによる「熱汚染」、二酸化炭素(CO2)の吸収源としての役割、そして、アレルギー物質や害虫の飛散など「雑草汚染」など5つがあります。こうした影響もリスク評価しておくことが必要です(図1)。

図1●主な施設の地域環境への負荷
「有」は環境被害あり、「一部有」は環境被害が一部あり、「無」は環境被害はほとんどない。(出所:緑地雑草科学研究所の伊藤幹二・理事の資料を基に日経BP作成)
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 メガソーラーの周囲に与える環境負荷は、ほかの施設に比べて、相対的に見て、小さいとは言えません。雨どいのない屋根が並んでいるのと同じなので、表面流水の問題や熱汚染の恐れがあり、加えて、除草対策をしないと雑草が繁茂します。

伊藤(操) 実は、ゴルフ場は自然破壊のイメージがありますが、芝生に覆われ、残置森林が多いため、実際の環境負荷は相対的に大きくありません。

――閉鎖したゴルフ場の跡地にメガソーラーを建設するケースも多く、その場合、残置森林は維持されますが、フェアウエイの芝生はなくなります。

伊藤(幹) ゴルフ場の保水力は高く、表面流水の問題は起きません。適切な化学薬剤による雑草管理手法が確立されています。それでも、ゴルフ場が環境面で問題視されがちなのは、新しい施設だからです。これまでなかったものは、悪者にされやすいのです。

 メガソーラーは、ゴルフ場に比べると、周辺環境への負荷が増える方向になる上に、やはりこれまでにない新しい施設です。今後、何かのきっかけで、ゴルフ場に代わって攻撃のターゲットになる恐れもあります。環境負荷を評価し、対応しておけば、訴えられた場合に反論できます。負荷の1つである「雑草汚染」への対策は重要です。

機械除草は最もコストが高い

伊藤(幹) 雑草汚染という点では、道路敷なども、地域への環境負荷がかなり大きいのですが、それほど問題視されません。それは、道路は地域の重要インフラで、昔からあるものだからです。メガソーラーは、新参施設で、地域にとって必須でもありません。

伊藤(操) その道路敷さえも、雑草の繁茂を放置していると、住民から苦情が出てくるケースが増えているようです。道路行政の当局も、雑草対策への配慮を強化しています。

 単にパネルに影が掛からなければよいと考えるのでなく、地域環境への負荷を意識してそのリスクを診断し、雑草管理の目的を設定すべきでしょう。評判リスクにも配慮し、雑草の発生自体を抑制するのが理想的に思います。

――前回のインタビュー記事で、5つの対策(機械除草、化学薬剤、防草シート、被覆植物、植物性資材)を挙げました。それぞれの大まかな特性を教えてください。

伊藤(幹) まず、「機械(草刈機)による除草」は、除草管理技術の中でも、最もコストの高い方法というのが世界の常識です。雑草を抑制できる期間と、それに投じた作業時間や機械の稼働時間、燃料消費、CO2排出を考えると、相対的に費用対効果に劣っています。

 「防草シートの敷設」は、除草管理技術の中でも、最も長く雑草を抑制できる方法です。一般的に1回の敷設で5~10年間、雑草を抑制できます。ただし、場当たり的な敷設は景観を悪化させ、費用対効果の低下につながります。

 「被覆植物(グランドカバープランツ)の植栽」は、防草管理技術のなかでも、最も安価な方法と位置付けられます。何しろ、自ら繁殖して地表を覆ってくれます。シバが地面を覆うことで、雑草の種が地面に落ちて発芽するのを抑制する効果があります。1回の植栽で根付けば、費用対効果は高いと言えます。

 「化学薬剤(除草剤)の散布」は、雑草管理技術の中でも、精緻で正確に雑草を除去できる方法です。例えば、30日、60日、90日、120日などと、ほぼ正確に雑草の発生を止められます。また、有用植物と雑草を選択的に制御できることも特徴です。

 雑草管理のプランでは、これらのうち、どれか1つではなく、特性に合わせて組み合わせることになります。例えば、多少、コストをかけても雑草を抑制したい部分だけに防草シートを敷いたり、一定の期間だけ除草剤で抑制したりするなどのケースです。とにかく低コストで長期間、一定の防草効果を持続させるには、シバを植栽します。

クローバーに防草効果はない

――こうして見ると、費用対効果の高い管理技術として、被覆植物に優位性があるように感じます。実際にクローバーを植栽しているメガソーラーをよく見かけます。

緑地雑草科学研究所の伊藤操子・理事(京都大学名誉教授)
(出所:日経BP)
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伊藤(操) シバの防草効果を研究したことがあります。シバを植栽後、1、2年の間は、種が落ちて定着する雑草もありますが、3年すると、ほぼ雑草は生えなくなります。シバの茎葉が地面との間に密集してバリアーになり、落下した種子の発芽を阻害する効果が確認できました。シバは、保水効果や景観上もメリットがあるため、米国などでは、多くの施設で採用されています。

 ただ、クローバー(シロツメクサ)の防草効果については懐疑的です。クローバーは、「緑肥植物」として、牧草や果樹園に植栽しますが、雑草を抑える効果は、限定的です。夏季の高温乾燥時に衰退するので、通年の被覆植物としては適切な種とはいえません。

――国内の多くのメガソーラーでは、地域社会に配慮して、除草剤の利用を控えているケースが目立ちます。

伊藤(操) 日本では、「除草剤はダメだけど、機械除草は良い」という風潮があります。除草剤の代わりに草刈機で刈り取る、という考え方ですが、そもそも除草剤と機械除草では、機能が違います。除草剤には、刈り取りよりも抑草期間が長いものや、地下茎の成長点に作用して多年草を根絶できるものもあります。

 除草剤のイメージが悪化したのは、こうした優れた機能を持つ化学薬剤の利点などを、自治体や事業者が認識しておらず、メーカーも積極的にアピールしてこなかったことも1つの要因になっていると思います。

「除草剤=毒薬」となった背景

伊藤(幹) 除草剤に対する一般人のイメージダウンとは裏腹に、地方では、ほぼ100%の農家が除草剤を使っています。背景には、すでに除草剤がなかったら、農作物を作れないという現実があります。就農人口が減っても、耕作面積がそれに比例して減っていないのは、除草剤が普及したことで、生産性が大幅に上がったからです。

 特に都市部で、「除草剤=毒薬」というイメージができてしまった背景には、「パラコート事件」が大きな影響を与えました。

 「パラコート」は、1980年代に爆発的に売れた除草剤で、草にかけるとすぐ枯れるので、機械除草の代わりに盛んに使われました。当初、「劇物」指定だったので、ハンコさえあれば誰でも買えました。その結果、自殺や犯罪に使われ死亡事故になりました。

 この除草剤は、解毒方法がなかったため、口に入るとものすごく苦しみました。一般的に殺虫剤は解毒方法を確立してから製品化しますが、パラコートは、治療法がないまま「劇物」で売られてしまったのです。多数の犠牲者が出た後、政府は、「毒物」指定に変更しました。この一件で、「除草剤=毒物」というイメージが世間に広がってしまったのです。

 現在では、同様の効果があり、毒性を大幅に弱めた除草剤が製品化されています。

伊藤(操) 実は1970年代まで、除草剤のイメージはむしろプラス方向でした。「公害雑草」と言われるほど、繁茂したセイタカアワダチソウの抑制に効果のある除草剤「アシュラム」が、テレビでも好感を持って紹介されました。これはセイタカアワダチソウの地下茎の成長点を止める画期的な薬剤です。

機械除草で多年草が生える

――除草剤を使った後、一斉に白く枯死した雑草を見ると、「猛毒」という印象を受ける面もあります。

伊藤(操) パラコートもそうでしたが、機械除草の代用として除草剤を使う運用方法も、立ち枯れで美観を損ね、化学薬剤のイメージを悪化させています。非農耕地用に売られている非選択性の除草剤の多くは、地上部を枯らせても、根や地下茎は生きているので、また生えてきます。機械除草と同様、一時的な対症療法に過ぎません。

 すでに説明したように除草剤の機能は、草の地上部を枯死させるだけではあません。むしろ、世界的にはそうした短期的な使用方法は例外的で、発芽を抑制したり、地下茎に作用して根絶させるなど、より根本的な防除に活用します。

 非耕作地の雑草防除体系は、まだ確立していませんが、平地と法面の違い、求める除草の程度などによって、除草剤を主体にした雑草管理法を大まかに想定できます(図2)。もちろん、周辺の有用植物に対して、流出による薬害が生じないような配慮は必要です。

図2●非農耕地の立地、除草目標、植生別の雑草管理法
(出所:伊藤操子著「雑草学総論」・養賢堂を基に日経BP作成)
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伊藤(幹) 「除草剤を使え」と言っているわけでありません。ただ、少なくとも機械除草による対症療法を繰り返すことは、コスト的にも、環境負荷の点でも得策とは思えません。ひと月もすればまた生えてきますし、刈り取り作業によって雑草の種子や花粉などアレルギー物質が飛散することになります。

伊藤(操) 機械除草によって1~2年生の雑草を刈ると、地面に光が入るので、種子からの雑草の発芽を促します。多年草は、地上部を刈り取ると、地下茎から再生します。つまり、機械除草によって、背の高い多年生の雑草が優勢な植生に遷移することになります。年12回、機械除草を頻繁に行えば、地下茎も枯死しますが、現実的ではありません。

メガソーラー向け管理プランの整備を

――複数の防除技術を組み合わせ、メガソーラーに合った除草管理プランを作成する必要性があると言っても、実際に、それを依頼できる雑草対策の専門家は、周囲にいません。

緑地雑草科学研究所の伊藤幹二・理事(マイクロフォレスト リサーチ代表)
(出所:日経BP)
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伊藤(幹) 農業分野の雑草防除は、作物ごとに管理マニュアルが出来上がっています。これらは国が支援して、何十年もかけて構築してきたものです。メガソーラーに関しても、まず国や業界団体などが資金を出し、雑草対策の基礎的なマニュアルを構築し、事業者はそれをベースに管理していく、というのが理想に感じます。

 また、緑地雑草科学研究所では、適切な雑草防除プランの実現に貢献できるような人材を養成する取り組みも進めています。「雑草インストラクター育成」プロジェクトがそれで、緑地や施設の管理に携わる人たちに、雑草防除に必須の体系的な基礎知識と、実践的な応用力を身に着けてもらうのが目的です。

 国内の太陽光発電所は、造成してまだ2~3年なので、対症療法的な機械除草などでも、何とかなっています。今後、背の高い多年草が徐々に増えていくと、地下茎を張るので適切な管理プランを策定しないと手に負えなくなります。

 メガソーラーが、21世紀の里山の造営物として、地域の基盤産業になるか、それとも、地域環境への加害者になるか、関係者の努力とやり方次第と言えます。