メガソーラービジネス

「防草だけじゃもったいない!マルチで環境改善を」、緑地雑草科学研究所に聞く(第6回・前半)

メガソーラービジネス・インタビュー

2017/08/31 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテック研究所
伊藤操子氏、佐治健介氏、伊藤幹二氏
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緑地雑草科学研究所(福井県鯖江市)で理事を務める伊藤幹二氏(マイクロフォレスト リサーチ代表)と伊藤操子氏(京都大学名誉教授)に、メガソーラー(大規模太陽光発電所)における雑草対策について聞く連載コラムの第6回。これまでに各論として、除草剤と被覆植物を取り上げた。今回は、佐治健介氏(緑地雑草科学研究所・事務局長、白崎コーポレーション)を加え、2回に分けて防草シートを含めた「マルチ(土壌被覆資材)」を取り上げる。前半は、主にマルチ技術の全体像について、その種類や機能、活用法などに解説してもらった。

「防草」だけでないマルチの効用

――今回のテーマは、「マルチ(土壌被覆資材)」によるメガソーラーの雑草管理ですが、「マルチ」という呼び方は、一般にはあまり使われません。

伊藤幹二氏
(マイクロフォレスト リサーチ代表)

伊藤(幹) 「マルチ(Mulch)」とは、土壌の表面を覆うことによって、地表の環境を改善する技術です。農業では、作物に適した環境を作ることが目的になりますが、営農以外でも幅広く使われ、防草効果のほか、多くの利点があります。太陽光発電所を対象にした場合、主に3つの効用が挙げられます。「保水効果」による土壌の固化防止、「地表高温化の抑制」、そして、「雑草発生の抑制」です。

――「防草シート」もマルチの1つになるのですか。

伊藤(幹) マルチ資材はまず大きく、有機資材と人工資材に分けられます(図1)。詳しくは、後述しますが、「有機マルチ資材」には樹皮や木材チップ、稲ワラなど、「人工マルチ資材」には、不織布シートや砕石、アスファルトなどがあります。いわゆる「防草シート」として販売されているのは、人工マルチ資材の不織布や織布のことです。

図1●マルチ資材の種類(出所:緑地雑草科学研究所)
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 今回のインタビュー記事で、「マルチ」という用語をまず前面に出し、「防草シート」をその1つであると強調したのは、「防草シート」というと、どうしても雑草を抑制する機能だけに焦点が当たってしまうからです。

 せっかくマルチ技術の手法を使うならば、マルチ資材の多くが持っている、保水効果や高温抑制の効果をうまく活用することが、メガソーラー事業全体にとって得策ですし、発電所の開発に伴う緑地の消失、環境負荷の増大をある程度、抑制できます。機械除草や除草剤にはこうした機能は期待できません。雑草対策のなかで、環境負荷を低減する効果のあるのは、被覆植物(カバープランツ)、そしてマルチだけです。

これはメーカーの販売戦略によるのですが、「防草シート」というと、こうしたマルチ技術の多機能性が見過ごされてしまいます。それではもったいないと思うのです(図2・図3)。

図2●有機マルチ資材であるスギ類チップを敷いた例(出所:保土谷UPL・角龍市朗氏)
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図3●人工マルチ資材である砂利を敷いた例(出所:保土谷UPL・角龍市朗氏)
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「組み合わせ」が重要

――取材でメガソーラーを訪れると、木材チップや防草シートを採用しているサイトも出てきています。ただ、それでも完全に雑草を防ぎきれないことも多いように見えます。

伊藤(幹) マルチ資材が、雑草の発生を抑えるのは確かですが、完全に除草するわけではありません。それがマルチ技術の限界とも言えるし、特徴でもあります。だからこそ、マルチ技術の全体像を理解し、複数のマルチ資材を同時に使ったり、他の除草手法と併用したりすることが、重要になります。

マルチ資材には、それぞれに特徴があり、組み合わせて使うことで、欠点を補えます(図4)。例えば、相対的に雑草抑制効果の高い不織布シートの上に砕石や木材チップを敷けば、紫外線による不織布の劣化を緩和できますし、不織布では効果の小さい高温化の抑制、保水効果など環境改善効果を木材チップが補ってくれます。

図4●マルチ資材の長所と短所(出所:緑地雑草科学研究所)
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また、マルチ資材の施工前や施工後に適切な化学薬剤を使えば、雑草の発生をかなり長期間、抑えられます(図5)。

図5●マルチ技術を組み合わせた例(出所:緑地雑草科学研究所)
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特産品を使って地域と共存共栄

――北海道では、ホタテの貝殻を敷いて雑草を抑制しつつ、地表からの散乱光を増やす試みもあります。

伊藤幹二氏
(マイクロフォレスト リサーチ代表)

伊藤(幹) 有機マルチ資材には、廃材チップや竹チップ、オガ屑や稲ワラ、芝生刈りカス、牡蠣やホタテなどの貝殻、コーヒー殻や茶殻などの残渣系のものも使えます。こうした資材は、地域の一次産業などから排出されるものです。残渣系資材をうまくマルチとして使いこなせれば、安く手に入るし、一次産業の事業者にとっても助かるはずです。

 有機マルチ資材を活用し、防草効果を持続させるためには、ある程度の厚みが必要で、定期的に補充する必要もあります。農林業や食品工場などから排出される残渣系の資材を定期的に低価格で調達できれば、地域の産業と共存共栄できます。メガソーラー産業が、地域の活性化に貢献できるのです。

 日本では、剪定枝や雑草やシバの刈りカスなどを焼却するのが当たり前になっていますが、欧米では、炭素が固定された有機廃棄物は極力、燃やさず、マルチ資材として長く利用することが、環境対策の面からも奨励されています。

――そもそも有機マルチ資材が防草効果を発揮するのは、なぜですか。

伊藤(操) マルチ資材で地表を覆うと、可視光を反射・吸収するので、もともと地中にあった雑草種子の発芽を阻害しますし、発芽しても生育を抑制します。被覆後は、新たな種子を地表面から遮断する効果もあります。

 加えて、資材から溶出する物質によっては、雑草の生育を阻害します。これを「アレロパシー効果」と呼びます。

群を抜くヒノキの雑草抑制効果

――有機マルチ資材によって、雑草の抑制効果に違いがあるのですか。

伊藤操子氏
(京都大学名誉教授)

伊藤(操) これに関しては、2003~2004年にかけて、京都大学付属高槻農場(大阪府高槻市)で実施した試験結果がたいへん参考になります。これは角龍市郎氏(保土ヶ谷UPL=東京都中央区)によるもので、2012年10月に開催された緑地雑草科学研究所・第4回シンポジウムでも報告がありました。

 この実験では、14種類のマルチ資材を使って、雑草の抑制効果と土壌保全機能(地温、水分含有量、土壌硬度)について調べました。14種類の内訳は、針葉樹4種(アカマツ、ヒマラヤスギ、スギ、ヒノキ)、広葉樹3種(ツツジ、キョウチクトウ、アセビ)、被覆植物2種(ヘデラ、オカメザサ)、芝類3種(コウライシバ、ノシバ、ライグラス)、雑草2種(ススキ・チガヤ、ネズミムギ・イヌムギ)です(図6)。

図6●高槻農場でのマルチ資材の効果実験・被覆2カ月後の様子(出所:保土谷UPL・角龍市朗氏)
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 木本類はチップ化し、草本類はシュレッダーで裁断、芝草類はロータリーモア(草刈機)で刈り取った刈りカスを試験場に一定区画ごとに土壌表面を被覆しました。

 雑草の発生本数と生長量を見ると、資材により差がありますが、すべての資材で雑草抑制効果が認められました(図7)。なかでも、針葉樹の雑草抑制効果が相対的に大きく、特にヒノキの生草量の抑制効果は、群を抜いていました。

図7●各種マルチ資材の被覆下から発生した雑草量(出所:保土谷UPL・角龍市朗氏)
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「竹チップ」の活用例も

――ヒノキのチップが雑草を抑制する効果が大きいのはなぜですか。

伊藤操子氏
(京都大学名誉教授)

伊藤(操) 実験結果では、資材ごとに遮光率に大きな差がない一方、土壌生物活性と雑草抑制効果に相関があることから、資材からの溶脱物質、つまりアレロパシー効果が大きく左右していることが推察されました。ヒノキの雑草抑制効果が大きいのも、溶出する物質によるものでしょう。

 こうした結果を見ると、例えば、地域の林業関係者などと提携し、定期的にヒノキのチップをマルチ資材として活用できれば、大きな除草抑制効果が期待できます。

伊藤(幹) こうした樹種による雑草抑制効果の違いのほか、部位による特徴もあります。枝打ちしたままの枝葉よりも木部のチップ、木部チップよりも樹皮や落葉の方が雑草抑制の効果は大きい傾向があります。

 また、食品残渣系を雑草抑制の大きい順に並べると、コーヒー殻、茶殻、サトウキビ残渣の順、農産物残渣では、トウモロコシ穂軸殻、麦・稲ワラ、モミ・ソバ殻の順になります(図8)。

図8●有機マルチ資材の部位別の雑草抑制効果(出所:緑地雑草科学研究所)
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図9●竹チップをマルチ資材に活用した例(出所:緑地雑草科学研究所)

 こうした残渣系のマルチ資材は、一次産業だけでなく、地域の食品工場と連携して、定期的に低コストで調達できる可能性もあります。

 また、竹林が増え、伐採した竹材の処理に困っているなか、竹をチップ化する技術が開発されています。竹チップをマルチ資材に活用すれば、地域からも喜ばれるでしょう(図9)。

地温を2~3度下げる効果

伊藤(幹) 一方で、マルチに向いていない有機資材をもあります。以前、オカラを使ったことがありましたが、臭いがきつくて大変でした。同様に広葉雑草の刈りカスや畜産廃棄物なども、被覆資材としては不適でしょう。

――有機マルチ資材の環境改善効果には種類よって違いがありますか。

伊藤(操) 高槻農場の実験では、表層5cmの地温と水分含有量についても調べました。それによると、いずれの有機資材も地温は、裸地区やシート被覆区に比べて低く、水分含有量は裸地区より高く、シート被覆区より低い傾向にありました。特に夏季の地温は裸地区に比べると、2~3度も低いことが分かりました(図10)。

図10●マルチ資材・被覆下表層5cmの地温の季節変化(出所:保土谷UPL・角龍市朗氏)
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――結晶シリコン系パネルを採用した太陽光発電所は、夏期には日射量が多い割に高温化の影響で発電量が伸びないのが実情です。有機マルチ資材は、発電量を増やせる可能性がありそうです。

伊藤(操) マルチ資材の「組み合わせ」の重要性についてすでに述べましたが、不織布などのシート系の資材は、有機資材に比べると防草効果については高くなります。従って、シートの上に木材チップや残渣系資材などを敷けば、雑草抑制と環境改善の両方を高めることも可能です(図11)。

図11●シートの上にマツ葉を被覆した例(出所:保土谷UPL・角龍市朗氏)
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(第6回・後半は防草シートを中心に9月7日掲載予定です)