メガソーラービジネス

どうなる中国の太陽光市場!?(後半)

「補助金に頼らない太陽光ビジネスに転換へ」

2018/08/14 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

 中国政府が今年6月に公表した太陽光発電に関する引き締め策が、世界の太陽光市場に波紋を投げかけている。この政策変更により、メガソーラー(大規模太陽光発電所)の建設は停滞を余儀なくされ、太陽光関連市場の縮小は必至とされている。中国の太陽光発電市場に詳しい、東北大学・未来科学技術共同研究センタの特任教授で中国太陽光パネルメーカーの顧問も務める陳宗欣(Jack Chen)氏に、太陽光政策に関する中国政府の動きや影響などを解説してもらった。

大規模案件は「割り当て」中断

東北大学・特任教授の陳宗欣(Jack Chen)氏

今年6月に公表された太陽光発電に関する中国政府の引き締め策は、具体的にはどのような内容の文書なのですか。

 ことの発端となったのは、中国の3つの省庁(中国国家発展改革委員会、財政部、国家エネルギー委員会)が6月1日に一般に公表した「太陽光発電に関する事項に関する通知書」という文書です。これは行政手続き上、5月31日に提出されたことから、「531ニューディール」または「ソーラーニューディール」とも呼ばれています。

 その主な内容は、次の5点です。(1)基本的に太陽光の買取価格や補助金を0.05元/kWh引き下げる。(2)今年の分散型太陽光を約10GWとする一方、大規模な地上設置型に関しては割り当てを一時中断する。(3)分散型太陽光発電は、5月31日以降の国庫補助金の対象には含まれず、地方自治体の法律によって支援される。(4)貧困を緩和する目的の太陽光発電所に関しては、買取価格を変更せずに維持する。(5)分散型太陽光発電所を含む通常の地上設置型発電所は、家庭用以外は競争力のあるコストで運用され、適正な価格の太陽光発電プロジェクトの開発と太陽光発電市場での取引を促進する。

日本から見ると、今回の引き締め策は唐突な印象を受けますが、この時期に中国政府が「531ニューディール」を出した背景には、何があるのですか

 中国の太陽光政策では、2020年にグリッドパリティに到達することを前提に、買取価格など補助金によって推進してきました。ただ、太陽光に対する補助金額はすでに2017年に850億ドルに達し、2020年には2000億ドルを超えることが予想されています。財政的にこれ以上の補助金増大を支えきれなくなったことがあります。

 加えて、すでに中国太陽光パネル産業は過剰設備の状態になっており、「531ニューディール」の公表前から、中国政府はこうした状況に手を打とうとしていました。実は、2018年4月には、国家エネルギー管理局長が、今年の太陽光発電の開発規模を管理する方向性を示していました。その意味では、事前に大きな政策変更のシグナルはあったのです。

53GWから28GWに市場縮小

「531ニューディール」は短期的にどんな影響がありますか。

 すでに太陽光発電関連の製品価格が下がり始め、投資家の中には太陽光関連企業の株式を売却し始める動きも出てきました。中国のかなりの太陽光関連メーカーが新規受注を確保できないようです。一部の生産ラインを停止したり、稼働率が50%未満に落ちたり、影響の大きい企業の場合、実質的に破産しているという報告もあります。こうした事態は「531ニューディール」の出された後に起こっています。

 現在、国内の太陽光発電の需要は、こうした極端な引き締め策によるショックで第3四半期には冷え込むと見込まれており、第4四半期には改善に向かうものの、昨年よりも低調に推移すると懸念されています。

 2018年6月時点で、すでに今年の新設規模は10GWを超えたと見られていますが、政策当局は、今年の目標を最大28GWと推定しており、今後、追加的な措置などがあっても、昨年の53GWからは大きく縮小するでしょう(図1)。

図1●太陽光発電システムの年間導入量の推移(2000~2017年)(単位:MW・DC)
(出所:IEA PVPS)
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 とはいえ、「531ニューディール」が出されて1カ月経ち、太陽光市場は徐々にこれを冷静に受け止め始めています。新政策によって今後、市場の成長速度が調整されていくなか、多くの太陽光関連企業は、新しい開発モデルを模索しています。「補助金に頼らない」太陽光発電プラントの開発・運営の在り方に挑戦しています。

ここまで極端な政策変更は、民間企業にとって影響が大きく、経営的に対応し切れない面もある気がします。中国の太陽光関連企業からの反発はないのですか。

 中国の11の太陽光関連企業が、「起業家からの緊急の懇願について」という共同声明を発表しました。この声明で提案された主なポイントは以下の通りです。

(1)合法的に建設が承認された太陽光開発プロジェクトには一定の緩和期間を与える。(2)割り当て削減の規模はあまり大きくすべきではない。太陽光産業の現状を考慮し、中長期計画の立案を徹底し、厳格に施行する必要がある。(3)地方分権型の小規模な工業的および商業的な自営業者と、家庭の太陽光システムは別々に対応することが望まれる。(4)分散型太陽光発電の市場取引を促進し、太陽光産業の健全な発展を促進する。(5)買取価格など補助額の調整には、明確な時間的余裕を伴っていなければならず、産業側のコスト構造を考慮すべきである。

企業淘汰で市場は健全に

ここ数年、中国の太陽光市場の伸びは世界でも群を抜いており、世界の太陽光産業を牽引してきました。「531ニューディール」は中国の太陽光業界に長期的にどんな影響を与えますか。

 短期的には太陽光市場が縮小し、ローエンド製品のメーカーや小規模の企業にとって致命的な打撃となり、倒産や工場閉鎖が起こり、企業の淘汰が進みます。企業にとって厳しい状況になりますが、長期的には太陽光産業を強くすると見ています。太陽光発電事業のサプライチェーンなど、産業間の統合を加速することで、グリッドパリティの達成を早める可能性があります。

 「531ニューディール」は補助金を必要としないプロジェクトを推進しているため、今後は、こうした低コストの開発案件が残り、中国の国内太陽光市場は年間数十GWの規模で推移すると見ています。そして、それに対応できる優秀な企業に受注が集中することになるでしょう。中国市場は縮小しますが、より健全になるということです。

日本でも系統運用の問題から、2015年に「九電ショック」と呼ばれる「接続申し込みの保留」があり、太陽光市場に悲観論が広がったことがありました。中国でも急激な太陽光の導入に、電力系統が対応できなくなった面もあるのですか。

 中国でも日本と同様、系統連系の壁が問題になっています。広大な国土に分散する再生可能エネルギーを消費地に送電する系統インフラが不足しており、その整備が大きな政策課題になっています。2020年までに誰もが低コストで系統に接続できることを目指していますが、1年前倒しし、2019年には連系が比較的、容易になると期待しています。

 中国ではすでに太陽光は、最も安いエネルギー源の1つになっていることから、系統連系が安く容易になれば、需要はまだまだ広がります。無限とも言えるほどの開発用地があることから、系統問題が克服されれば、潜在的な巨大市場が顕在化します。

発電コスト低下で新興市場が活性化

中国国内の市場が縮小することに対応し、中国メーカーは海外市場の開拓を強化することになるのでしょうか?

 相対的に言えば、世界の太陽光市場は堅調です。2017年に世界の新規設備市場は107GWに達し、2018年には120GWに達するとの予測もあります(図2)。一方で中国の国内市場が調整局面を迎えたことから、中国企業は輸出規模を拡大することになるでしょう。海外市場をさらに伸ばす新たな戦略がたいへん重要になっています。

図2●太陽電池の世界市場の推移
(出所:富士経済)
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 もともと中国の国有企業は、国内市場で有利な立場もあり、必ずしも海外市場の開拓に熱心ではありませんでした。「531ニューディール」は、こうした内向きの企業が海外市場に本腰を入れる契機なります。国内市場はすでに過当競争で利幅が薄かったこともあり、海外戦略がうまくいけば、収益性を改善できる可能性もあります。

中国の政策変更が、太陽光の世界市場に大きな影響を与えることになりそうですね。

 中国の太陽電池産業は、今のところ、世界で最もコスト競争力があり、その結果、中国企業の太陽電池セル(発電素子)とモジュール(太陽光パネル)の生産量は世界全体の生産規模の75%を超えています。

 こうした状況のなかで、中国市場が短期間で急速に縮小することから、世界的に深刻な供給過剰に陥るでしょう。それは、製品価格の急激な低下となって表れ、国際市場にも大きな影響を与えます(図3)。

図3●下落が続くとみられる太陽光パネルの価格トレンド
(出所:EnergyTrend)
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 一方で、こうした製品価格のもう一段の低下は、世界的に太陽光の発電コストを低下させ、多くの国でグリッドパリティの到達を早めます。

 太陽光発電の新設市場が成熟した国では、買取価格も下がり、市場が停滞していますが、そうした成熟市場が再び活性化する可能性があります。加えて、まだ太陽光発電が普及していない多くの新興国では、コストダウンにより普及が本格化することになります。そうなれば、ギガワット(GW)規模の新市場がいくつも生まれます。こうした新たな太陽光市場が、中国の市場縮小を補い、世界市場の拡大を牽引していくことも期待できます。