メガソーラービジネス

「草刈りは回数で決めない。草高30cmを基準に」。緑地雑草科学研究所に聞く(第7回・前半)

メガソーラービジネス・インタビュー

2018/06/14 05:00
金子 憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ
緑地雑草科学研究所の佐治健介・事務局長、伊藤幹二・理事、伊藤操子・理事

 緑地雑草科学研究所(福井県鯖江市)で理事を務める伊藤幹二氏(マイクロフォレスト リサーチ代表)と伊藤操子氏(京都大学名誉教授)に、メガソーラー(大規模太陽光発電所)における雑草対策について聞く連載コラムの第7回。これまで総論に続き、各論として、「除草剤」「カバープランツ(被覆植物)」、「防草シートなどマルチ(土壌被覆資材)」を取り上げた(関連記事)。今回は、2回に分けて「刈り取り」を解説する。前半は、主にメガソーラーの雑草管理に機械除草を採用する場合の基本的な考え方など、後半は刈り取りによって雑草の植生がどのように変化するのか、などがテーマになる。

草の刈り取りは「除草」ではない

これまで雑草管理の手法として、除草剤、カバープランツ、マルチを取り上げました。こうした複数ある防草手法の中で「刈り取り」はどのように位置づけられますか。

緑地雑草科学研究所の伊藤幹二氏
(マイクロフォレスト リサーチ代表)

伊藤(幹) すでにこのコラムで繰り返し強調してきましたが、まず、雑草管理には「これが一番良い」というような方法はありません。事前調査によって、その用地区分や雑草の管理目的、環境リスクなどに対応した最適なプログラムを作ることが必要です。それは、ほとんどの場合、複数の手法を組み合わせていくことが効果的になります。

 残念ながら、日本では雑草管理に関し、「伸びてきたら刈ればよい」との安易な考え方が多く、全国で膨大な量の雑草が機械除草によって刈り取られています。その量は、自治体の管理する道路、河川、公園だけで年間190万t(乾草重)を越えます。

 しかし、「刈り取り単独の雑草管理」は、コスト的に最も高くつく手法であり、費用対効果に乏しいというのが、欧米先進国の雑草管理では一般的な評価になっています。加えて、刈り取った草は、外に持ち出せば産業廃棄物になります。

国内のメガソーラー(大規模太陽光発電所)でも、刈り払い機などの機械除草が最も多く採用されています。

伊藤(幹) 雑草管理の「目的」と「手段」を混同していることが根底にあります。メガソーラーにおける雑草防除の目的は、第一に草の影で発電量を減らさないこと、つまり「経済的な実害発生の防止」、第二に雑草に起因する害虫や種の飛散など、「環境的な実害拡大の抑制」のはずです。本来、こうした目的に沿って、除草剤、カバープランツ、マルチ、そして、刈り取りの特徴を生かし、科学的に対処するのが理想です。

 そもそも、雑草の刈り取り作業は、本質的な意味で「除草」ではありません。刈り払い機などの機械除草でできることは、雑草の地上部を一時的に除去したり、草高を一律に揃えたりするだけです。それは、雑草の「根絶」や「防除」とは違います。

「作業性」と「景観」で機械除草に

「除草」でないのにかかわらず、なぜ、メガソーラーでは機械除草が採用されてしまうのでしょうか。

伊藤(幹) 機械除草は比較的、作業性も良く、短期的ですが、一定の景観を実現できる面があり、それが導入されやすい背景でしょう。

 「機械による雑草防除」の長所と短所をまとめてみました(図1)。メガソーラーでは「茎と葉の刈り払い」しか採用されませんが、機械による雑草防除には、このほか、耕うん機で地面を掘り起こす「土壌耕うん」があります。

図1●機械による雑草防除の長所と短所(注:◎優れる、○効果あり、△劣る、×無効または悪い)
(出所:緑地雑草科学研究所の資料をもとに日経BP作成)
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 土壌耕うんは、雑草の生育初期から生育期に行うと効果が大きく、作業性も良いという特徴があります。このため農家はまず耕うん機で土壌を掘り起こしてから適切な除草剤を使います。これだけでかなりの防草効果があります。

 一方、「茎葉刈り払い」は、作業性と景観維持で利点があります。除草剤など化学薬剤に比べると、専門的な知識がなくても、草種や生育期を選ばずに実施でき、一定の景観を即座に形成できます。メガソーラーの管理で選ばれやすいのは、まさに「作業性」と「景観」の利点からです。ただ、こうした利点は、刈り払いを請け負う業者にとっては都合が良いですが、本来の目的である雑草防除の効果としては不十分です。

稼働して数年経ったメガソーラーを取材すると、「稼働1年目は1回で済んだ機械除草が、いまでは春夏に2回以上、刈らないととても間に合わない」との声をよく聞きます。

伊藤(幹) 雑草は、刈り取りによって増えたり、広がったりする性質があります。その結果、「刈り取り」対策は、年間を通じてみれば、雑草の生育総量(バイオマス総量)を増加させてしまいます。「刈れば刈るほど増えるのが雑草」なのです。つまり、刈り取りによって、雑草を増やし、それを刈ることで廃棄物を増やしています。

 さきほど、日本の雑草管理では、目的と手段を混同していると言いましたが、年に数回程度の場当たり的な刈り取りでは、本来の目的とは逆の結果を招くことになります。

植生高「30cm」を基準に刈り払う

伊藤(幹) もちろんコストを度外視し、刈り取りの頻度を極端に増やせば、草の再生量は徐々に減っていきます。例えば、多年生イネ科のセイバンモロコシは繁茂すると1m以上にもなり厄介な雑草ですが、年6回も頻繁に刈り取れば、再生率は3%まで下がりほぼ除去できます。しかし、ここまで手間とコストかけることは現実的ではありません。

 防草の目的は、本来、雑草被害の発生防止とその対処費用の削減です。メガソーラーのような新しい造営物地で、いかに費用対効果の高い雑草管理を行うかは、これまで蓄積されてきた雑草に関する知見を生かしながら、科学的に対応していくことが必要です。

とはいえ、一般的な太陽光発電事業者は、雑草に関する知見がほとんどなく、短期的に安く手近な方法として、機械除草を選んでいるのが実態です。次善の策として、機械除草単独で対応するとしたら、どんな手法が推奨されますか。

伊藤(幹) そうしたニーズがあることも理解できます。そこで、緑地雑草科学研究所では、メガソーラー向けに刈り取り単独による雑草管理基準を考案してみました(図2)。

図2●メガソーラーを想定した「刈り取り」による雑草管理の基準
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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 まず、メガソーラーの敷地内とフェンス外縁部などの施設外は、別の基準で対応します。刈り取りのタイミングは、雑草の植生高(平均的な高さ)を基準にし、施設内は30cm、施設外は20cmになったら、地上部を刈り払うことを基本にします。

 施設内であれば、刈り取り後、雑草が30cmまで再生したら、再び地上部を刈り払います。つまり、植生高を30cm以上に放置しないことを目指します。そして、刈り取った草はすべて敷地内に残置し、外部に搬出しないことを原則にすべきです。廃棄物となって処理コストがかかりますし、焼却するよりも土に戻すほうが環境的にも好ましいからです。

クズはフェンスを上らせない

伊藤(幹) 植生密度や植生量(雑草量)に関係なく、植生高だけを基準にするのがポイントです。従って、稼働1年目の新設備や肥料分に乏しいサイトでは年に1回で済むかもしれませんし、稼働後、数年経ち、肥沃なサイトでは5回になるかもしれません。

 逆に言うと、刈り取りの基準は、予算に基づいて年間の回数を決めるのではなく、あくまで雑草の状況に対応して決めていきます。ここまで徹底して植生高を抑えて初めて「適切な管理」と言え、周辺環境に対して問題を起こさず、風評リスクにも耐えられます。

植生高を「30cm」とするのは、どんな理由からですか。

伊藤(幹) 草高が30cmを超えると、多くの草が分枝して広がり、草量の増加が加速し、美観上も問題になってきます。加えて、茎が木のように固くなってくるので、刈り払い作業の負担が増します。30cm以下だと、刈り取りも容易ですし、バイオマス量も少ないので、残置しても短期間で、土壌に戻って消えてしまいます。

 太陽光パネル最低部と地面までの設置高は、太陽光発電所によって異なりますが、一般的には30cm以上なので、「植生高30cmを越えない」を守れば、パネルに影がかかることはありません。

 また、「施設外は20cm」としたのは、フェンス際に生えるクズなどのツル性植物を想定しています。20cmで刈り取っていけば、ツルがフェンスを上がってくることはありません。

 ただ、これらはあくまで「最低基準」なので、各サイトでは、それぞれ個別の状況に合わせて、追加的な基準を作っていくことが必要です。

 重要なのは、仮にパネルの設置高が50cmだからといって、50cmまで放置しないことです。そこまで繁茂してしまうと、刈り払い作業の負担が大きく、バイオマス量が多くなって残置では対応できず、廃棄物処理コストが発生します。「パネルに影がかからなければよい」のではなく、トータルで費用対効果に優れた手法を目指すべきです。

根強い「草と鎌の歴史」

草の状況によって、刈り取り作業を行っていくとすると、年間で雑草管理に使う費用(予算)が決まらないという課題があります。

伊藤(幹) 「植生高30cm」を放置しないという基準は、場当たり的なものではありません。サイトによって事前調査を行い、毎年の雑草植生を観察していけば、ある程度、草の生長量を予想でき、作業計画を立てられるようになります。

 ちなみに、欧米先進国では、機械などによる「刈り取り」を採用する場合、以下の4つのポリシーを事前に設定して進めていくことが求められています。

 それは、(1)刈り取り場所の選定と優先順位の設定、(2)非刈り取り場所の設定、(3)非刈り取り場所の具体的な対策と優先順位の設定、そして、(4)期待される費用と要求される費用の時系列的な削減計画――です。

 欧米では、日本に比べ雑草防除の歴史が長く、除草剤やカバープランツなどを組み合わせた科学的な雑草管理が定着しています。防除できずに刈り取りを行う場合には範囲を明確に決め、非刈り取りエリアの管理をどうするのかをあらかじめ決めつつ、将来的には刈り取りエリアを減らしても適切に維持できるような管理手法が求められます。

国内のメガソーラーでは、むしろ除草剤の風評被害を恐れ、「手間はかかりますが、刈り取っています」という対応を、好ましいと考える面さえあります。

 日本では、先史時代から「草肥山」と呼ばれる、田畑の肥料に使う草を採取する場所が里山にたくさんあり、食糧生産を支えてきました。その広さは全国で1500万haだったとも言われます。草山から鎌で草を刈り取る作業は、たいへんな重労働だったはずです。

 戦後、GHQによって化学肥料が持ち込まれ、全国の草肥山は不要になりました。しかし、草と鎌の長い歴史から、日本社会では草を「刈り取る」ことに抵抗感がなく、刈り払い機という動力の登場で、かつてほどの重労働ではなくなりました。

 メガソーラーの運営・保守にも、こうした日本的な雑草管理が持ち込まれてしまった面があります。ただ、国内にも農業やゴルフ場のように除草剤を含めて科学的な雑草管理が構築され、広まっている分野もあります。メガソーラーについても、そうした知見を生かし、科学的で費用対効果に優れた雑草管理手法が確立されることが望まれます。

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