メガソーラービジネス

「メガソーラーに向いたシバとカバープランツ」。緑地雑草科学研究所に聞く(第5回・後半)

メガソーラービジネス・インタビュー

2017/05/26 05:05
金子憲治=日経BP総研 クリーンテック研究所

緑地雑草科学研究所(福井県鯖江市)で理事を務める伊藤幹二氏(マイクロフォレスト リサーチ代表)と伊藤操子氏(京都大学名誉教授)に、メガソーラー(大規模太陽光発電所)における雑草対策について聞く連載コラムの各論編。前回(第5回・前半)は「被覆植物(地被植物、カバープランツ)」の全体像を概観した(関連記事)。今回は、芝生に詳しい長沼和夫(ゾイシアンジャパン研究開発室長)氏と、シートによる植栽工法に詳しい佐治健介(緑地雑草科学研究所・事務局長、白崎コーポレーション)氏が、芝と植栽シートに関して解説した。

向かって左から、伊藤操子氏、佐治健介氏、長沼和夫氏、伊藤幹二氏

メガソーラー向きの芝もある

――前回のインタビューで「高麗芝は使ってはいけない」とのことでした。それでは、メガソーラーの雑草対策として適した芝にはどんな種類がありますか。

長沼 雑草対策として太陽光パネルの下に植栽する芝生として適している条件を挙げると、(1)背丈が低い、(2)雑草が入りにくい、(3)肥料の要求度が低い、(4)病害虫防除の作業負担が小さい、(5)乾燥や高温、積雪などの気象条件に強い、(6)日陰でも育ち、放置型の管理も可能――などの特性が求められます。

 芝はイネ科の植物で、世界中で40種類ほどが被覆植物として利用されていますが、適する気候によって大きく2つに分かれ、地域性があります。東北などに向く「寒地型」と関東以南に向く「暖地型」です。比較的知られた種類としては、ベントグラスやケンタッキーブルーグラスは寒地型、野芝や高麗芝、バミューダグラスは暖地型になります(図1)。

図1●芝の種類と適応する気候区分
(出所:ゾイシアンジャパン)
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 暖地型は冬になると休眠して葉が茶色くなりますが、逆に寒地型は冬に緑になります。こうした特性を利用し、野球場の中には、暖地型芝と寒地型芝の両方の種を混ぜて播き、植栽することがあります。そうすると、年間を通じてどちらかの種類に緑の葉があり、通年でグリーンを維持できます。

 雑草対策を目的にした場合、やはり草の増える夏に勢力を増す「暖地型」が向きます。ただ、先ほども出てきましたが、暖地型でも高麗芝やバミューダグラスは、雑草を抑制する効果が弱い上、集約的な管理が必要なことから、雑草対策には向きません。

雑草を抑制するセンチピード

 暖地型芝の中でも、太陽光発電所に合った特性を考慮して、評価すると、主として法面緑化に使われている「センチピードグラス」(図2)、美観に優れる「セントオーガスチングラス」(図3)が向いていると思います。いずれも相対的に管理が楽なうえ、高麗芝などに比べると、雑草を抑制する効果に優れています。また、海岸沿いなどでは、耐塩性の高い「シーショアパスパラン」という暖地型芝もあります。

図2●センチピードグラスの穂
(出所:ゾイシアンジャパン)
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図3●セントオーガスチングラスの穂
(出所:ゾイシアンジャパン)
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 センチピートグラスの「センチ」は100、「ピート」は足を意味し、日本語で「ムカデ(百足)シバ」とも言います。横に伸びる「ほふく茎」がムカデのように多数の小さな葉が付いていることから、こう呼ばれています。

――外見上、高麗芝や野芝とも同じようにも見えますが、センチピードグラスとセントオーガスチングラスが、雑草に対して抑制力が高いのはなぜですか。

長沼 いずれもアレロパシーが強く、化学的物質の働きで雑草を抑制しているのが特徴です。もともと草の生えた場所でも、これらの芝が根付くに従い、草がなくなる場合さえあります。

 都立の八王子霊園は、ほとんど高麗芝が植えられていて、雑草管理に苦労していました。少し前、管理者から「なぜか、草の生えない部分があるので、理由を調べて欲しい」というので見に行ったところ、その部分だけセンチピードグラスでした。前任者が種を播いたようです。もともと草が生える場所ですが、センチピードグラスが駆逐したのです(図4)。

図4●センチピードグラス(奥)と高麗芝(手前)
(出所:ゾイシアンジャパン)
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 こうした場所では、高麗芝を全面的にセンチピードグラスに変えることで、雑草管理が大幅に楽になることが予想されます。

 例えば、中部国際空港では、当初からセンチピードグラスを大規模に導入し、効率的な雑草管理に成功しています(図5)。

図5●中部国際空港のセンチピードグラス
(出所:ゾイシアンジャパン)
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 この芝は、放置しても15~20cmの背丈にしかならないので、メガソーラーの雑草対策には向くと思います。ただ、「日陰に弱い」という短所があります。もともと暖地型芝生のほとんどは1日を通して日照が必要で、陰では育ちません。従って、太陽光パネルの下までセンチピードグラスを植えても根付かないでしょう。

日陰にも強いセントオーガスチン

――太陽光パネルを並べたアレイ周辺は日陰になることも多いため、その点は注意が必要ですね、陰でもよく育つ芝はないのですか。

長沼和夫氏
(ゾイシアンジャパン研究開発室長)

長沼 セントオーガスチングラスの特徴がまさに、「陰に強い」ことです。暖地型芝としては珍しく耐陰性が高く、日陰にも入り込んできます。従って、メガソーラーの敷地に導入すれば、太陽光パネルの下にも根付いていく可能性があります。

 工場内の敷地で建物と建物の間のうす暗いような場所に植えたことありますが、きれに根付きました(図6)。この芝は、放置すると背丈が25cm程度まで伸びますが、太陽光パネルの設置高がそれ以上に高ければ、パネルに影はできません。アレロパシーが強くほとんどの雑草を抑制しますし、西洋風の美観で見栄えにも優れます。

図6●工場裏の日陰に根付いたセントオーガスチングラス
(出所:ゾイシアンジャパン)
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 ただ、「シバにしたら、雑草が生えず放置できる」というわけではありません。植え付けて安定化するまでは、雑草に負けないように少量の除草剤が必要です。根付いてからも、ある種のマメ科の雑草が出てくるケースもあり、その場合、除去が必要です。ただ、その作業は裸地に比べれば大幅に軽減されます。

――こうした除草効果に優れ、美観もよい品種があるのに、あまり採用されなかったのはなぜですか。

伊藤(幹) 日本の場合、芝を景観用として植えたことが多かったのです。公園などで高麗芝が多用されたのは、そのためです。ゴルフ場でもフェアウエイは高麗芝で、法面は安い野芝というパターンが目立ちます。ただ、公園で高麗芝を植えてしまうと、最初はきれいなのですが、数年であっという間に草が繁茂してしまいます。いずれにせよ、日本には目的に応じて芝生の品種を選ぶ、という習慣が根付いていないのが原因と思われます。

メガソーラーで数千万円の初期投資に

――前回の記事(第5回・前半)のコスト比較の表のなかで、芝の施工費(初期費用)を1m2当たり2000~3000円と仮定しましたが、どのような内訳なのですか。

長沼 大雑把に言って、芝の値段が1000円/m2、施工費が1000~2000円/m2というイメージです。ただし、芝の値段は、品種によってかなり違います。張芝で比較すると高麗芝なら400~500円/m2ですが、センチピードは600~800円/m2、セントオーガスチンになると800~1000円/m2程度まで高くなります。

 また、施工費も、植え付け方法や広さによってかなり変わります。植え付け方法には、播種と張芝以外にも、ほぐした苗を植える「まきしば」や二重のネットの間に挟んで地面に被せていく方法も開発しました。種を播く場合も手播きと肥料散布機など機械を使った播き方もあります(図78)。

図7●肥料散布機による芝の種まき
(出所:ゾイシアンジャパン)
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図8●二重ネットによる芝の植栽
(出所:ゾイシアンジャパン)
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 メガソーラーのような数万m2に達する敷地の場合、架台を設置する前の平地であれば、効率的な手法で植え付けられるので、施工コストは1000円/m2の半分以下にできる場合もあります。

――それでも高圧連系する出力2MW程度のメガソーラーの場合、全体を芝生化すると、数千万円の初期投資となります。

伊藤(幹) ただ、前回も述べましたが、20年間の機械除草の費用と比べると、経済的ですし、保水力の向上や温度の低下など、雑草対策以外の機能がボーナスとして付いてきます。何よりも地域のグリーンインフラとして受け入れられやすくなるはずです。

シートのサポートで地面を被覆

――シートを併用するカバープランツ植栽工法では、どんな植物が使われますか。

佐治 シート植栽は、まず、透水性の高い植栽に適した防草シートを敷設します。シートに複数の切り込みを入れて穴を掘り、苗を植え付けます(図910)。シート自体の効果に加え、植物が被覆することで、より雑草を抑止する効果が高まります。

図9●植栽シートに穴を空けて植え付ける
(白崎コーポレーション)
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図10●植栽した直後の様子
(白崎コーポレーション)
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 この工法には、地下茎でなく、地面の上にほふく茎が伸びるタイプの植物が適しています。古くから土壌流出を防ぐ目的で法面に使われましたが、公園内の緑化などにも取り入れられ始めました。代表的な植物は、シバザクラやツル植物、ヘデラなどがあります。

――植栽シートがないと、被覆まで至らないのですか。

佐治 シートを使わない場合は、植える苗を4~5倍程度まで大幅に増やし、間隔を狭くしないと、被覆する前に雑草に負けてしまったり、管理が大変なため、現実的には、植栽シートとの併用が基本になっています。

 導入実績の多い植物は、シバザクラ、ヒメイワダレソウ(リッピア)、ヘデラ、ニシキテイカ、ビンカマジョール(ツルニチニチソウ)、タイムロンギガウリウスなどです。

 シバザクラは年間を通じて常緑で4~5月に淡い紫の花を付けます(図11)。耐暑性は高く、短期間で密生するため、雑草の侵入が少なく、地被効果が高い上、半日陰でも繁茂します。

図11●開花したシバザクラ
(白崎コーポレーション)
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 植栽シートには、1m2当たり4~6ポットを植え付けます。植栽後は、特に管理不要ですが、生育が旺盛で枝が込み合うこともあり、春先に地際で刈りこむ作業が推奨されます。

常緑のヘデラも有望

 ヒメイワダレソウは、リッピアとも呼ばれます。ミクロネシア原産の多年草で、5~7月、10月に白い小さな花を付けます(図12)。冬季は落葉しますが、地下部が越冬して4月に再び成長します。耐暑性、耐寒性、耐乾燥性が高いのが特徴です。

図12●開花したヒメイワダレソウ(リッピア)
(白崎コーポレーション)
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 植栽シートには、1m2当たり1~2ポットを植え付けます。植栽後、活着まで1週間かかるのでその間、降雨の少ない時期は水やりが必要です。春には植え穴部から雑草が多く生える可能性があるので、定期的な管理が必要になります。

 ヘデラは、ツル性で大型の葉には光沢があり、常緑ですが、冬にはやや赤みを帯びた緑になります(図13)。耐潮性、耐暑性、耐乾燥性に優れます。

図13●植栽して、数年後のヘデラ
(白崎コーポレーション)
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 植栽シートには、1m2当たり4~6ポットを植え付けます。植栽後は、ほとんど管理が不要で、伸びすぎたツルを切除したり、密生した場合に間引く程度で済みます。雑草抑制効果が高く、乾燥や暑さに強いもので、メガソーラーに向く可能性があります。

 ニシキテイカも常緑のツル性で、班入りの葉を楽しめるほか、5~6月には小さい花を咲かせ、秋には紅葉します。耐潮性、耐暑性、耐乾燥性のほか、耐寒性にも優れます。

 植栽シートには、1m2当たり4~6ポットを植え付けます。植栽後は、植え付け初期にはこまめな水やりが必要です。

1m2に4~6の苗を植栽

佐治健介氏
(緑地雑草科学研究所・事務局長、白崎コーポレーション)

 ビンカマジョール(ツルニチニチソウ)は、ツル植物で、4~5月に株元から伸びる枝に桔梗のような淡い紫の花を付けます。基本的に常緑ですが、関東以北は、落葉することがあります。耐暑性に優れますが、耐寒性と耐潮性にやや劣る性質があります。

 植栽シートには、1m2当たり4~6ポットを植え付けます。生育が旺盛で枝が込み合うこともあり、春先に地際で刈りこむ作業が推奨されます。

 タイムロンギガウリウスはハーブの一種で、4~5月に桃色のマリのような丸い花を付けます(図14)。常緑で耐寒性、耐乾燥性が高く、九州北部から北海道にも植栽可能です。ただ、高温多湿に弱いため、蒸れて枯れる恐れもあるので、通気性の確保が重要になります。

図14●開花したタイムロンギガウリウス
(白崎コーポレーション)
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 植栽シートには、1m2当たり4~6ポットを植え付けます。成長して込み合ってくると、蒸れによって枯死部分が目立ってくるので、その部分は取り除き、込み合っている部分は刈り込むことが必要になります。

――植栽シート工法は、シート施工が必要な分、初期投資が上がりませんか。

佐治 大雑把に言って、シートの施工費は1000円/m2程度で、これに苗の値段が加わります。例えば、ポット苗1株の相場は、シバザクラで140~200円、ヒメイワダレソウで220円前後、ヘデラで200~290円、タイムロンギガリウスで280円前後と言われます。

 シートを使えば、1m2当たり4~6ポットなので、2000円/m2前後になり、芝の施工費と同じような水準になります。

 ただ、芝やササに比べると、シバザクラなどきれいな花を付けるものもあるので、ひと目に付くような場所にあり、美観を重視するメガソーラーに向いていると思います。