「メガソーラーの反射光で熱中症!?」、姫路訴訟のてん末

「受忍限度」を超えていたか否かで攻防、和解に至らず

2018/05/16 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

「太陽光パネルの反射光と反射熱によって、平穏な日常生活を脅かされた」として、兵庫県姫路市の男性が、約1MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「姫路ソーラーウェイ」の開発支援事業者であるJAG国際エナジー(東京都千代田区)に対し、パネルの一部撤去と330万円の損害賠償を求め、2015年9月、神戸地裁姫路支部に提訴した。

提訴から約2年で「取り下げ」

 この訴訟事件では、「太陽光パネルの反射で室温が50度超す」「ソーラーパネルからの反射光で熱中症」――などの見出しで、新聞各紙が報じたこともあり、全国的に注目された。

 裁判では、2015年11月16日に第1回口頭弁論があり、2016年1月半ばに双方から答弁書が提出された。その後、同年5月以降、約2年にわたって書面を通じて、双方の言い分とそれに対する反論が繰り返された(図1)。

図1●訴訟の舞台となったメガソーラー
(出所:日経BP)
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 こうしたなか2017年7月、双方とも和解について検討することになったものの、同年11月30日に原告が「都合により訴えの全部を取り下げる」と申し出て、被告側もこれに同意した。その結果、判決や和解に至ることなく、「取り下げ」という形で終結した。

 今回の「トラブルシューティング」では、裁判記録を基に、提訴から取り下げに至るまでの経緯を振り返る。そして、この分野に詳しい森田桂一弁護士(西村あさひ法律事務所)から、なぜ、「取り下げ」という形で終結したのか、など今回の裁判を解説してもらった。加えて、太陽光パネルからの反射光に関する調査を行うフルアイズ(神奈川県伊勢原市)の古島終作代表による、原告宅への入射光シミュレーションと室温影響の分析結果を紹介する。

西側住宅への反射は予想できたか?

 問題となったメガソーラーは、太陽光パネルの設置容量1224kW、パワーコンディショナー(PCS)の定格出力990kWで、住宅地とため池に挟まれた埋立地に建設された。結晶シリコン型パネルを横向きに縦6段の大面積アレイ(パネルの設置単位)とし、設置角15度で南向きに設置した(図2)。

図2●縦6段の大面積アレイを設置角15度で南向きに設置した
(出所:日経BP)
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 日本アジアグループ子会社のJAG国際エナジーが開発支援業務を担い、発電事業の主体はSPC(特別目的会社)である「姫路ソーラーウェイ合同会社」。この合同会社に対し、一般社団法人・エナジーエクスプローラーが持分出資を行い、他に匿名組合出資により資金を調達した。施工は東光電気工事が担当し、完成後のO&M(運営・保守)は、日本アジアグループ子会社のJAGパワーエンジニアリングが請け負っている。

 これは、金融用語で「GK-TKスキーム」と呼ばれる仕組みで、ファンドの形で資金を集める場合に採用されることが多い(関連記事)。

 原告が提出した訴状によると、建設工事が始まり、2014年6月に太陽光パネルが設置されて以降、原告の住宅2階の東側窓から反射光が入るようになった。6月には部屋の温度は40℃、7月には40℃後半、8月には50℃を超えるまで上昇し、原告本人とその妻は、熱中症と診断されたという。  

 原告側は、「住宅の東側にパネルを設置すれば、西側の家への反射光は予想できた」ことなどから、「工作物(メガソーラー)には瑕疵があり、不法行為が成立する」。また、「原告の妻と本人が熱中症と診断されるなど、日常の平穏を妨げ、精神的苦痛を生じさせた」ことなどから、「受忍限度をはるかに超えている」とし、パネルの一部(北側アレイの4~9列)撤去と、損害賠償300万円、弁護士費用30万円の支払いを求めた。

 訴状と答弁書によると、建設工事が始まる前、2013年12月にJAG国際エナジーは、周辺住民に対して説明会を実施し、「パネルは15度で設置し、反射光は天空に逃げるため、周辺に迷惑をかけることはない」などと説明した。パネルの設置が始まり、反射光の影響に気付いた原告は、2014年8月にJAG国際エナジーに対して、対応を求めた。

 これを受け、JAG国際エナジーは2014年11月、隣接する住宅と太陽光発電所の間にシラカシを植え、12月には遮光ネットを2重にしてシラカシを覆うように設置した(図3)。また、この際、JAG国際エナジーは、窓に遮光フィルムを貼ることも提案したが、原告はこれを断った。

図3●シラカシを植え、さらに遮光ネットを被せた
(出所:日経BP)
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2度目の植樹で反射光は入らず

 損害賠償とパネルの一部撤去を求める原告の訴えに対し、まずJAG国際エナジーは以下のような内容の答弁書を提出し、反論した。

 「発電事業の主体である姫路ソーラーウェイ合同会社とは資本関係がなく、太陽光発電所の引き渡しまでの間の支援業務を受託したに過ぎない(パネルの所有者でも占有者でもない)」「パネルによる住宅への反射光の影響は予測できなかった」「植樹と遮光ネットの設置で、遮光効果は得られている」―――。また、部屋の温度データに関して、測定時の詳しい状況を提出することなども求めた。

 これに対し、原告側は、「JAG国際エナジーは発電事業主に代わって開発業務を行っており、第3者に与えた損害を補償する立場にある(発電事業主との共同不法行為が成立する)」、「反射光の影響を予測できなかったとすれば、専門事業者として重過失となる」「遮光ネットは機能しておらず、十分な遮光効果を果たしていない」などと反論した。

 この後、原告は、SPCも被告に加えたため、JAG国際エナジーの立場に関する論議は、実質的な争点ではなくなった。

 こうしたやり取りのなか、2016年3月、JAG国際エナジーは原告宅の前に、最初の植樹よりも大きな高木を大規模に追加的に植樹した(図4)。その結果、2階にはほとんど反射光が入らなくなった。JAG国際エナジーは、この2度目に大規模な植樹に関し、答弁書で「反射光の被害は立証されていないが、被告が被害の存在を主張していることをかんがみ、将来において反射光被害が発生する可能性をなくすべく植樹した」と説明している。

図4●2回目の大規模な植樹で反射光は入らなくなった
(出所:日経BP)
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 一方、原告はこの追加的な植樹に関して、「高い木を何本も植えたことにより、2階には反射光がほとんど入らなくなったことで、反射光の影響に関して検証できなくなった」とし、立証妨害であると批判した。

反射光が入らず温度が低下?

 こうしたなか、原告は、2016年9月に以下のような温度データを提出した(図5)。これは、2015年と2016年の6月、7月、8月の最高気温平均を、姫路市内と原告宅で記録したものだ。姫路市内は気象庁の公表したデータ、原告宅は原告が測定したもの。原告宅の2階リビングの出窓に置いた温度計で、クーラーを付けずに扇風機を回し、窓を開けて網戸にした状態で測定した。

図5●姫路市内と原告宅の最高気温平均(2015年と2016年の6~8月)。大規模な植樹の影響で原告宅の温度は下がった
(出所:裁判記録をもとに日経BP作成)
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 これを見ると、姫路市内では2015年よりも2016年の方がやや暑かった一方で、原告宅では2015年よりも2016年の方が、明らかに温度が下がっている。これに関して原告は、「2016年3月の大掛かりな植樹によって2階にはほとんど太陽光パネルからの反射光が入らなくなった。2015年より最高気温が下がったのはそのためで、逆に言うと植樹前にはパネルからの反射光で室温が上っていたことが証明された」と結論付けた。

 原告宅の気温データでは、2015年に最高気温が40度を超えた日数は、6月には3日、7月には8日、8月には19日にも及んだが、2016年の6~8月には40度を超えた日は一日もなかった。このことから、原告は、「大規模植樹前の2015年夏は、太陽光パネルの反射光により、受忍限度を超えた温度上昇があった」と、主張した。

生活空間の温度は市内の平均値

 2016年11月、これらの主張に対し被告は、主に2つの点から反論した。1つは、「受忍限度を超えるかどうかは、生活空間の気温を問題にすべきで、2階リビングの入り口付近と机上の温度は、出窓に比べて大幅に低い」。2つ目に、出窓空間での温度変化の原因として、パネルからの反射光よりも、植樹による直射光の変化が作用していることを指摘した。

 原告の提出した2015年夏の2階リビングの気温データでは、(1)2階入り口付近、(2)机上、(3)三角窓、(4)出窓、(5)ベランダの5カ所の測定結果を記録していた。原告は、その中で太陽光パネルの反射光が入る東側出窓の急激な温度上昇を問題視した。

 一方、被告側は、生活空間として重視する場所は、2階「入り口付近」と「机上」であることは明らか、とした。原告のデータを見ると、この2カ所の気温は出窓に比べて10度程度も低いことから、「受忍限度は超えていない」とした。

 これに対し原告は2017年1月、「出窓で高温になった空気は上に上昇して、部屋全体に広がる。出窓と部屋の温度が異なるのは、真夏に部屋を閉め切って過ごすのは不可能だからであって、大規模植樹の前後における気温差からパネルからの反射光の影響は明らか。原告と妻が熱中症と診断されたことからも受忍限度を超えていた」と反論した。

 さらにこれに対し被告は、翌2月、「2015年6~8月の3カ月間で、2階入り口付近と机上で30度を超えたのはわずか6日で、これは姫路市内の平均気温と有意な差がなく、受忍限度を超えていない」。また、原告が真夏にエアコンを使わずに生活していたことも指摘し、「熱中症と太陽光パネルからの反射光とは因果関係はない」と反論した。

入射シミュレーションを提出

 こうして、気温データと熱中症の原因について、互いの解釈を述べ合う中、2017年5月、原告側は、メガソーラーからの反射状況のシミュレーションを提出した。これは岡山大学の研究者による報告書で、それによると8月8日にはメガソーラー中心点からの反射光は午前6時45分から8時まで原告宅に差し込み、そのほかのパネルも含めると、6月から9月の4カ月間、午前6時から11時の5時間、反射光が差し込み続ける結果になった。

 原告は、「報告書の内容は、午前中に出窓の温度が上がるという測定結果や、9月の午前中に2階天井にパネル形状の光が映った事実を裏付けている」とした。原告は、2015年9月12日に2階天井に映ったパネル形状の光を撮影しており、その画像を提出していた。

 2017年7月、被告はこの報告書に対し、「シミュレーションは反射する時間だけを評価しており、光の量について考慮していない」「2階の窓形状を想定していないため、実際に窓から部屋に入射する時間は1日1時間程度と思われる」「提出された報告書には試算の前提条件などがなく、シミュレーション結果の妥当性を検証できない」――などと課題を指摘し、1時間程度の入射であれば、カーテンなどで容易に対応できると反論した。

 裁判記録では、この後まもなく、双方とも「和解について検討する」との記述があることから、8~11月にかけ、和解の条件について交渉したと推察できる。

 そして、2017年11月30日、「原告は都合により訴えの全部を取り下げる」と申し出て、12月に被告側もこれに同意した。被告は、「和解について検討したが、和解金の金額と、原告と原告の妻に対して課される義務との釣り合いがとれていないことを考えると、訴訟上の和解も訴訟外の和解にも応じられない」との理由を述べている。

<特別寄稿1>
「太陽光の反射光問題」への対応に一石
森田桂一弁護士=西村あさひ法律事務所

「許容限度」を超えたか否かが争点

 太陽光発電所を運営するにあたっては、反射光の問題は意識すべき重要な課題です。特に、改正再生可能エネルギー特別措置法及びこれに関する「事業認定ガイドライン」のもとでは、事業認定の要件の一として、「太陽電池モジュールからの反射光が周辺環境を害することのないよう、適切な措置を講ずるように努めること」とされていますので、これまで以上に配慮が必要であるといえます。

 2017年11月30日、兵庫県姫路市に建設された大規模太陽光発電所(約1MW)の隣地住民が、反射光・反射熱により被害を受けたとして提起した訴訟が、当該隣地住民の取り下げにより終結しました。訴えが取り下げられたという経過を踏まえると、裁判所が一定の心証を示していた可能性もあります。

 本稿では、本訴訟の経緯を参考にして、反射光の問題(これに起因する「熱」の問題を含む)について、改めて検討してみたいと思います。

 まず、太陽光発電所からの反射光の問題は、現時点では、これを具体的に規制する一般法令はありません。もっとも、裁判所は、反射光を含む「光害」が許容限度を超える場合には、被害者の人格権を侵害するものであるとして、是正措置を求めたり、これにより生じた損害の賠償を命じる判断を積み重ねてきました。

 それゆえ、一般論としては、太陽光パネルからの反射光についても、許容限度を超えるとされる場合には、是正措置や損害賠償が命じられる場合もあるといえます。

 問題は、どのような被害が生じれば許容限度を超えたと評価するべきか、ということになります。そして、光害の問題については、そもそも、反射光の影響をどのように測定するべきなのか、が問題となります。この問題の難しさは、反射光の問題を取り扱った先例においても、被害が多様な尺度で検証されていることからも裏付けられます。

 私個人の見解としては、太陽からの反射光が問題となる事案については、太陽を正反射する反射光の差し込む時間の長さを被害の評価尺度とすることが有用ではないかと考えています。太陽が正反射された状態になると、直視できないくらいまぶしいことは社会通念上、明らかであり、そのまぶしさの程度を争うことはあまり意味が無いと思います。

東京高裁は反射光を「適法」と判断

 太陽を正反射した場合に生じる直視できないような反射光は、太陽光パネルが広く設置される以前からも、ビルの窓や瓦屋根などで生じていますが、許容限度を超えるものとは考えられてきませんでした。おそらく、このような被害は、お互いに不可避的に生じさせてしまう上に、目をそらしたりカーテンなどで軽減したりすることで合理的に対応できるからでしょう。それゆえ、この様な反射光被害が許容限度を超えたものとするべき場合は限定的であるべきと考えられます。

 以上を踏まえ、許容限度を超えるものがあるとすれば、例えば、極めて近接して大規模な太陽光発電所が設置されたなどの場合などにおいて、直視できないような反射光が差し込む時間が非常に長くなり、被害者側が自己防衛のためにずっとカーテンを閉めることが強いられるなど、社会通念上、耐えがたいというべき場合ではないかと思われるところです。

 太陽光パネルからの反射光に関する現時点での唯一の公刊事例である横浜地裁平成24年4月18日判決、及び同控訴審である東京高裁平成25年3月13日判決の事案(以下「横浜事案」)では、横浜地裁においては太陽光パネルからの反射光を「違法」と評価し、東京高裁は太陽光パネルからの反射光を「適法」と評価しました。その判断が変更された理由は、一概にはいえませんが、反射光の差し込む時間の認定が大幅に短い認定に変更されたのも重要なポイントであるように思います。

 今回の姫路の事案では、関係証拠などから確認できる限り、太陽光発電所の開発業者において植栽が進められ、これが奏効した結果、取り下げ時においては、反射光の影響が相当程度、抑えられていたようです。

 もしかしたら、本訴においては、裁判所が植栽の進んだ現況を踏まえて従前の状況いかんに関わらず、現況では反射光被害が限定的であることを踏まえ、太陽光パネルの撤去などの判決は相当程度ハードルが高いという心証を伝えたのかもしれません。反射光の問題が争われる事案では、影響を受ける近隣住民は、太陽光パネルを撤去させ従前の状況に戻したいと考え、金銭問題を重視しない方も多いため、太陽光パネルの撤去が認められないのであれば、証拠調べの結果によっては、多少の損害賠償を受ける余地がありうるとしても、さらなる訴訟の継続を望まなかったのかもしれません。

科学的立証の重要性

 本訴訟では、反射光の問題に付随する問題として、「熱」の問題も争点とされた点が特徴的でした。もっとも、確認される限り、反射熱によりどの程度温度上昇があったかについて信用性の高いデータが確認できなかったように思われるものでした。

 このことは、一般人が感じる太陽光パネルからの影響を証拠化することの難しさを示しています。このような訴訟では、被害を主張する側(通常は隣地住民などの一般人)が被害の立証責任を負いますが、素人である一般人では、「何を、どのように測定すべきか」の判断が難しく、測定の結果が反証に耐えられない可能性があるからです。先述の横浜事案でも、被害を訴える隣地住民側の反射光被害の立証が控訴審で覆されています。訴訟提起を考えるときは、反証に耐えうる様な科学的立証を準備することが望ましいといえます。

 このように、本訴訟は、裁判所の判断は示されていないものの、これを検証してみると、反射光問題の評価の難しさや、問題解決方法、科学的立証の重要性を改めて考えさせる素材になるものです(関連記事)。

 改正再生可能エネルギー特別措置法に基づく「事業認定ガイドライン」の遵守(反射光被害への配慮)にあたっては、本訴訟の経緯も踏まえて、戦略的・合理的な対応が求められるといえるでしょう(図6)。

図6●宅地に近いメガソーラーでは東西に隣接した住宅にも反射光への配慮が必要
(出所:日経BP)
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<特別寄稿2>
室温への影響は限定的だが、「まぶしさ」が不満の原因に
古島終作=フルアイズ代表

裁判記録と独自調査で評価

 フルアイズ(神奈川県伊勢原市)は、太陽光パネルからの反射光の有無を現場で簡易に計算できる装置を開発・販売しています。2017年からは、太陽光パネルからの反射光シミュレーションの調査代行も始めました。

 反射光を巡り裁判となった姫路市にあるメガソーラーの調査は、調査代行サービスを手掛けるにあたり、レポートの具体例としてまとめました。2017年1月までの裁判記録と、独自の現地調査に基づき、原告宅への影響を評価しました。

 反射光が原告宅の2階窓から差し込む季節と時刻を明確にシミュレーションし、室温への影響も計算しました。その結果は、後段で詳説します。

 原告宅は、メガソーラー西側に位置しています。現在は、発電所と住宅の間は、高木が植えられ、反射光を防いでいますが、トラブル発生時は植栽がありませんでした。問題となったのは2階のリビングで、東側に狭い三角窓と広い出窓、南側にバルコニーに面した窓があります。このうち東側の出窓に反射光が差し込むことが、問題になりました。

 メガソーラーは100m×150mほどの広く平坦な敷地に配置されています。すべてのパネルが同じ傾斜で同じ方位を向いているため、凹面鏡のように反射光が集中することはありません。このため大規模だからといって、反射光の強さが増すことはありません。ただし、大規模であるため、広範囲の住宅に、長時間、反射光が差し込みやすくなります。

 入射状況のシミュレーションにあたっては、パネルの配置と出窓の位置関係、日の出、日の入りの障害となる山の概略、南側の反射光を遮る隣家の壁をコンピューターで再現しました(図7)。

図7●シミュレーション画面。発電所と周囲の山並み。発電所から東側を見たところ
(出所:フルアイズ)
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入射時間は30分から2時間

 シミュレーションに必要な情報は、裁判記録にあった原告宅2階の図面とパネルの断面設計図、グーグルマップによる航空写真と標高データ、そして現地での測量で入手しました。これらでも不明な情報(例えば、原告宅の天井の高さ)は推測しました。

 また、受光面は、(1)出窓、(2)東側壁面、(3)東側と南側の壁面――の3つを想定し、それぞれについて、太陽光パネルからの反射光(鏡面反射)が差し込むかどうかをシミュレーションしました。

 その結果、問題となった出窓に差し込む反射光に関しては、以下のグラフになりました(図8)。赤色の部分が、反射光が少しでも出窓に差し込む時間帯で、概ね直視できないほどまぶしいと思われます。ただし、この時間帯には、背伸びしなければまぶしく見えない時刻も含みます。反射光はやや広がりがあるので、赤色部分の外側の時間帯も太陽光パネルは明るく見えますが、 概ね直視できないほどではありません。

図8●出窓に反射光が差し込む季節と時刻
(出所:フルアイズ)(注:「入射日数」は1年のうち少しでも反射光が差し込む日数。「1日最大」は1年のうち最も長時間反射光が差し込む日の、差し込む時間。「1日平均」は1年間に反射光が差し込む時間の合計を365で割ったもの)。
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 これを見ると、ほぼ1年を通じて反射光が差し込むことが分かります。差し込む時間帯は、概ね午前6時半から8時半の間で、1日の入射時間は30分から2時間弱と季節によって幅があります。

 原告の主張では、「日の出直後から午後2時頃までまぶしくて東側を見られない」とあり、今回のシミュレーション結果と大きな差があります。太陽光パネルは、反射光が差し込まない時間帯は空(太陽がない部分)を反射します。その場合、一般的には直視できないほど、まぶしくありません。ただ、ある程度の時間、直視できないと、当事者にとって実害のない明るさでも、不快に感じてしまう可能性はあります。

室温上昇への影響は0. 064度

 次に反射光による室温への影響を計算しました。原告は、2階リビングをエアコンなしで窓を開けて使用しています。一部の報道で、「室温が50度以上になる」との表現がありますが、裁判記録を見ると、50度を超えているのは、直射日光の当たる出窓に置いた温度計で、リビング部屋中央では高くても37度程度という測定結果が証拠として提出されています。

 裁判記録では、植栽によって、平均室温が3.2度下がったとしています。植栽によって、太陽光の直射と反射光の双方が遮られているので、直射光と反射光のエネルギーの割合を計算することで、反射光による室温差を概算します。

 具体的には8月1日に東面の壁に差し込む直射光のエネルギーとパネルからの反射光のエネルギーを比較します。直射光については時間そのもの、反射光については時間に反射率(直射光エネルギーのうちパネルで反射した割合)を乗じます。太陽光パネルの反射率は、太陽光の入射角によって異なりますが、8月1日の入射角(約72度)では一般的に約6%です。

 以上を計算すると、8月1日に東壁面に差し込む時間は、直射光=314分、反射光=106時間、エネルギー量では直射光=314、反射光=6.36(106時間×反射率0.06)となり、反射光の割合は約0.02(6.36÷314)、つまり約2%になります。これを実測された室温差である3.2度にかけると約0.064度(温度差3.2度×反射光割合0.02)になります。

 この計算方法の前提には、植栽によって東壁面への直射光と反射光のすべてが遮られた一方、南壁面については直射光の入射は変わらず、反射光の入射は無視できると仮定したことや、エアマス(太陽光が地上に届くまでに通過する大気量)による減衰などを考慮していないなどの課題もあり、あくまで概算で誤差があります。

 それでも夏の反射光による室温の上昇はわずか0.06度に過ぎず、体感できるほどの温度差は生じないと思われます。それにもかかわらず、原告が室温の上昇を感じた要因としては、以下の2点が推測できます。

 1つは、以前は湿地だったところを太陽光発電所にしたため、「打ち水」効果がなくなり、周囲の温度が以前よりも上昇した可能性があること。2つ目は、太陽光パネルをまぶしく感じるため、体感的により暑く感じる可能性があることです。

 ちなみに室温への影響で、パネルの反射率として用いた「6%」は、エネルギー量としては大幅に減っていますが、人の目にはまぶしく感じます。

 今回のシミュレーションなどを通じてわかったことは、室温への影響は極めて限定的なものの、反射光自体は、ほぼ1年を通じて原告宅の窓に差し込み、まぶしくて直視できない時間も1日30分から2時間程度あることです。

 原告が裁判を起こすまでに反射光に対して不満を感じた背景には、この「まぶしさ」が影響している可能性が大きいと思われます。太陽光パネルの設置レイアウトを検討する際には、この点にも十分に配慮することが重要に思われます。