4社のパネルを設置したハイブリッド発電所の4年間

三井化学がメガソーラー評価事業に生かす

2018/10/09 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

太陽光50MW、風力6MWのハイブリッド

 愛知県の渥美半島は年間を通じて風が強く、5月には「田原凧まつり」が開かれ、子どもの成長を願う「初凧」や互いの凧を落とし合う「けんか凧」で盛り上がる。田原市は半島のほぼ全域を占め、風況の良さから湾岸部には国内最大級のウィンドファームを形成している。「たはら・ソーラーウインド発電所」もその一角を占めている。

 2014年10月1日、三井化学など7社が建設したもので、風力発電所に加え、メガソーラー(大規模太陽光発電所)を併設し、1つの連系点で送電している点が大きな特徴になっている。太陽光と風力によるハイブリッド型発電所としては、国内最大規模になる(図1)。

図1●「たはら・ソーラーウインド発電所」(左から3基が同発電所の風車)
(出所:三井化学)
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 メガソーラーは、太陽光パネルの出力50MW、パワーコンディショナー(PCS)の定格出力35MW、風力発電設備は1基2MWの大型風車を3基(総出力6MW)設置している。年間の発電量は太陽光と風力を合わせて、約6万7500MWhを見込んでいる。この発電量は、田原市内の約9割に当たる1万9000世帯の使用電力に相当する。稼働後、4年経ち、発電量は予想を上振れしており、順調に推移している。

 同発電所の開発を主導した三井化学は、太陽光パネルと太陽光発電所全体の診断・評価サービスで、国内でトップクラスの実績を持っている。これまでに約500件のメガソーラーの診断などを受注し、その累計容量は約2.5GWに達しているという。国内での実績を生かしてインド市場にも布石を打つなど、海外展開にも乗り出している。

 三井化学が太陽光パネルの診断事業に乗り出した背景には、パネルに使われる樹脂材料に詳しかったことがある。同社は、約30年前からパネル用の封止材を販売してきた。EVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)と呼ばれるフィルムで、カバーガラスとセル(発電素子)の間に充填して密封性を維持するなど、太陽光パネルの品質維持に重要な役割を担っている。

 太陽光パネルというと、シリコン製のセルが心臓部というイメージがあるが、長期的な耐久性や劣化速度を決めるのは、無機材料ではなく有機材料であるEVAが大きく影響している。三井化学はEVAの開発・生産企業として、その特性などを熟知している。

 こうしたパネルの知識をベースに、発電所全体の評価にも乗り出し、北海道から九州まで10カ所以上のサイトをモニタリングすることで、発電量の予測手法を蓄積してきた。「いまでは、事前の予測値と実測値との差は、年間ベースで±1%以内に収まるまで精度が上がってきた」と、同社・次世代事業開発室の塩田剛史エネルギーソリューション リーダは言う。

4メーカーのパネルを設置

 実は、「たはら・ソーラーウインド発電所」も、こうした三井化学の太陽光発電システムの評価・分析ノウハウを蓄積するための実証サイト的な役割も担っている。

 それを端的に示すのが、4タイプの太陽光パネルを採用したことだ。内訳は、LGエレクトロニクス製の単結晶シリコン型が26MW、京セラ製とシャープ製の多結晶シリコン型が合計で20MW、ソーラーフロンティア製のCIS化合物型が4MWとなる。サイトの入り口から中央の管理路を海側に進むと、4種類のパネルを順に見ることができ、セルの色や縞の違いなどがよく分かる。また、パワーコンディショナー(PCS)は、全エリアで東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した(図2)。

図2●パネルはLGエレクトロニクス、京セラ、シャープ、ソーラーフロンティア製で、太陽光のPCSは東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を導入
(出所:日経BP)
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 「これだけの規模で4タイプのパネルを採用したことは、4つのメガソーラーを1カ所で運営しているようなもの。その分、運営・保守を通じて、さまざまな経年変化が観察でき、太陽光パネルや発電所の評価事業にも生かせる」と、塩田リーダは言う。

 実際にその効果は着実に表れている。「たはら・ソーラーウインド発電所」にある管理事務所を訪れると、4タイプのパネル別に発電量の推移を比較したグラフが掲示してある。設備容量(kW)当たり、どのパネルが最も発電量(kWh)が多いのか、気になるところだが、「これらパネル別のデータは非公開」としている。

 その理由の1つには、「表面的な数値だけで、単純に評価できないことが分かってきた」(塩田リーダ)こともある。というのは、各パネルのカタログ上の公称最大出力値と実際の最大出力とは差があり、メーカーによってその幅はかなり違うため、各パネルの真の実力を評価するのは意外に難しいという。同社では現在、その評価手法の開発にも取り組んでいる。

ハンダ不良で100枚を交換

 O&M(運営・保守)は、同発電所設備を信託している楽天信託と、O&M契約を結んでいるシーテックが連携して実施している。日常的には楽天信託の技術者が常駐して巡視点検などを行い、法的な定期点検などについてはシーテックが担当する。常駐する電気主任技術者には、楽天信託の社員でもある服部勲さんが担っている。

 これまでに最も大規模な不具合としては、出力不足のパネルが約100枚見つかり、メーカーに通知して交換対応となった。はんだ不良による「クラスター断線」で、出力が大幅に落ちていた。「クラスター断線」とは、接触不良などで電極の抵抗が増してバイパスダイオードが作動し、セルの3分の1を迂回して電流が流れている状態を指す。

 これは1つのメーカーのパネルに集中していた。実は、このメーカーから「はんだ不良」のパネルが紛れているとの連絡があり、まず目視点検したところ56枚のパネルの電極にわずかな「焦げ」が見つかった。そこで、アイテス製の太陽光パネル点検装置「ソラメンテ」でこのメーカーのパネル全数を点検したところ、約100枚の不具合パネルが見つかったという。

 これとは別に、ほかのメーカーのパネルにも不具合の兆候があり、メーカーに連絡して対応を済ませた事例があった。

 太陽光パネルにはアルミ製のフレーム(外枠)のほか、積雪や風圧に対する強度を高めるため背面にサポートバー(保護棒)を追加していることが多い。「たはら・ソーラーウインド発電所」で採用したパネルにも保護棒があった。

 このうち複数のパネルで、保護棒とセルが接触して直流地絡の現象を確認したという。バーとセルの間にはバックシートがあり、それが絶縁材になっているが、強風で繰り返しパネルが振動し、バックシートと保護棒がこすれて絶縁強度が弱まったと見られるという。

 そこで、メーカーに対応を要請した。メーカーもこうした現象のリスクを認め、特に強風にさらされるアレイ(パネルの設置単位)両端のパネルについては、保護棒とバックシートの間にゴムを挟むことで絶縁強度を高めた(図3)。

図3●保護棒に絶縁用のゴムを装着した
(出所:日経BP)
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噴霧器とスポンジで鳥糞を清掃

 目視による巡視点検は、服部さんを含めて二人の常勤者で手分けし、6カ月に1回はすべてのパネルを見るようにしている。カラスの石落としと見られるカバーガラスの割れは、年間に10枚ほど発生しているという。「全面が割れているパネルでも、真正面から見ないと意外に分からない。車でゆっくり走りながら目視し、見落としがないようにしている」と、服部さんは言う。

 割れとともに、巡視点検で対応しているのが、鳥や小型哺乳類によるパネル上への糞の清掃だ。6カ月に1回の目視点検で見つけた場合、パネル上に落ちてから数カ月経っていることも多く、固まって乾燥していると雑巾で拭いた程度では落ちないという。試行錯誤の末、白っぽい鳥の糞に関しては、背負い式の噴霧器とスポンジブラシを使っている。糞に水を噴霧して十分に吸収させた後、スポンジで拭くと容易に取れるという(図4)(図5)。

図4●鳥糞を清掃している様子
(出所:楽天信託)
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図5●噴霧器とスポンジブラシを使う
(出所:楽天信託)
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 この方法でもなかなか落ちないのがハクビシンかタヌキの黒っぽい糞という。パネル表面で焼き付くように固化しており、噴霧器で水を吹きかけても取れないという。そこで、黒い糞には別の手法で対応している。お湯で濡らしたタオルを1時間程度、被せておくと柔らかくなることが分かり、その状態でスポンジブラシなどで拭くと取れるという(図6)。

図6●ハクビシンかタヌキの黒っぽい糞
(出所:楽天信託)
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 このほか、野生の小動物による被害としては、温度や湿度、日照データを収集するための通信ケーブルの損傷があった。通信線も基本的には地中を通しているものの、センサーのあるパネル上から地中までは部分的に外に出ている。その露出部分をかじられ、断線してデータを収集できなくなったという。そこで張り替えたうえで、保護カバーで覆うなどの対策を取った。(図7)。

図7●環境情報のデータ通信線が動物にかじられて断線。補修して対策した
(出所:日経BP)
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防草対策は薬剤散布に転換

 除草対策に関しては、当初、機械除草と手刈りで対応してきた。ケーブルが露出しているパネル周辺は、機械除草でなく鎌を使って手作業で刈っていたが、それでもわずかだが樹脂製のケーブルカバーが鎌の刃で破損したことがあり、これを機に除草剤の散布を検討し、数年前に切り換えた(図8)(図9)。

図8●手刈り前の様子
(出所:楽天信託)
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図9●手刈り時に破損したケーブルカバー
(出所:楽天信託)
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 除草剤に詳しい事業者に相談し、試験的に複数の薬剤を部分的に散布して効果を調べてから、敷地全体まで散布範囲を広げた。今年9月に取材で現地を訪れた際には、ほとんど大きな草はなく、枯れ草もなかった。発生自体を抑える薬剤を春先に散布している効果という(図10)。

図10●除草剤の適切な活用で草はほとんど生えなくなった
(出所:日経BP)
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 海に近いことから、設計段階から塩害対策を施してきたが、それでも塩害と思われる不具合が出てきた。パネルとパネルをつなぐケーブルの結合部に塩水が入り、中の銅線に発生した錆(緑青)が数カ所で見つかった。雨の日にPCSに直流地絡を知らせるアラームがあり、回路を切り分けて原因箇所を絞り込んで発見したという。

 結合する際の施工方法に課題があったのか、コネクター自体の問題なのか、今のところまだ断定できていない。もう少し様子を観察しつつ、対応を決めたいとしている。

メガソーラー運営のモデルに

 塩害に関しては、最も海寄りに設置している風力発電設備により大きな影響があるという。風車のタワー下に設置している昇圧器(キュービクル)では、すでに除塩フィルターを何度か交換しているほか、アース線やビスやボルトに錆が進んだため補修したという。

 また、風力発電設備に関しては、タワー下のドアの開閉時に強風が吹くと、あおられて危険なため、風よけのフードなどを装着することを検討している。

 三井化学では、「たはら・ソーラーウインド発電所」を技術面とともに運営面でも、今後のメガソーラー経営のモデルになると考えている。現在は、楽天信託がアセットマネジャー(AM)としてO&M事業者と連携して日常的な管理・運営を担いつつ、一定額以上の費用や追加投資などに関しては、定期的なオーナー会に諮って承認・決定する体制にしている。こうした仕組みは、所有と運営が分離したスキームの多い、現在のメガソーラー事業にとって参考になりそうだ。

 同社では、今後メガソーラーのセカンダリー市場が活発化していくなか、太陽光発電所の評価とともに、運営自体を巡るコンサルティングやアドバイスのニーズが高まると見ている。「たはら・ソーラーウインド発電所」での知見はこういた分野にも生かせると考えている(関連記事)。

●施設の概要
名称たはら・ソーラーウインド発電所
発電事業者三井化学、三井物産、シーテック、東亞合成、東芝、東レ、三井造船の7社が事業用地と金銭(設備)を楽天信託に信託し、同社が発電事業者となる。金銭信託の比率は三井化学35%、三井物産15%、シーテック10%、東亞合成10%、東芝10%、東レ10%、三井造船10%
住所愛知県田原市緑が丘
敷地面積80万m2
土地所有者三井化学
出力太陽光パネルの設置容量50MW、パワーコンディショナー(PCS)設置容量35MW、風力発電設備容量6MW
予想発電量太陽光・風力発電の合計で約6万7500MWh
運転開始2014年10月1日
総投資額約180億円
EPC(設計・調達・施工)メガソーラーは東芝、風力発電設備は三井造船
O&M(運営・保守)シーテック
太陽光パネルLGエレクトロニクス製の単結晶シリコン型、京セラ製とシャープ製の多結晶シリコン型、ソーラーフロンティア製のCIS化合物型
太陽光発電のPCS東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製(500kW機・70台)
風力発電設備日立製作所製(2MW機・3基)