茅野と伊那の発電所に見る「セカンダリー太陽光」の買い方

地域や地主との取り決めなど、書類に現れない点も

2019/04/23 05:00
加藤 伸一=日経BP総研 クリーンテックラボ

 長野県茅野市に、太陽光パネルの出力が約1.33MW、パワーコンディショナー(PCS)の定格出力が1.26MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「EBH茅野スタジアム発電所」がある(図1)。

図1●EBH茅野スタジアム発電所
(出所:エンバイオ・ホールディングス)
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 発電所の名にある通り、野球場だった場所を活用し、太陽光発電設備が設置されている。

 数百人単位の観客席のほか、グラウンドには、地面より一段低くつくられているダッグアウトや、バックネット下に設けられた関係者室など、地方の大きな大会でも開けそうな野球場だったことが伺える(図2)。

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図2●本格的な野球場だった
八ケ岳の峰々も見える(上から2枚目)(出所:日経BP)

 バックネット裏の観客席は、八ケ岳の峰々をもっとも良く眺められる位置にあり、野球だけでなく、観客席からの景観にも配慮した施設になっている。

 この野球場は公営ではなく、近隣地域に本拠を置く大手精密機器メーカーの福利厚生用の施設だった。野球場の隣には、独身寮の建物が建ち、こちらは現在でも使われている。

 メガソーラーは、野球場跡の土地を借りて開発された。当初の事業主体は、ネクストエナジー・アンド・リソース(長野県駒ケ根市)が設立した特定目的会社(SPC)で、2016年7月に売電を開始した。

 その1年後に、所有者がネクストエナジーのSPCから、エンバイオ・ホールディングス(以降、エンバイオHD)に代わった。いわゆる「セカンダリー市場」を通じて売却・取得された。

 同じ時期にもう1カ所、長野県伊那市でも、やはりネクストエナジーのSPCによる太陽光発電所を、稼働1年後にエンバイオHDが取得した。

 こちらは、太陽光パネル出力が約436.8kW、PCS出力が490kWの「EBH伊那発電所」である(図3)。

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図3●EBH伊那発電所
(出所:エンバイオ・ホールディングス)

稼働後1年間の実績があることが魅力

 エンバイオHDはそれまで、自社単独や他社との合弁企業を通じて、国内で太陽光発電所を開発・運営してきた(関連コラム:パナソニック製「HIT」を採用した守谷市の屋根上メガソーラー)。

 その中で、稼働済みで売電期間が約1年間経過した太陽光発電所を取得することの魅力も感じ始めていた。自社が中期経営計画で掲げていた、合計出力30MWの太陽光発電所の開発・運営を効率的に実現できることも利点だった。

 取得する案件は、稼働してから約1年間が経っていて、評価できる実績がある発電所に絞っていた。未稼働の案件には、開発時に必要な重大な要件の不備などのリスクがある。

 稼働後1年が近づいているタイミングで、開発元のネクストエナジーが、茅野市と伊那市の発電所の売却をエンバイオHDに持ちかけた。ちょうど同社が求めていた稼動期間の発電所で、最終的に両社の条件が折り合い、2カ所とも譲渡された。

 エンバイオHDによると、ネクストエナジーとは合弁会社を通じて太陽光発電所を開発した実績があり、安心感、信頼感が大きかった。それが、両発電所の取得にもつながった。

 ネクストエナジーとの合弁で開発した発電所とは、岡山県久米郡の太陽光パネル出力 2.3738MW、北海道浦幌町のパネル出力約1.95MWのメガソーラーである。岡山県久米郡の発電所は2015年9月、北海道浦幌町の発電所は2017年2月に稼働した(関連コラム:冬に最も発電量を稼ぐ北海道浦幌町のメガソーラー)。

 この2つの発電所も、稼働後にネクストエナジーの持ち分を買い取ってエンバイオHDの100%所有に変わっている。

 岡山県久米郡の発電所は、買取価格が40円/kWh(税抜き:以下同)、太陽光パネルはネクストエナジー製、PCSは日立製作所社製となっている。

 北海道浦幌町の発電所は、買取価格が36円/kWh、太陽光パネルは中国UPSolar製、PCSは東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製の関連機器を中心に一体化したWave Energy(東京都港区)のオールインワン型を導入した。集電盤からPCS、昇圧変圧器などを一体化した製品である。

 茅野市と伊那市の発電所は、買取価格が36円/kWhと32円/kWh、太陽光パネルはネクストエナジー製(図4)、PCSは茅野市の発電所ではドイツのSMAソーラーテクノロジー製、伊那市の発電所では浦幌と同様、TMEIC製の関連機器を中心に一体化したWave Energyのオールインワン型を採用している。

図4●ネクストエナジー製の太陽光パネル
(出所:日経BP)
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どのように評価するのか

 茅野市と伊那市の発電所に関し、エンバイオHDはどのように評価して取得し、また、運営を適切に引き継いだのだろうか。

 まず、評価に関しては、自社単独で開発する場合と同じように、発電プロジェクトの内部収益率(IRR)が6%台以上とする基準を満たす必要があった。エンバイオHDが、両発電所を評価して算出した取得可能な額を提示し、最終的に折り合った。

 実際の評価にあたっては、ネクストエナジーが発電所の開発時にデューデリジェンス(投資対象の価値やリスクの調査)を綿密に実施しており、その資料も活用した(図5)。

図5●ネクストエナジーから提供された書類
(出所:日経BP)
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 具体的には、「土壌汚染リスク評価」、「発電設備の状況評価」、「発電電力量評価」、「地震リスク評価」、「インフラ投資資産の収益性、収益継続性に関する意見書」などである。

 エンバイオHDには、日常的に多くの企業や仲介人から、太陽光発電所の取得の打診があるが、こうした資料があまり揃っていないために、評価が難しいこともある。

 茅野市と伊那市の発電所の場合、EPC(設計・調達・施工)サービスとO&M(運営・保守)サービスも、ネクストエナジーが担っている。開発からEPC、O&Mまで一貫して取り組んでいる体制ならではの責任感が感じられ、安心できる点が多かったとしている。

 例えば、売電を開始後の月報なども、他のO&M企業で経験している内容と比べて、充実していたという。発電実績などのほか、何らかのトラブルで稼働が止まった際には、時刻ごとに担当者の行動まで記されている。

 国内のメガソーラーでは、このように稼働後の運用状況を記録している場合はあるものの、売却の交渉時にスムーズに一式揃えて迅速に提出できる企業は少ないという。

 こうした書類は、記録方法とともに適切に保管することが重要になる。売却することも想定して、あらかじめ管理を徹底しておかないと、必要な時にスムーズに提出することは難しいからである。

 また、経営破たんした企業が運営していた太陽光発電所の取得を打診されることもある。この場合、発電所の図面や発電量の実績くらいしか評価資料がないことが多く、その場合、検討の段階にも至らないという。

 今回の両発電所の場合、エンバイオHD側で、ネクストエナジーが用意した以上の内容の評価を独自に加え、検討することはなかったとしている。

 エンバイオHDによる評価の中では、これまで自社で開発していなかった中部地方に立地することも魅力だった。同社では、太陽光発電所の立地を分散させたいと考えていた。開発経験のない中部で、しかも、長野県は日射量に恵まれて太陽光発電に向く。

O&M企業が継続する利点

 両発電所の譲渡に当たって、ネクストエナジーは、それぞれのSPCごと譲渡したいと考えていた一方、エンバイオHDはSPCでなく、それぞれの発電事業を取得したいと考えていた。

 エンバイオHDがSPCを取得する手法を避けたかった理由は、管理しにくいことに加え、株式の取得になるため、設備の償却のような税務処理上の利点が得られないことにあった。

 最終的にネクストエナジーがこうした要望を受け入れ、SPCの株式をエンバイオに譲渡するのではなく、それぞれのSPCがエンバイオに事業譲渡することになった。

 ただし、SPCを取得する手法であればスムーズに移行することが、発電事業を継承する手法を選んだことで、時間を要した手続きがあった。

 経済産業省に対する、設備認定の変更届だった。経産省の事務処理に時間を要し、半年間以上も待つことになったという。

 土地の賃貸借契約についても、契約者がSPCからエンバイオに変わるので、同じように地主との間で契約者を変更することが必要になった。

 地主や近隣地域に対しては、O&M(運用・保守)の担当企業が、これまでと同様、ネクストエナジーのままであることが、利点となった。同社は、開発時に、地主や近隣地域と交渉して取り決めなどをまとめてきた。

 こうした経緯を知るネクストエナジーが、今後もO&Mを担当することで、約束などが反故にされにくくなるとの安心感につながる。エンバイオHDにとっても、地主や地域と取り決めた内容を理解し、尊重しながら運営を引き継ぎやすくなる。

 例えば、地域の慣わしや決まりに対して、それぞれの発電所がどのように対応するのか。

 伊那市の発電所の場合、発電所側が除草する範囲や、除草の作業時に近くを流れる用水路に刈った草を落として流れるようなことは防ぐなど、細かい取り決めもある。発電所周囲の草刈りと同時期に発電所内も除草した方が、景観上、好ましいなど、地域と連携して管理するような配慮も必要という(図6)。

図6●地主との取り決めや地域の状況に応じて雑草を刈る
(出所:エンバイオ・ホールディングス)
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 茅野市の発電所の場合、市の条例で一定以上の太さの木は、伐採が認められていない。発電所の敷地内には、木が雑草のように生える場所がある。その場所では特に留意して、市の条例で定められた太さに成長するより前に、木を切るようにしている(図7)。

図7●木が生えてきやすい場所
(出所:日経BP)
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 また、同発電所では、敷地外の法面の一部の草刈りは、エンバイオHDによる取得以降もネクストエナジーが作業を担当している。

 これは、地主の企業との取り決めで、発電への影響とは異なる理由で刈っているため、同社が継続して担当することになった。敷地内については、太陽光パネルへの影の影響などを予想して、適切な時期にエンバイオHDが除草している。

 このほか、地域活動への参加、町内会への参加費、地主の代替わり、20年後以降の発電事業の継続と地主の理解など、デューデリジェンスや月報などには記載されていない内容でも重要な事項も多く、事前に確認しておく必要があるという。

●発電所の概要
発電所名 EBH茅野スタジアム発電所
所在地 長野県茅野市金沢
元の発電事業者 スピカ・ソーラー
(ネクストエナジー・アンド・リソースが設立したSPC)
現在の発電事業者  エンバイオ・ホールディングス
敷地面積  3万5321m2
太陽光パネル出力  約1.32814MW
パワーコンディショナー(PCS)出力  1.260MW
年間予想発電量    約159万kWh (一般家庭約400世帯の消費電力に相当)
EPC(設計・調達・施工)サービス  ネクストエナジー・アンド・リソース
O&M(運用・保守)サービス   ネクストエナジー・アンド・リソース
太陽光パネル   ネクストエナジー・アンド・リソース製 (多結晶シリコン型、出力255W/枚・2018枚、出力260W/枚・3080枚)
PCS SMAソーラーテクノロジー製
売電開始   2016年7月5日
取得日2017年6月28日
取得額    非公開
FIT上の売電単価   32円/kWh(税抜き)
売電先    中部電力
●発電所の概要
発電所名 EBH伊那発電所
所在地 長野県伊那市西春近
元の発電事業者 デネブ・ソーラー
(ネクストエナジー・アンド・リソースが設立したSPC)
現在の発電事業者  エンバイオ・ホールディングス
敷地面積  5933m2
太陽光パネル出力  約436.8kW
パワーコンディショナー(PCS)出力  490kW
年間予想発電量    約555万kWh (一般家庭約130世帯の消費電力に相当)
EPC(設計・調達・施工)サービス  ネクストエナジー・アンド・リソース
O&M(運用・保守)サービス   ネクストエナジー・アンド・リソース
太陽光パネル   ネクストエナジー・アンド・リソース製 (多結晶シリコン型、出力260W/枚・1680枚)
PCS 東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製 (出力490kW機・1台、Wave Energyのオールインワン型製品)
売電開始   2016年6月10日
取得日    2017年6月28日
取得額    非公開
FIT上の売電単価   36円/kWh(税抜き)
売電先    中部電力