前編から

 デジタル空間に物理世界を双子のように再現する「デジタルツイン」という概念。モノの状態や周辺環境の変化など時系列のデータを収集し、それに基づいて生産プロセスや熟練工が持つモノづくりの知見、モノの詳細な動作状況などを見える化する。これにより、大きな変化の予兆をいち早く把握したり、伝えにくい情報を詳細に伝えたりといったことが可能になる。

 今までのところ、IoT(Internet of Things)の導入が最も活気づいている製造業を中心に、じわじわと広がろうとしている。ただデジタルツインは本来、製造業以外のさまざまな業界・領域にも応用が利く概念であり、製造ラインの双子(ツイン)と同様、デジタル空間上にファシリティ全体、コミュニティ全体を写像できる。

 いきなり企業全体など大きな範囲でデジタルツインを作り出すのではなく、製造ラインごと、建物ごとといった、小さなデジタルツインを構築し、それを互いに連携させることで、全体最適化のための大きなデジタルツインを形成することも可能だ。

図1●デジタルツインはファシリティからコミュニティにまで対象が広がる(図は東芝の説明資料より引用)

「個別最適✕N」を「全体最適」へ

 企業全体でのデジタルツインの活用例を、多店舗展開を行っている小売業で考えてみよう。デジタルツインを使えば、環境の変化などを仮定した時系列のシミュレーションを実施し、店舗全体の最適なエネルギー活用や物流網の再構築などが可能になる。

 例えばコンビニエンスストアを展開する企業であれば、大抵は既に、過去の電力使用量や気象予報などから、空調や照明、ショーケースなど、店舗内設備のエネルギー需要を予測するエネルギー管理システムを構築している。ただ、それはあくまで店舗ごとの個別最適化に過ぎない。これに対しデジタルツインでは、すべての店舗の情報を集約して1つのコンビニエンスストア・チェーンとして捉えられる。エネルギー需給に関する情報や店舗内のセンサー情報を基にデジタル空間に双子を写像し、店舗内のエネルギーコントロールや電力調達先ごとのシミュレーションなどを、全国に展開する直営店とフランチャイズ店を合わせたうえで最適な形に制御するといったことが可能になる。

 物流網の再構築については、調達先から配送センター、店舗におけるさまざまな情報をすべて収集、写像し、調達先からの直接配送や店舗間での横持ちなど、各種の可能性をデジタルツインによって試してみることで、最適な物流網の在り方を模索するといったこともできる。

 デジタルツインは、街などの単位でも適用できる。都市のデジタルツインだ。例としては、自動車を中心とした道路交通網の最適化などが挙げられる。交通網全体の最適化は現実のものとしてイメージしやすいだろう。

 道路には既にETCや監視カメラが設置されており、道路に関するさまざまな環境情報をセンシングできる状態にある。最近は自動車そのものがインターネットにつながり、道路交通に関するデータはモデル化しやすい状況になってきている。しかも、そう遠くない将来、自動運転技術が実用化される。そうなれば、都市全体で渋滞を発生させないようシミュレーションし、それが現実になるよう自動車を外部から制御することは夢ではない。