“テクノロジーの民主化”が新たな福祉の形を生み出そうとしている。これまで福祉と言えば、当事者や福祉工学など“専門家”だけの世界だった。しかし、昨今、福祉を新たな主戦場としてメーカーや技術者が多数参入しているばかりでなく、より多くの人々が参画するようになってきた。

 こうした「福祉×テクノロジー」という新潮流を体感できる場が、本日から渋谷区で開催される「超福祉展」(2017年11月7~13日)だ。「福祉そのものに対する“意識のバリア”を超える」ことを目指し、多角的に福祉にアプローチする超福祉展では、従来の福祉のあり方を超えた新しいテクノロジーやプロダクトが、渋谷という流行の発信地に数多く展示される。今回、超福祉展に登場する4つの出展品から、「超福祉」の世界をのぞいてみよう。

技術の前にまず“気持ち”

アンドハンドで開発中のデバイスの数々。手前側にある丸く半透明のものは「スマート・マタニティ」のデバイス。後ろ側は、白杖に装着するもの、耳付近に付けるものなど、さまざまな形状を検討している。超福祉展では、11月10日(金)15~16時にシンポジウムと体験会を開催するほか、16時からの「超実現ミーティング」にも参加する
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 それは歪が目立つようになった社会の一部分をさりげなくアジャストするもののように見える。「LINE Beacon」とチャットボットを使ったサービス「&HAND(アンドハンド)」は、街中や電車内でちょっと困った状況に陥った障害者と、手助けしたいと思っている人をつなげるものだ。LINE Beaconは、街中に設置されたビーコン端末からの信号情報と連動して、LINEでユーザーとコミュニケーションができるサービスである。

 LINE Beacon対応端末を持ったユーザーが、何か困難が発生した際にスイッチを入れると、LINEのチャットボットを通じて周囲にいる「サポーター」に協力を求められるというものだ。デバイスはキーホルダーや白杖へのアタッチメントなど、使用者に最適なものが選べることを想定している。具体的な使用例として、電車の事故などによるダイヤ乱れで車内アナウンスが流れる際に、ろう者が状況を把握できない場合がある。不安を感じたろう者がデバイスを起動するとチャットボットが作動。近くのサポーターのLINEに通知が届き、サポーターは必要に応じてLINEメッセージで情報を提供する。

 「アンドハンドを通して、手助けをする人の背中をそっと押し、最初の小さな成功体験をしてもらえれば」。プロジェクトチームでリーダー的役割を担当しているタキザワケイタ氏(ワークショップデザイナー、クリエイティブファシリテーター)はこう話す。アンドハンドのチームは、タキザワ氏の呼びかけで集まった9人のメンバーがコア。メンバー全員が企業に在籍しており、プロボノ(各分野の専門家が、自らの知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動)的にこのプロジェクトに関わっている格好だ。

 「目的は技術開発ではなく、アンドハンドを社会インフラとして実装すること。だから、既にある程度普及していて、おばあちゃんでも若い子でも障害者でも、誰もが使いやすいサービスを選ぶ必要があった」(大手広告制作会社の久楽英範氏)

アンドハンド チームのメンバー。前列左から久楽氏、河津氏、今井氏。後列左からタキザワ氏、池之上氏、松尾佳菜子氏。(撮影協力:博報堂アイ・スタジオ)
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 アンドハンドのポイントは“気持ちオリエンテッド”な点にある。UX(ユーザー体験)デザインを担当する池之上智子氏(ビオトープ)は、「これは母へのプレゼントだ」と話す。「障害者を特別に意識してはいない。年を取った母や、なんらかの理由で外に出るのが億劫になってしまった人たちが、気楽に外に出られるきっかけを作りたかった」(池之上氏)

 タキザワ氏は「スマートフォン(スマホ)によって生じた問題を、スマホによって解決しようとする取り組み」と指摘する。電車内でスマホに見入るばかりに生まれた、困っている人に気付かない状況を、スマホでまた解決できる可能性がある。アンドハンドの社会実装に向け、大日本印刷、東京メトロ、LINEと協力し、2017年12月中旬に東京メトロ銀座線で「スマート・マタニティマーク」の実証実験を行う予定だ。

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