[画像のクリックで拡大表示]
古谷 賢一=株式会社ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)

 神戸製鋼所に端を発し、三菱マテリアルや東レの両子会社へと続いた品質データ偽装問題。日本企業の品質の信頼性を揺るがす大きな問題に発展している。氷山の一角とも言われており、多くの日本企業にとって品質管理や保証体制の見直しや対策は喫緊の課題だ。こうした一連の品質不正が起きる背景に「ばらつきに対する理解不足がある」と指摘するのが、「技術者塾」において「世界で戦える工場マネージャー養成講座」の講座を持つ、ジェムコ日本経営本部長コンサルタントの古谷賢一氏だ。ばらつきの理解不足がどのように品質不正問題につながるかについて、事例を踏まえながら前・後編に分けて解説する。後編では、不良品が顧客の要求仕様をすり抜けて出荷される理由を取り上げる。(近岡 裕)

 製造業の現場では、ものを造る際の特性(外観や寸法、電気的特性、機械的特性など)に「製造ばらつき」が必ず発生する。さらに、その特性を検査・測定するときには「測定ばらつき」が必ず発生する。このばらつきの理解は、製造業としてごく当たり前の概念だ。

 ところが、コンサルティングを行っていると、このばらつきの理解が薄れてきている企業が増えつつあることを実感する。日本企業の製品の品質に対して危機感を覚える。製造の現場で今、何が起こっているのか。それを踏まえながら品質データ偽装問題との関係を考えてみたい。

ばらつきの基本を押さえるべし

 まず、前提としての知識から再確認しておこう。ものを製造する際には製造ばらつきがある。従って、目標とする工程での管理規格(工程管理規格)を十分に満足するためには、設計や製造の条件を十分に評価した上で、工程内で狙う「ものの特性」を定める。そうしないと、工程での製造ばらつきにより、工程管理規格を超える不良品の発生を許してしまうからだ(図中の「マージン③」を指す)。

[画像のクリックで拡大表示]

 通常、工程管理規格は社内出荷規格よりも厳しい条件で設定される。工程管理規格と社内出荷規格が同じなら、不都合が生じるからだ。例えば、工程内で検査してギリギリ合格になったものが、出荷前の出荷検査でもう一度検査したらギリギリ不合格になるといった場合だ。これは、測定ばらつきによるものだ。この例のようにギリギリの微妙なレベルでは、「本当に良品なのか、それとも不良品なのか」という真贋議論が巻き起こってしまう。実際、測定ばらつきを考えると、どちらが「真の値」なのかを評価することは技術的に極めて難しい問題だ。従って、こうした問題を避けるために、工程管理規格は社内出荷規格よりも少し余裕を持った値に設定する(図中の「マージン②」を指す)。

 そしてさらに、社内出荷規格は顧客と取り交わした要求仕様よりも厳しい条件で設定される。上記と同様、社内で検査した値と客先で検査した値とでは、測定の場所も測定の条件(加えて、測定機器も違うことが多い)も異なるために、測定ばらつきが必ず発生する。そこで、「真の値はどちらか」という難問を回避するために、社内出荷規格を顧客の要求仕様よりも余裕を持った値に設定するのだ(図中の「マージン①」を指す)。

 理想は「マージン①」~「マージン③」が十分に取れていることだが、技術的難易度が高い製品や、技術開発の途上にある先端製品などでは、それぞれのマージンを十分に取れないこともある。ここで重要なことは、マージンを本来ならばどれくらい取っておくべきか、あるいはマージンが狭い場合にはどのような品質リスクがあるかを正しく把握しておくことだ。品質リスクを正しく把握していなければ、市場流出をどうやって防ぐかという適切な流出防止対策が取れないからである。

この先は有料会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は申し込み初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら