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古谷 賢一=株式会社ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)

 神戸製鋼所に端を発し、三菱マテリアルや東レの両子会社へと続いた品質データ偽装問題。日本企業の品質の信頼性を揺るがす大きな問題に発展している。氷山の一角とも言われており、多くの日本企業にとって品質管理や保証体制の見直しや対策は喫緊の課題だ。こうした一連の品質不正が起きる背景に「ばらつきに対する理解不足がある」と指摘するのが、「技術者塾」において「世界で戦える工場マネージャー養成講座」の講座を持つ、ジェムコ日本経営本部長コンサルタントの古谷賢一氏だ。ばらつきの理解不足がどのように品質不正問題につながるかについて、事例を踏まえながら前・後編に分けて解説する。まずは前編で、生産現場が品質不正に向かう理由を取り上げる。(近岡 裕)

 品質データ偽装のような品質不正問題が報じられるたびに、少し違和感を覚えていた。違和感の理由ははっきりしなかったのだが、あるメディアの記者と意見交換した際の質問で、「ああ、これがメーカーと市場との認識の差か」と、違和感の正体に気付かされた。

 質問は素朴なもので「なぜ、不良が生産されて出荷されることになるのか?」というものだ。当たり前の疑問だが、この根底には「メーカーは努力を重ねて、不良が出ない工程を造るべきだ。不良が発生するような工程を運用している会社は信用できない」という考えがあるということだ。

 道理で、記者会見などで「社長は、工程で不具合が発生していることを認識していたのか」や、「不良が出るような工程を放置していた品質軽視の姿勢が不正を引き起こしたのではないか」といった質問が出るはずだ。確かに、不良を減らすことは、企業を経営する上で重要な課題であることは間違いない。だが、この考えには欠けたものがある。それは「ばらつき」の概念だ。

 品質不正の問題を議論する際に、ばらつきの概念がないままに企業の責任論だけを語ってしまうと、問題の本質を捉えきれない危険性がある。しかも、実は当事者であるメーカー内部でも、ばらつきの概念が薄れてきていることにも併せて警鐘を鳴らす必要がある。

ばらつきの概念とは何か

 ある機械で金属棒を一定の寸法に切断する場面を考えよう。機械の設定を、棒の長さが100mmになるように切断する作業を開始するとどうなるだろうか(図1)。出来上がった棒の寸法は、ぴったり100mmだろうか。

 実は違うのだ。切断した金属棒の長さを計ってみると、100.01mmの場合もあれば、99.97mmのときもある。おおむね100mmだが、実際にいくつも金属棒を切断してみると、その都度微妙に違った寸法になっている。これがばらつきと呼ばれるものだ。

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 極めて高価で精密な設備を使えば、ばらつきをごく小さなものにすることもできるが、それでもばらつきをゼロにすることはできない。100.001mmとか99.999mmといった100mmにかなり近い寸法で切断できるだけだ。稀にちょうど100.000mmとなることもある。

 逆に、安価で精度がそれほど良くない設備を使えば、ばらつきは大きくなる。100mmを狙っても、切断された寸法は102mmだったり97mmだったりする。

 一般の人は意外に思うかもしれないが、ばらつきがゼロの工程を造ることは物理的に不可能なのである。現実にコントロールができるのは、ばらつきが大きいか、小さいかということだけだ。一般にばらつきを小さくするためには、高い技術力も必要だが、高価な設備を使うなどコストを掛ける必要がある。逆にばらつきを大きくすることを容認すれば、安価な設備を使ったり、管理を緩くしたりすることができるのでコストを下げられる。製品に求められるコストや特性のレベルを勘案し、どの程度のばらつきで、ものづくりを行うかを決める。これがメーカーの実態なのである。

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