まず、ブランディング戦略が考えられる。年齢、ライフスタイル、業種などで需要家をセグメント化し、それぞれの顧客のニーズごとにブランドを確立する。福祉を本業とする新電力が、子育て世帯にとりわけ低価格で電気を販売するなど、「本領発揮」と周囲に認知されるような戦略である。

 また、ビッグデータ分析で電力サービスの充実を図る方法もある。スマートメーターや需要家とのインターフェース情報を収集し、分析することで需要家の満足度を高めるサービス開発を効率的に行う戦略だ。

 あるいは、エネルギーの価値にこだわった「地産地消・再生可能エネルギー供給戦略」、蓄電池やネガワットを組み合わせた「デマンドレスポンス戦略」なども考えられる。

 そのほか、電気料金の定額化や特定需要家向けメニューの構築といった「料金メニュー戦略」、家庭内の機器をIoT(モノのインターネット化)技術で結ぶホームオートメーションと並行してエネルギー管理も行う「スマートホーム戦略」もあるだろう。そして、自治体へのエネルギー供給だけでなくエネルギー管理も行うことで地域全体を囲い込む「スマートコミュニティ戦略」も有望だ。

 筆者はこれらを「7つの戦略」と呼んでいる。

生き残るには独自の付加価値が不可欠
新電力の「7つの戦略」(筆者作成)
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水遊びをやめて、堤防を築け

 7つの戦略はいずれも2010年頃から唱えられているビジネスモデルである。そのため、決して目新しい革新的なモデルとは言えない。

 しかし、新電力が自らの電力の価値をどのように捉えるか、そのベクトルを明確にするためのコンパスの役割を持っている。新電力は、大手電力と電力販売という土俵で競争して利益を上げることは仮に容易でないとしても、電気に自由に価値を付加して需要家に提示することができる。価値のベクトルを定めることは重要な課題であり、命題と言える。

 一方、大手電力は価格以外で電気の価値を提供することは得意ではない。仮に、ある地域で新電力が電力、ガス、水道、熱、そして地域のエネルギーマネジメントも一括で提供するサービスを確立しているような場合、大手電力が電力だけを割り引いても競争優位に立てるわけではない。大手電力がこうしたサービスに対抗しようとガスや水道、熱も用意するのは、負担が大きくメリットよりもデメリットが大きいだろう。この時、新電力は地域の総合エネルギー管理サービスという価値でもって、大手電力に対して防衛策を構築したことになる。

 このように、大手電力が提供困難な価値をどうやって実現するかが新規参入組の生き残る道である。価格ではなく、価値の競争。そういう時代に突入しつつあるのだ。

 2020年まで2年とわずか。これが、大手電力が引き起こす大津波に備えて堤防を築くまでの時間である。次回以降、新電力の目指すべき戦略を、まずは7つの戦略について海外のビジネス事例なども引き合いに出しながら紹介していく。そのうえで、新電力が採り得る、大手電力を脅かすような大戦略につながる構想を練っていきたい。

村谷 敬(むらたに・たかし) 村谷法務行政書士事務所・所長
2008年に行政書士として太陽光・風力発電の建設手続きに関与したのを契機に電力の世界へ。エナリスで需給管理業務を極めた後、エプコにて電力小売事業部長として新電力事業を運営。その後、行政書士事務所を立ち上げ、新電力や自治体新電力へのコンサルティングも手がける。