ゼロベースでの見直しを評価する猪瀬直樹氏(写真:的野 弘路)
[画像のクリックで拡大表示]


猪瀬 直樹(いのせ・なおき)氏

作家。1946年、長野県生まれ。87年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』で96年度文藝春秋読者賞受賞。以降、特殊法人等の廃止・民営化に取り組み、2002年6月末、小泉純一郎首相より道路関係四公団民営化推進委員会委員に任命される。06年10月、東京工業大学特任教授に任命。07年6月、東京都副知事に就任。12年12月、東京都知事に就任。13年12月、辞任。

迷走の末に安倍晋三首相の決断で白紙撤回されたザハ・ハディド・アーキテクツのデザインによる新国立競技場の整備計画。大幅に増額した整備費や技術的な課題など、「新国立の敗因」には様々な要素が含まれる。なぜ、整備計画はゼロベースで見直さなければならなかったのか。識者の意見からその理由を探る。第1回目は作家の猪瀬直樹氏。2020年東京五輪の誘致時に東京都知事だった猪瀬氏は、太平洋戦争と新国立競技場の問題には運営側の機能不全という共通点があったと説く。 (このインタビューは7月23日に行いました)

――新国立競技場は安倍晋三首相の決断でゼロベースでの見直しとなった。この決断をどうみたか。

猪瀬 直樹氏(以下、猪瀬):安倍首相の下した「聖断」だった。新国立競技場の問題は「誰も決められない」「時間だけが失われる」なかで悪い方向に進んでいた。五輪の誘致では日本が一丸となって東京の良さを売り込んだ。この勝利は「チーム日本」のものだ。しかし、五輪に向けた準備段階はどうか。チーム日本は解体され、関係者の当事者意識は失われ、大きな声を上げるリーダーも不在となった。新国立競技場を巡る迷走は、世界に向けて日本のイメージを下げる宣伝になってしまった。

 安倍首相の決断は遅かった。メーンテーマとして安全保障法制の成立に全霊を傾けているからだろう。旧国立競技場の解体工事も5カ月遅れており、2020年の東京五輪開催まで残された時間は限られている。だからこそ、再びチーム日本の力で間に合わせる努力が必要だ。特にコストの膨らみに目を光らせる意味でも、民間の知恵を入れながら新国立競技場建設計画を再検討する必要がある。

 いっそのこと、資金は民間から募ってはどうか。多くの日本企業は業績が回復基調にある。増益で過去最高の経常利益を計上した企業も少なくない。こうした好業績企業を数十社ほど集めて資金面で協力してもらう。そうして、東京五輪の開催後にはスタジアムの運営を民間に任せる。施設を維持するための運営面でも黒字化の知恵を絞ってくれるだろう。