タイミングデータを手書きで記録

 ブオオ~ン。爆音を鳴り響かせてフォーミュラカーがピットを飛び出して行く。そして、ピットに帰還するとエンジニアたちが車両を取り囲み、慌ただしく作業する――。

 ここは陶器の益子焼で有名な益子町にほど近い、栃木県にあるサーキット場「ツインリンクもてぎ」だ。2018年8月17日、NAKAJIMA RACINGのチームは、翌日のSUPER FORMULA第5戦の公式予選に向けて練習走行を繰り返し、車両の調整を進めていた。練習のセッションなどでは時間内にできる限りいろいろなことを試して、車両の状態や作戦を完璧に仕上げてから決勝のスタート順を決める予選を迎える必要がある。

 NAKAJIMA RACINGは今シーズン、データの活用面で一歩先に進んだ。最も大きいのがタイミングデータを一元的に管理・表示できる「ダッシュボード」の開発だ。タイミングデータはチームにとって非常に重要なデータである。例えば、「タイミングデータをリアルタイムで見れると、自車両がコースのどの区間(セクター)で速いのか・遅いのか、一目瞭然になる。車両データとの相関を見て対策を練ることができる。また、自車両は2台あるので、お互いの状況を随時共有できる。1台のデータだけだとタイムが遅くても、それが車両に原因があるのか、タイヤに原因があるのか、などが分からない」と中嶋企画プロジェクト コーディネーターの平野亮氏は言う。

 ところがこれまで、タイミングデータの記録は骨が折れる作業だった。他のレースではネットワーク経由で配信されたデータを専用のアプリケーションで参照可能な場合もあるが、SUPER FORMULAの場合、主催者がサーキットの放送設備を通じ、タイミングデータを表示した画面を有線で地上デジタル放送で配信している。しかも、そこには直近の周回情報のデータしか表示されない。さらにサーキットによってデータの表示形式が異なり、例えばツインリンクもてぎは1画面に14台分、オートポリス(大分県)は19台分の情報などとバラついていた。

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SUPER FORMULAの主催者が各ピットに地上デジタル放送で配信している、タイミングデータを表示した画面。直近の周回情報のデータしか表示されない。「65」番はNAKAJIMA RACINGのレーサー

 エンジニアはそれが表示されたモニターを見ながら、タイミングデータを手書きで所定のシートに記録していた。チームの戦略を左右する重要なデータなのに、まさに“一昔前”のやり方を余儀なくされていたのだ。

所定の用紙に手書きで記録されたタイミングデータ。チームにとって重要な情報だが、アナログなやり方が残っていた
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 問題は、エンジニアが自車両のデータを転記するのに精いっぱいで、他チームに速い車両がいてデータを記録したくても時間がなくて記憶があいまいになっていたりしたことだ。放送映像をVTRで録画していたこともあるが、その映像を管理して運用するのも大変だった。