AI解説者の正解率は現在40~50%

―― さまざまな産業でAIの活用が注目を集めていますが、スポーツにおけるAI活用の可能性をどう見ていますか。

金沢 現状では映像などからデータを取得する部分について、ディープラーニング(深層学習)などを使って自動化するための技術開発が進んでいます。これは「アナリストの支援」という見地から有効だと思います。

 例えばAutomagi(オートマギ)という企業は、ディープラーニングを使って、サッカーの「パスか」「パスでないか」という“意味”を自動で判別できるシステムを開発しています。これが実用化されれば、今、我々が手作業で取っているデータも自動で取得できます。そうなれば現在のJ1、J2、J3だけでなく、JFLやフットサルでも“意味”のあるデータを取得できるようになる可能性があります。

 その次はAIによる分析です。これまでの分析ツールにはデータというファクトが入っていて、アナリストがそれらを分析して戦術を構築したりしていましたが、AIを活用して「次はカーブを投げましょう」などと戦術を自動的に提案するツールに進化させるのが大きな動きです。決してアナリストが不要になるわけではありませんが、我々がいろいろ考えながらやっていたことの恩恵を、誰でも受けられるようになります。

 「この選手を獲得したら3位以内に行ける確率が何%」など、選手をスカウティングした後の活躍を占うAIができれば、球団からニーズがあると思います。その場合は、分析に正確性が求められます。

 AIを活用したコーチングのツールは、将来的に学校の部活動などアマチュアレベルで重要になってくると思います。部活動でコーチが不足していて十分な指導ができないケースが多いからです。そもそも、上手な指導の仕方が分からない人を支援するツールにはニーズがあるでしょう。

―― 野球の試合をAIが解説するプロジェクトも始まっていますね。

金沢 電通はディープラーニングなどを活用した「AIスポーツ解説プロジェクト」を始動させています。その第1弾として、NHKの野球関連番組用にスポーツ解説システム「ZUNO(ズノさん)」を開発しました。そこでは、データスタジアムが保有する、2004年から記録されている300万球を超える打席データを使います。データを学習することで、AIが配球や勝敗、順位などを予測したり、解説者では見つけることのできない選手のプレーの傾向や試合状況に応じた投球の分析をします。

AIを活用したスポーツ解説システム「ZUNO(ズノさん)」(画像:NHKのホームページから引用)
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 実際、ZUNOを使って2つの試合でピッチャーが投げた合計600球分の毎球予測を実施しました。正解率は40~50%で、現時点ではまだ人間の方が精度が高い状況です。

―― 人間の解説者の方が精度が高いのは、300万球というデータの量が不足しているということですか。

金沢 いいえ、量ではなく質が不足していると思います。ピッチャーが投げたときのバッターの視線や踏み込んだ足の位置などの情報が入ってきたら精度は高まると思います。現時点では、こうした選手に関する情報が入っていないのです。

 グラッドキューブという会社が運営するスポーツメディア「SPAIA」では、AIによるプロ野球の勝敗予想をしています。現在の的中率は約53%(2017年10月初旬時点)ですが、これが80%程度に高まれば、球団が予測ロジックに興味を抱いて採用し、今の選手補強が正しいのかをオーナーなどに説明したりするのに使われるかも知れません。

 AIの活用が期待される領域には「メンタル」もあります。「今、このバッターは緊張しているのか」など選手の精神状態を計測するニーズは高いのですが、プライバシー問題の懸念もあります。こうしたパーソナルデータをどこまで使えるのか、議論があるところです。