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スポーツIT革命の衝撃

歴史と革新 IBM、ウィンブルドン観戦にAIで「新体験」

2018/08/08 05:00

内田 泰=日経 xTECH

 1877年に第1回大会が開催され、テニスの四大大会の中でも最も古い歴史と格式を誇る「ウィンブルドン選手権」。毎年、世界から英国ロンドンに数多くの観客(2017年の合計観戦者数は47万3000人)が押し寄せるスポーツ界のビッグイベントは、歴史を重んじているだけでなく、先進テクノロジーを積極的に取り入れ、年々進化を遂げている。

ウィンブルドンのNo.1コート前の丘「マレー・マウント」。センターコートやNo.1コートのチケットを持っていない観客でも、大型スクリーンでライブ観戦できる(写真:日本IBMの岡田明氏が撮影)
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 7月2~15日まで開催された今年の大会では、最新のAI(人工知能)やAR(拡張現実感)などを取り入れ、これまでにない観戦体験を実現した。テクノロジーを提供したのは、ウィンブルドン選手権を主催する英All England Lawn Tennis and Croquet Club(AELTC)と1990年から29年の長期に渡ってパートナーシップを継続している米IBMである。

No.1コートのスタジアム内に設置されたIBMのスイートルーム。ウィンブルドンにはこのような企業のスイートルームが多数ある。大会期間中はIBMのみならず、多くの企業がホスピタリティープログラムを提供していた(写真:岡田明氏が撮影)
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 IBMが2015年からウィンブルドン選手権に提供しているAI「Watson(ワトソン)」を活用したサービスは今年、さらに強化された。ファンとの結びつき、すなわち「ファンエンゲージメント」を高めるためのAI活用の好事例となっている。

試合終了後、5分でハイライト映像

 2018年のウィンブルドン選手権におけるAI活用の最新事例を具体的に見てみよう。主な取り組みは、1. 試合のハイライト映像の自動編集、2. インスタントメッセンジャー「Facebook Messenger」へのチャットボットの実装、3. 150周年記念のポスターをAIが作成、などである。

 1のハイライト映像は、テニスファンの間で特に人気が高い。テニスは試合時間が比較的長い。ウィンブルドンなど四大大会の男子の場合、5セットマッチなので3時間以上におよぶ事も珍しくない。このため、自分が見逃した試合のハイライト映像を数分でチェックしたいというニーズは強い。

 従来はAELTCのデジタルチームが試合映像を実際にチェックして編集していたが、早い場合でも公式サイトのWimbledon.comにアップできるのは試合後45分が経過してからだったという。この編集作業をAIを使って自動化することで、試合終了後、わずか5分で映像を生成できるようになった。

公式サイトWimbledon.comで試合のハイライト映像などを紹介する「VIDEOS」。AIの活用で、試合終了後5分でハイライト映像を生成できるようになった(図:Wimbledon.com)
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 AIは映像から「Excitement Level(盛り上がり度)」を独自の基準で判定し、その基準を超えた試合のハイライト映像を自動で生成する。Excitement Levelは3つの要素で決める。第1に観客の声援、つまり音声から試合の盛り上がり度合いを判定する。過去の試合の音声を機械学習させてAIに判断させる。

 第2にマッチアナリティクス(試合の分析)。例えば、ラリー回数が多いなど試合内容の分析から「プレーのすごさ」を判定する。第3に、選手のガッツポーズなどのジェスチャー。選手は試合の重要な局面でガッツポーズすることが多い。こうしたジェスチャーの映像をあらかじめ機械学習させておく。

 ただし、AIが自動生成したハイライト映像をそのまま公式サイトに掲載するのではなく、AELTCの担当者が映像を選別して、ハイライト映像などを掲載する「VIDEOS」の画面を構成しているという。なお、ハイライト映像の自動生成アルゴリズムは、2017年の「全米オープンテニス」やゴルフのメジャー大会「マスターズ・トーナメント」で採用されたものと同じものを使っているという。

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