Bリーグ川崎、データ駆使でケガ「ゼロ」への挑戦

2018/05/25 05:00

内田 泰=日経 xTECH

 2018年5月26日に2017~2018年シーズン最後の試合となる、年間チャンピオン決定戦が開催されるプロバスケットボールのBリーグ。今シーズンはトーナメント戦のチャンピオンシップ(CS)大会の準々決勝で敗退したものの、2年連続でCS出場を果たした強豪が川崎ブレイブサンダース1である。

B1に所属する川崎ブレイブサンダースの試合の様子。2018~2019年シーズンからオーナー企業が現在の東芝からDeNAに変わることが決まっている
(写真(C)川崎ブレイブサンダース)
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*1 川崎ブレイブサンダースを運営するTBLSサービスの親会社である東芝と、ディー・エヌ・エー(DeNA)は、DeNAの子会社「DeNAバスケットボール」が2017~2018年シーズン終了後にTBLSサービスのバスケットボール事業部門を吸収して7月1日までに運営体制の移行を完了することで基本合意している。

 この強さの裏には、ある“武器”が存在する。「データを駆使した選手のコンディション管理とケガ予防」である。同チームはこの点において、現時点でB1、B2の合計36チームの中で先頭を走っていると言ってもいいだろう。

 その武器とは、プロサッカーチームを中心に採用が進んでいるスポーツ向けGPS(全地球測位システム)デバイスを活用したコンディション管理である。ただし、サッカーと異なり屋内で競技するバスケットボールの場合、GPSの信号が屋内に届かないため、デバイスが内蔵する加速度センサーのデータを主に使う。

 同チームで管理栄養士、ストレングスコーチ、アスレティックトレーナーを統括し、選手のコンディションを管理する責任者が、TBLSサービスの吉岡淳平氏(バスケットボール事業部チーム担当川崎ブレイブサンダース フィジカルパフォーマンスマネージャー)である。同氏は「(デバイスを採用していなかった)昨シーズンは、完治までに2週間以上~3週間超のケガが3件発生した。その主力3人が欠場した試合の合計数は40試合近くにも上る。それが今シーズンは2週間以上試合を休むようなケガはほぼ出ていない」と、導入の効果を語る。

TBLSサービスの吉岡淳平氏。同社バスケットボール事業部チーム担当川崎ブレイブサンダース フィジカルパフォーマンスマネージャー
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選手全員が練習中に装着

 川崎ブレイブサンダースが使用しているのは、オーストラリアCatapult(カタパルト)が販売するスポーツ向けGPSデバイス「OptimEye S5」である。カタパルトはサッカーを中心に世界で1500チーム以上を顧客に持つ、この製品分野のリーダーである。

カタパルトの「OptimEye S5」。GPSに加えて他のGNSSにも対応。加速度/角速度/地磁気センサーを内蔵する(写真:カタパルト)
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 同チームが本格導入したのは2017年11月で、Bリーグでは現時点でも唯一。練習中に選手全員の15名が装着してデータを取っているという。

 同チームではS5が内蔵する加速度センサーを使い、プレー時の加速・減速、ジャンプ、前後左右への動きを計測し、それらを合計した「プレーヤーロード」を算出。選手に対する練習や試合での負荷をチェックしている。試合ではまだあまり装着していないため、負荷はシーズン中に実施した練習試合や練習中のプレーヤーロードの1分間当たりの平均値に、出場時間を掛けて算出しているという。

 「ヘッドコーチが求めているのは、チーム練習の強度や運動量。これまでは比較できるデータがなかった。それがS5でデータを4週間程度取ることで、およそ分かってきた。試合での選手のパフォーマンスを見ながら『練習をもっとしても良かった』などと数字で判断できるようになった」(吉岡氏)

 同チームではS5以外に、選手に対して「起床時の精神的および肉体的な疲労度」「睡眠が十分に取れたか」「体に痛みがないか」など、主観的な情報を入力させてクラウドに蓄積している。両者を突き合せてみると、データで負荷が高いときは疲れを感じているなど、主観データとS5の客観データには相関関係がかなり見えているという。こうしたデータを元に「1週間の理想的な過ごし方・ルーティン」を作ることを目標にしている。

選手がOptimEye S5を装着したところ。“デジタルブラジャー”とも呼ばれる装具を着けて背中の部分のポケットに入れる(写真(C)川崎ブレイブサンダース)
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「1.3」超でケガのリスク増

 興味深いのは、ケガのリスクを下げるための数値的な指標が得られたことだ。

 プレーヤーロードについて、過去1週間の平均値「acute(急性の)」を過去4週間の平均値「Chronic(慢性の)」で割った値が1.3を超えるとケガのリスクが高まることが分かってきたという。これはラグビーでの研究から得られた考察だが、バスケットボールにも当てはまるという。つまり、Chronicは選手のその時のフィジカル状態を表す。これに対して、短期的な負荷で疲労につながるacuteの数値が高くなればケガをしやすくなるという訳だ。

チーム全体のプレーヤーロード。過去4週間(Chronic:薄いピンク)と過去1週間(acute:茶色の棒)の全選手のプレーヤーロードの平均値の推移。赤い折れ線グラフがacute/Chronicの値(図:川崎ブレイブサンダース)
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 「2018年1月の天皇杯は準決勝で敗退した。そのあと選手は1週間オフを取り、その後、公式戦が再開された。オフを取ったことでChronicの値が下がり、acute/Chronicの数値が1.3を超えたことで、ケガ人が3人も出てしまった。もともとの持病の悪化だが、これは防げたはずだ」(吉岡氏)。そこで、チームとしてacute/Chronicの数値を0.8~1.3の間に収めるように選手の負荷を調整しているという。

練習での選手ごとのプレーヤーロード(赤い棒グラフ)と、acute(過去1週間のプレーヤーロードの平均)をChronic(過去4週間のプレーヤーロードの平均)で割った値(水色の点)。水色の点を0.8~1.3の間に収めるように練習をコントロールしている(図:川崎ブレイブサンダース)
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全選手が同じコンディションでいてほしい

 これまで、コンディション管理の責任者である吉岡氏の悩みは、試合に出ている選手と出ていない選手のコンディションの違いにあった。

試合のプレー時間が10分あるかないかの選手(A)と25分程度出ている選手(B)の過去4週間(Chronic)のプレーヤーロード平均の比較(図:川崎ブレイブサンダース)
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 Bリーグの試合でベンチ入りできる選手は12名だが、そのうち試合に長時間出られる選手は6~7人に限られる。彼らのプレー時間は毎回およそ20~25分以上あるのに対し、3~5分しか試合に出られない立場の選手もいる。当然、試合に出ていない選手のコンディションは、出ている人になかなか追いつけない。

 川崎ブレイブサンダースでは、週末の試合に合わせてコンディション調整をしている。例えば、金曜日に試合があるときは「水曜日に全選手が同じコンディションでいてほしい。これまで試合に5分しか出ていない選手がいきなり20分出なくてはいけないときもあるからだ」(吉岡氏)。こうした時にコンディションが良くないと急激に負荷がかかってケガをしやすくなる。

 「カタパルトのデバイスを使って1番よかったのは、試合に出れていない選手のコンディショニングにいい影響を与えていることだ」と吉岡氏は語る。

練習参加率90~95%を目指す

 吉岡氏には、チーム全体のコンディション管理においてもう1つの指標がある。

 これまで同氏が川崎ブレイブサンダースに加入してから優勝にからんだことが4シーズンある。これらのシーズンを振り返ると、開幕から終了までのチーム練習の参加率が90~95%に近いほど優勝している。

 2013~2014年シーズンにBリーグの前身のNBL(ナショナル・バスケットボール・リーグ)で優勝した際にはケガ人が出ず、練習参加率は95%だった。2015~2016年シーズンは90%。2016~2017年シーズンは、天皇杯、Bリーグともにファイナルに進出したが94%。2017~2018年シーズンは2018年4月中旬時点で92%だという。

 「練習をコントロールしないと95%は達成できない」と話す吉岡氏にとって、GPSデバイスの活用は、ターゲットの実現に向けて手放せないツールになっている。

 プロスポーツチームにとって、選手のケガは多大な損失につながる。ひとたび選手が離脱すれば、戦力ダウンとなるほか、投資が無駄になってしまうことさえある。2013年度の試算だが、ケガによるプロスポーツリーグの経済的損失は、米メジャーリーグMLBで約6億6500万ドル、米プロバスケットNBAで約3億5800万ドルに上るという。いずれも莫大な金額だ。

 S5の利用料は、価格だけを見ると決して安くはない。チーム全体では年間で数百万円レベルの出費になるという。それでも、ケガによる経済的損失の大きさを考慮すると、「データを駆使したコンディション管理」のコストは高くないと言えるだろう。