サッカー、ロシアW杯で解禁「リアルタイムのデータ活用」

2018/05/23 05:00

内田 泰=日経 xTECH

 国際サッカー連盟(FIFA)は2018年5月16日、サッカーW杯(ワールドカップ)ロシア大会(6月14~7月15日)で、トラッキングシステムが取得したプレーのデータを各チームがリアルタイムに活用する仕組みの導入を発表した。サッカーのルールの制定など重要事項を決定する機関である国際サッカー評議会(IFAB)が、小型の携帯端末をベンチに持ち込むことを認めたことを受けての決定である。

FIFAが2018年5月16日に出したプレスリリース。W杯ロシア大会でプレーヤーのスタッツを見られるタブレット端末が試合で使用されることを伝えた(図:FIFA)
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 昨今、多くのスポーツでトラッキングシステムの導入が進んでいるが、リアルタイムでのデータ活用を認めているリーグや大会は数少ない。先進事例の一つは、女子テニス協会(WTA)が運営する女子プロテニスのツアー大会である。

2台のタブレットを提供

 W杯ロシア大会では、各チームにFIFAが公認したタブレット端末が2台提供される。1台はスタンドから試合を観察するチームのアナリスト向けに、もう1台はベンチにいるコーチングスタッフ向けである。

 トラッキングシステムは2台のカメラを使用するもので、選手とボールに関する位置データを取得する。統計処理したデータとライブの映像はアナリスト向けに設置されたサーバーに転送され、タブレットのアプリでそれらを参照できる。

 アナリストは選手のプレーデータを解析して、試合の状況を評価。アナリスト向けの専用アプリを使って戦術について検討すべきポイントを絞り込める。そしてタブレット端末でポイントを書き込んだ静止画を、チームのテクニカルスタッフに送り、アシスタントコーチと無線で話し合える。アシスタントコーチはチャットツールを使ってメッセージを返答するなど、アナリストと戦術などについて試合中に議論ができる。

 こうしたシステムの導入によって、ハーフタイムにおける後半の戦い方の指示をデータに基づいたものにすることが可能になる。さらに試合の分析結果は、FIFAが試合後に、各チームに提供するという。

リアルタイム活用に向けた体制が不可欠

 実は、このシステムは2017年7月2日にロシアで行われたコンフェデレーションズカップ2017の決勝戦で、試験的に導入されていたようだ。FIFAによると、タブレット端末には選手やボールの位置データのほかに、選手の走行スピード、パスやプレス、タックルといったプレー内容の統計データに加えて、試合の映像が30秒間の遅延で配信されたという。今回のW杯でも同様のデータや映像が提供されると見ていいだろう。

 なお、既にJリーグでもトラッキングシステムによって、J1のすべての試合をデータ化しているが、リアルタイムでのデータ活用はまだ認められていない。

 Jリーグでは、米ChyronHegoの「TRACAB(トラキャブ)」というトラッキングシステムを利用している。TRACABは別方向を向いた3台のカメラが1つのボックス内に収められた装置を使う。スタジアムにはこの装置を2台設置して、ピッチを俯瞰。1秒間25フレームの映像から、「誰がどこにいたのか」という座標データを取得し、それを基に各選手の走行距離、スプリント回数、トップスピードなどを算出する。

「TRACAB(トラキャブ)」の専用カメラ。別方向を向いた3台のカメラが1つのボックスに収められている。写真はサッカースタジアムへの設置例(写真:データスタジアム)
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 リアルタイムのデータ活用は、W杯という世界最高峰の試合に大きな影響を及ぼす可能性がある。ただ、それをフル活用するには、リアルタイムでの分析に対応したチームの体制が不可欠になる。この点でも、優勝候補の一角であるドイツ代表チームは世界の先端を走っているとも言われている。