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スポーツIT革命の衝撃

“知”の言語化と汎用化、「熟達者AI」のスポーツ変革

「スポーツアナリティクスジャパン2017」から(6)

2018/04/02 05:00

久我 智也

アスリートの見えざる可能性を顕在化

 講演の後半では、もう1人の登壇者である佐々木氏のブレインモデルを作成し、それをバスケットボールをプレーする中学生に見せるとどのようなことが起こるのか、という試みが紹介された。

B.LEAGUE公認アナリスト/WOWOW NBAアナリストの佐々木クリス氏。現役時代には千葉ジェッツや東京サンレーヴスなどでプレー。現役引退後からNBAアナリストとして解説を始める。2017-18シーズンよりB.LEAGUE公認アナリストに就任。データを駆使した分かりやすい解説には定評がある
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「我々はまず、佐々木さんが試合を解説した際のコメントを分析していきました。それを見てみると、戦局の変化や試合状況の説明といったことはもちろん、記録やルールに関する客観的な情報、プレーヤー経験と事前の取材に基づく主観的な情報を織り交ぜ、巨視的と微視的、その両方の情報を余さず紹介していることが分かります。そして、佐々木さんのコメントから特徴的な部分を抽出してブレインモデルを作成しました」(乙部氏)

「バスケットボールは2つのチームが必ず同じ回数攻撃する競技です。そこで相手を上回るためには数的優位を作ることが必要です。“ピック&ロール”はそれをもっとも作りやすい連携戦術で、非常に重要です。その他のものも、現代バスケットボールにおける重要なキーワードです」(佐々木氏)

 このブレインモデルをバスケットボール経験1年半の14歳の少年に見せて大事だと思うキーワードを選択してもらったところ、「オフェンスリバウンド」「得点効率」「シュートバランス」という3つを抜き出したという。こうしたワードを選択した彼について、佐々木氏は「センスを感じる」と評価した。

「バスケットボールは相手よりも効率よく得点を獲るゲームですので、得点効率はとても重要なキーワードです。オフェンスリバウンドとシュートバランスも、得点効率を高めるためにはなくてはならないもの。14歳という年齢で競技の特性を理解していることは素晴らしいと思います」(佐々木氏)

 言葉に触れ、言葉を選択することで、プレーだけでは見えないアスリートの可能性を顕在化させる。熟達者AIにはそうした効果もあるのだろう。

佐々木氏のブレインモデルから特徴的なキーワードを抽出した図。現代バスケットボールには欠かすことができないキーワードが並んでいる
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AIでスポーツ中継の可能性広がる

 講演の最後に、熟達者AIがメディアに与える影響について紹介がなされた。

「佐々木さんがNBAの解説をしているWOWOWの放送プロデューサーの方に、AIに期待することを伺いました。1つは“佐々木クリスの有能アシスタントになり得る”ということです。佐々木さんは解説に臨む際、非常に入念な準備をされています。その分、中継スタッフは佐々木さんに頼りがちになってしまうそうなのですが、そこをAIがやってくれるのであれば人間の負担を減らす効果もあるのではないか、ということでした。

 2つめは“解説者への寄せの指示”をできるということです。例えばワンサイドゲームなどの場合、どうしても解説者のコメントに偏りが出てしまうそうです。そうした状況に陥った際、AIが解説の偏りを教えてくれたり、興味深いデータを提示してくれるなど、何らかの気づきを与えてくれれば生放送中に放送の質を上げることができるというのです。

 3つめに挙げられたのが“情報インサートの判断”、つまりライブ中継のテロップの挿入です。中継中のテロップについて、WOWOWはこだわりを持ち、佐々木さんとともにノウハウを作り込んでいたそうなのですが、それをAIに任せることができれば人の負荷は下がり、放送の質も向上できるだろうと言われていました」(乙部氏)

 「乙部さんがお話しされた通り、私は取材や情報収集などの事前準備をしっかりとして中継に臨んでいます。特に数字やデータというエビデンスを添えることが自分の強味ではありますが、抽出、集計にかかる労力も大きく、一方で自分自身を縛ってしまっている部分もあります。その準備をAIが担ってくれるようになれば、自分の視点を磨き上げたり、戦術面の知識を蓄えたり、よりクリエーティブな部分に注力できるようになるでしょう」(佐々木氏)

 アスリートだけではなく、エンターテインメント部分においても新たな視座を提供することが期待される熟達者AI。今後どのような進化を遂げていくのだろうか。