「ライブビューイング」ITでエンタメ化 Bリーグ新たな挑戦

2018/02/01 05:00

浅野智恵美

 2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック。国際的なスポーツ・ビッグイベントの日本開催を控え、スポーツの視聴体験の一つとして期待されているのが「パブリックビューイング」や「ライブビューイング」である。

   Bリーグは2018年1月14日、ICT(情報通信技術)サービスパートナーとして契約している富士通の協力の下、「次世代型ライブビューイング B.LIVE in TOKYO」を東京・恵比寿のガーデンプレイスで開催した。これは同日、熊本県立総合体育館で開催されたBリーグ・オールスター戦を恵比寿会場で同時中継するもの。先端のICTを活用することで、従来のパブリックビューイングとは一線を画すものとなった。

2018年1月14日に開催された「次世代型ライブビューイング B.LIVE in TOKYO」。ICTは富士通がサポートした
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52個のマイクで集音

 今回のB.LIVE in TOKYOは、さまざまなテクノロジーの結集によって実現した。同イベントには大きく5つの特徴がある。

 第1に、サウンドシステムによる“コートにいるかのような臨場感”。熊本会場ではコートサイドや天井から観客の声援を20個のマイク、つまり20チャンネル(ch)で集音。それを恵比寿会場では20チャンネルのスピーカーで再現することで、観客は“動きのある音”を体験できる。

熊本会場における集音体制。黄色の星は32個の床下マイク。会場全体で52個のマイクが仕掛けられている(図:富士通)
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 また、床下からは32個のマイクでバスケット特有のドリブルの音や、バッシュ(バスケットシューズ)が床をこする音、選手が走ってくる音などを集音、恵比寿会場の8チャンネルのスピーカーで再現した。ファンの歓声など不要な音声は、除去・調整される。

地下のコート下や天井にマイクが設置されている(図:富士通)
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 第2の特徴は、会場の2カ所に設置された「体験ゾーン」だ。体験ゾーンに立つと、試合をさも近くで見ているかのような“振動”を味わえる。攻守の切り変わりに応じて、選手が近づいてくる・遠ざかっていく、といった様子をリアルに表現した。

 第3の特徴は、4K映像と音声の高速配信。B.LIVE in TOKYOでは熊本・東京間で声の掛け合いなどを、試合開始前のオープニング演出時、ハーフタイム、試合終了後のエンディング演出時に行った。掛け合いを観客にスムーズに見てもらうためには、スピード感が重要となる。それをわずか0.3秒という速さで実現させ、双方の会場の盛り上がりをリアルタイムに共有した。

 一方、試合中の映像は品質を優先させるため、恵比寿会場での放映は意図的に約2秒遅らせるなど、シーンに応じてスピードを調整した。

ボクシングやプロレスに転用可能

 第4の特徴は、エフェクト効果による映像表現だ。例えば、ダンクやスリーポイントシュートが決まると、スクリーンにはタイトルエフェクトが現れる。また、プレーヤーの輪郭を自動で認識し、リアルタイムでエフェクトとして表示させる技術も導入された。

プレーに応じて現れるタイトルエフェクト。550インチの大画面に映し出される様子は圧巻
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 これらの映像や音声などの技術は、他スポーツにも適用することが可能だという。親和性の高い競技としては、ボクシングやプロレスといったエンターテインメント性の高い屋内スポーツが挙げられた。

トラックの中で映像を制作。熊本で映像を編集・送信し、恵比寿会場で視聴(図:富士通)
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 そして第5の特徴は、観戦を盛り上げる“ファン参加型イベント”の実施だ。Bリーグのスマホアプリ「B.応援」を活用し、今回はビンゴゲームが行われた。このゲームは熊本または恵比寿会場への来場者のみ、そして試合当日だけ配信された。どの選手が最初に得点を入れたのか、など試合結果を予想する。試合終了まで観客に関心を持たせる工夫があった。

第三の収益に

 Bリーグにとって、B.LIVE in TOKYOの開催には大きな狙いがあった。公益財団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)常務理事・事務局長の葦原一正氏は次のように話す。

 「欧州や米国とは異なる日本独自の文化として、チームに応援団があることが挙げられます。みんなと一緒に観戦したい、盛り上がりたい、そういった潜在的な欲求が日本人にはあると思います。パブリックビューイングをご覧になった方も多いと思いますが、ひたすら映像が送られ何も変わらない世界が延々と続いている。そこに問題意識を持っていました」

 「今回、音や光、振動、そして双方向でコミュニケーションをする新しいスタイルを提供したいというのが我々の想いです。そういった場を技術によって提供していけることを、スポーツ界に提示したいです」

 もうひとつの狙いは、チケット収入、放映権収入に次ぐ“第三の収益”とすることだ。チケット収入に関して言えば、B1の実績では2016~2017シーズンで収容率は70%、満員の試合は244試合だった。この収容率が85%までいくとほぼ毎試合満員となってしまうため、新たな収入源を模索する必要があると葦原氏は話す。

 クラブのチケット収益はホームゲームのみで、現在はアウェーゲームで収益をあげていない。次世代型ライブビューイングは、アウェーゲームにも収益化をもたらす可能性がある。

音楽やダンスなど試合のクォーターごとにさまざまなバリエーションの演出があった。サンロッカーガールズ(Bリーグ所属・サンロッカーズ渋谷専属チアリーダー)によるダンスパフォーマンスや、ゲストである俳優・中村昌也さんとファンを交えてのフリースローイベントなど、多彩な企画が会場を盛り上げた
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 「今回、大きなチャレンジとして、あえてチケット収入をいただきました。チケットは最も安い立ち見で4500円、最も高いものでは1万7000円、チケット単価はおよそ5500円です。正直怖い部分もありましたが、結果は3時間で完売しました」(葦原氏)

 「ファンの方にきちんとした価値を提供すればお支払いいただけるという、小さな一歩を踏み出したと思っています。さまざまな技術を導入しているため、現時点ではまだ投資段階です。これがビジネスとして成り立っていくのかは、今後の研究課題だと思っています」(同氏)