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スポーツIT革命の衝撃

アクティブ率30%超、Jリーグアプリに隠されたデジタル戦略

2019/04/22 05:00

松元 則雄=日経 xTECH/日経エレクトロニクス

 総ダウンロード数に対して30%以上という“驚異”のアクティブ率を誇るアプリがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)と電通が2017年8月にリリースしたJリーグ公式のスマートフォン(スマホ)アプリ「Club J.LEAGUE(クラブJリーグ)」だ。

Club J.LEAGUE(クラブJリーグ)の画面
Jリーグに関するニュースや試合結果の確認、チケット購入などが1つのアプリからできる。さらにスタジアムでは、専用の無線LANを使用するための認証や、スタジアムへの優先入場などにも利用できる(出所:Jリーグデジタル)
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 同アプリの現在の総ダウンロード数は約50万件に対して、アクティブユーザー数は15万人以上となっている。スマホアプリのユーザー行動分析や広告効果の測定を手掛けるドイツAdjustによると、一般的なアプリでは約8割のユーザーが6日以内に使わなくなるというから、クラブJリーグのアクティブ率の高さは驚異的だ。2018年のJ1の観客動員数は10年ぶりの高水準だったが、クラブJリーグも一定の貢献をしているはずだ。

 リリースから1年半が経過したクラブJリーグだが、Jリーグのデジタル施策の根幹の1つであることはあまり知られていない。Jリーグは開幕して既に25年以上が経過した。リーグのレベルは高まり、忠実なファンの数は増えた。しかし、ファンは一部の層に留まり、さらに多くの一般ファンに訴えかけるにはまだまだ訴求力が弱いのが現状だ。Jリーグの関係者も「まだサブカル(サブカルチャー)的」と自嘲気味に話す。そんな現状を打破するための取り組みの1つがクラブJリーグだ。

 同アプリはJリーグと電通が企画し、チームラボが開発した。Jリーグの試合日程や結果、チケットの購入、Jリーグに関するニュースの確認などができる。さらに位置情報を基にしたスタジアムや試合、スポンサーの施設へのチェックイン機能を備える。

ライト層獲得のためのコア層向けアプリ

 高いアクティブ率を実現したのは、アプリのターゲットを「1年に3回以上スタジアムで観戦するミドル・コア層のファン」に設定したためだ。スマホの位置情報を使ったチェックイン機能を使い、試合当日のスタジアムへのチェックインや、同チームを応援した回数、勝敗予測、スポンサー企業の店舗やサービス利用などでメダルを獲得できるアクティビティを用意している。メダルが一定数貯まるとペアチケットが当たる抽選に参加できる(図2)。

 しかし、コア層のスタジアムへの来訪頻度を上げることがアプリの本来の目的ではない。狙いは、スタジアムに初めて来るようなライト層を増やすことだ。ライト層をスタジアムに導くためにはどうすればよいか。Jリーグが考えたのが「コア層に連れてきてもらう」ことだ。「調査の結果から、スタジアムで継続的に観戦する人の7割が、初観戦は身近な人からの誘いがきっかけだったことが分かっていた」(Jリーグデジタル コミュニケーション戦略部 部長の杉本渉氏)という。つまり、コア層に連れて来られたライト層は、将来コア層になる可能性が高いということだ。

チェックインの画面
試合当日にスタジアムにチェックインするとアプリ内でメダルを獲得できる(左)。このメダルを一定数集めると、ペアの観戦チケットが当たる抽選に参加できる(右)。スタジアムチェックインだけでなく、スポンサー企業関連のチャレンジもあり、達成することで同様にメダルをもらえる(出所:Jリーグデジタル)
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 Jリーグが、アプリの抽選で提供するペアチケットで連れてきて欲しいのはライト層のファンだ。しかし、せっかくペアチケットを提供しても、それがコア層のファンの間でやり取りされたのでは、狙いから外れてしまう。そこで、当選したペアチケットの受け取り方法を工夫した。実は、抽選に当選した本人はチケットを発券できないのだ。友人など別の人間に代わりにチケットを受け取ってもらう必要がある。

 さらに受け取り側にも制限を設けた。Jリーグの試合に来場した経験の無い人しかチケットを受け取れないようになっている。「JリーグID」という、Jリーグのチケット購入や同アプリを利用する際に必要になるIDを使って、新規顧客かどうかを判別している。チケットの受け取りにもJリーグIDが必要になる。