本コラムは、数々のイノベーションで広く知られる3Mグループにおいて、大久保孝俊氏が体得したイノベーション創出のためのマネジメント手法を具体的に紹介します。大久保氏は、自身で幾つものイノベーションを実現しただけでなく、マネジャーとして多くの部下のイノベーションを成功に導きました。

前回:「分かっちゃいるけど変われない」は変えられる

自主性を尊重し、失敗を許容する

 4つ目の仕掛けは、「自主性の尊重と失敗の許容を奨励する仕掛け」である。3Mの場合は、「McKnight(マックナイト)の手紙」だ(図4)。William L. McKnightは3Mの中興の祖といえる存在で、1929年から20年間にわたって社長を務め、その後も会長として経営を担った。McKnightの手紙とは、彼が1948年に3Mの全てのマネジャーに向けて送ったものだ。マネジャーに対して、社員の自主性尊重の重要性を説き、社員の失敗の許容を促している。

図4 McKnightの手紙
3Mの中興の祖であるWilliam L .McKnightは1948年、マネジメントの理念と題した手紙を全管理職に送った。3Mの成長の原動力はイノベーションにあると説き、社員の自主性尊重を強く促し、マネジャーに対して厳格な規律を求める内容だ。
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 「権限と責任を委譲された社員が有能であるならば、与えられた職務を自らのアイデアで自らが考案した方法で果たしたいと願うようになる。(中略)(これは)奨励すべきだと私には思える」の箇所では、有能な人材には新しいアイデアを自分のやり方で試みたい欲求があることを指摘し、会社とマネジャーはそれを奨励し、阻害してはならないとする。

 一方、「過ちは起こる。しかし、それでも過ちを犯した者が自分を正しいと信じているのなら、長期的に見てその過ちはそれほど重大ではない。むしろ重大な過ちはマネジメントが独裁的になり、責任を委譲した部下に対し、仕事のやり方まで事細かに指示を与えるところにある。マネジメントに辛抱する能力がなく、過ちに対して破壊的に批判的であるならば、自主性は損なわれる」と書いている。ここでは、社員の失敗を許容し、失敗を責めてはならないとマネジャーを戒めている。そして最後は「当社が引き続き成長していくためには、自主性を持つ社員が大勢いることが不可欠である」と締めくくられる。

 この手紙を「仕掛け」と考えることには異論があるかもしれない。しかし、3Mの中では現実的に仕掛けとして機能している。3Mのマネジャーは、部員に仕事を指示する際や部員の失敗に直面したとき、McKnightの手紙を思い出す。そして彼の考えに沿った行動を取るのである。

 この仕掛けは、「自主性の尊重」と「失敗の許容」が対になっていることが重要である。「挑戦しなければならない」環境では、自主性の尊重が必要なことは言うまでもないが、その挑戦が失敗に終わったときに執拗に非難されるとしたら誰も挑戦などしなくなる。

 加えてこの仕掛けには、マネジャーに対して、ネガティブな人間の本質である「ルール違反に対する罰を与えることは快く感じる」の出現を抑制し、感情的になって部員を容赦なく怒鳴りつけてしまうような行動を防ぐ効果がある。さらに部員およびマネジャーに対して、「満たされている状況では変化を好まない」というネガティブな本質を抑えてくれる。

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