「気づくこと」から始まる

 今回は、「Can Recognize(気づくことができる)」システムと、それを構成する仕掛けについて説明する。Can Recognizeシステムは、「自分の仕事(行動)と会社のビジョン・戦略とのつながり」「自分をサポートしてくれる仲間」「強みとなる経営資源(形式知)」に「気づくことできる」という3つの柱がある。そして、この3本柱を確実に実現するために、組織を動かすための具体的な仕掛けが組み込まれている。まず、3つの気づきについて説明しよう。

● 自分の仕事(行動)が会社のビジョン・戦略につながっていることに気づくことができる

 「何のために仕事(会社での行動)をするのか」を考えることは、とても重要で基本的なことだ。社会人としてのアイデンティティーに直結する。もちろん収入を得るためではあるが、それだけではない。ここが揺らいでいると文化を育てようがない。

 個々の社員が「何のために仕事をするのか」を腹落ちするためには、経営者が会社のビジョン・戦略の中で、どのような“ 場”(市場や製品、技術など)でイノベーションに挑戦するべきかについて明確にしなければならない。そして、その“場”における目標達成は、顧客価値の創造や社会の課題解決、会社と社員の成長と成功に直結するものでなければならない。

 どのような“場”を選択するかはトップマネジメントの仕事である。たとえて言えば、トップマネジメントは豊かな漁場を見つけなければならない(図3)。魚のいない漁場では、社員がいくら頑張っても得るものは少ないからだ。努力が実る可能性が高い“場”に社員を導くことは、経営者の責任である。

図3 成長が見込める“場”に誘導するビジョン・戦略
成長が見込める“場”(市場・製品・技術)とは、魚がたくさんいる漁場のようなものである。社員の努力が実る可能性が大きい。
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 東レの炭素繊維事業は、それを端的に示す例だと筆者は思う。欧米の主要化学メーカーが撤退する中で、東レは炭素繊維の研究開発に50年以上にわたって投資を続けた。今では、炭素繊維の活用によって航空機の軽量化が進み、大幅な燃費改善を実現している。これは顧客の航空機メーカーだけではなく、社会的にも価値のあることだ。加えて、炭素繊維事業は東レの屋台骨を支える主要事業の1つに育った。

 日経ものづくりの過去の特集記事では東レの経営幹部のこんなコメントが紹介されている。「価値を見抜く眼力が、先輩の経営陣にあったということです。炭素繊維の研究をやめろと言った社長は1人もいません。材料の価値を見抜く力が極めて大事で、我々(現在の経営陣)もそうありたいと思っています*1」(日経ものづくり 2014年5月号特集「製造業 次の一手」)。

*1 東レの経営陣による「材料の価値を見抜く力」が発揮されたのは炭素繊維だけではない。近年、海水の淡水化に大きな貢献を果たしている逆浸透膜に対しても東レの経営陣は一貫して価値を疑わなかった(編集部)。

 顧客や社会への価値提供、および会社と社員の成長と成功につながるビジョン・戦略は、「何のために仕事をするのか」という問いに明快に応えてくれる。それによって、自分の仕事(行動)が会社のビジョン・戦略につながっていることに気づくことができる。