沖縄市「1万人アリーナ」、試合・人・街つなげるICT

沖縄市上田副市長インタビュー(下)

2017/12/20 05:00

内田 泰

 Bリーグの中でも有数の人気を誇る、沖縄の琉球ゴールデンキングス。そのホームタウンの沖縄県沖縄市で1万人規模を収容する、米国型の「(仮称)沖縄市多目的アリーナ」の建設計画が進んでいる。2020年度内の竣工を目指す。2023年には、インドネシア、フィリピンと共催する「FIBAバスケットボールワールドカップ(W杯)」の予選ラウンドが開催される予定だ。

 この「1万人アリーナ」は、政府がスポーツ産業成長の目玉として推進する「スタジアム・アリーナ改革」のモデルケースとして、成功への期待が大きい。同計画を担当している沖縄市の上田紘嗣副市長へのインタビュー、後編では収支計画や経済波及効果、街づくりの構想などを聞いた。(聞き手=日経テクノロジーオンライン 内田 泰)

Bリーグでもトップクラスの人気を誇る、琉球ゴールデンキングスの沖縄市体育館での試合の様子(写真:琉球ゴールデンキングス)
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――1万人アリーナは、現在も実施設計作業が進められていて、平成29年度(2017年度)内にそれが完了し、平成30年度(2018年度)内に着工の予定と聞いています。総工費の見積もりはいかがでしょうか。

沖縄市副市長の上田紘嗣氏。2004年に総務省に入省、2016年4月から同市副市長。現在も総務省から出向中。担当は「1万人アリーナ」のほか、公共交通、街づくり全般など
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上田 平成28年度(2016年度)に全体計画を策定した際、総工費を税込みで約170億円と試算しました。そのうちアリーナ建屋分は約145億円です。

 この試算について、沖縄市議会などでコスト面の懸念が示されており、予算と工期の圧縮を検討しています。具体的には、新国立競技場の建設でも採用されているECI(アーリー・コントラクター・インボルブメント)という手法を取り入れることにしました。これは設計段階から施工予定者が関与することで、発注時に詳細仕様の確定が困難な事業に対応する方式です。種々の代替案の検討が可能となったり、設計変更発生リスクの減少が期待できたりする、などの効果があります。この方式での施工予定者として公募型プロポーザルを通じて、鹿島建設と地元3社の計4社からなるJV(共同企業体)を選定しました。

 国のガイドラインでは、ECI方式の適用に当たっての留意点として、設計者と施工者の提案が相反する場合の、発注者による調整・最終判断の必要性や、設計者と施工者の責任分担などの明確化の必要性等が挙げられており、市は発注者として有識者の意見も聞きながら、これらの調整を行っています。

 こうした複雑な状況ですが、ECIでスペックを落とさずに、しかも業者や資材を確保しながらコストを圧縮することを目指しています。結果が出るまでには、もうしばらく時間がかかります。沖縄市としては、今回のアリーナについて「観る」「使いやすい」施設であることを重視することになります。

――1万人アリーナの収支計画を教えてください。

上田 琉球ゴールデンキングスのホーム試合は年間で約30試合あります。試合に向けた準備時間を含めると、年間最大約60日の利用を想定しています。もちろん、このほかの期間の稼働を考える必要があります。ゴールデンキングスの試合以外にコンサートや展示会などにも活用して稼働率を高めたいと考えています。

 国内にも年間300日を超えて稼働している施設もあり、このようにできれば理想的ですが、まずは平成28年度に策定した全体計画において年間120日の稼働を想定しています。これは、我々が計画する1万人アリーナに近似する、現在沖縄にある施設として「沖縄コンベンションセンター」の年間稼働率から設定したものです。かなり固めの試算です。

 また運営形態を指定管理によると設定したうえで、維持管理するのに必要となる事業収入・支出を検討しました。

沖縄市が計画している、1万人規模を収容する「(仮称)沖縄市多目的アリーナ」。琉球ゴールデンキングスの公式戦などのスポーツ興業やコンサート、防災施設として利用する(図:沖縄市)
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 利用料収入については、現実には様々なやり方があるのですが、1回(1日)当たりの利用料収入を設定し、算出することにしました。具体的には、沖縄コンベンションセンターの展示棟ではおおむね1回当たりの利用料が約110万円であり、1万人アリーナはこの展示場の約2倍の面積となっているので、収入を1回当たり200万円と想定しました。他の国内の1万人規模の屋内施設に聞くと、おおむね1日当たり200万円を超える利用料金とのことですので、それほど非現実的な数字ではないと考えています。従って、年120日稼働で利用料収入は2億4000万円と想定できます。

 事業収入は利用料金のほか、自主事業、一般利用、広告、ネーミングライツ収入などがあり、こうしたものも県内の施設の状況等を鑑みて設定し、約2億9000万円と試算しました。

 一方、事業支出は修繕費、施設管理・保守点検、水・光熱費、人件費などを合わせて3億3000万円としております。運営方法については現在検討を進めておりますが、指定管理者制度を活用した場合として、不足分の4000万円については、市から指定管理者への支出を想定しています。

観戦→食事→宿泊の流れを作る

――アリーナがもたらす経済波及効果をどのように見ていますか。

上田 先ほどの全体計画においては、建設時の経済波及効果として約267億円、単年度の運用時で約133億円と見積もっています。

――1万人アリーナを起点とした周辺地域の活性化について、どのような構想をお持ちですか。

上田 1万人アリーナが建設される予定のコザ運動公園の近くには飲食店街があります。沖縄の食だけでなく、民謡や沖縄ロックといった文化も楽しめます。

 ただし、課題もあります。交通の問題です。沖縄の交通事情についてはご存知の方も多いと思いますが、「車中心」となっており、しかも駐車場や那覇空港からのアクセスについて、各方面から指摘をいただいています。また、ICT(情報通信技術)化についてもまだまだこれからの部分も大きく、情報発信の課題もあります。

 交通導線が改善され、さらにICTが整備されればアリーナに試合を見に来た観客に対してスマートフォン(スマホ)のアプリからポイントを付与するなどして、周辺のお店に誘導できるようなチャンスが広がるのではないかと考えています。

 自分が応援しているチームが勝てば、「近所でご飯を食べて帰ろう」という機運も高まります。仮に訪問したお店が満員であっても、スマホへのプッシュ型配信で別のお店に誘導できると、ほかのオプションを提案できることになります。現在、沖縄市観光物産振興協会と連携してDMO(観光物件や自然、食、芸術・芸能などに精通し、地域と協同で観光地作りを行う法人)を形成できないか検討しています。

 ICT化については、前向きな話があります。沖縄市はベンチャー支援を目的に、2016年8月に「スタートアップカフェコザ」を開設しました。コワーキングスペースの提供や創業支援に関する相談を無料で受け付け、プログラミングなどICT関連の講座を用意しました。創業に向けた人材育成やコミュニティーづくりを進めています。沖縄県には、沖縄科学技術大学院大学(OIST)もあり、同大学との連携や、県内外の大学との連携についても取り組んでいるところです。

 米軍嘉手納基地の門前町である沖縄市の中心街は、かつて沖縄をけん引するような活気があったところだと聞いています。近年はだいぶ元気がなくなっていたところですが、この施設の開設によって、また図書館の移転等の地域活性化の取り組みと相まって、若い人をはじめとしてこれまでとは違った層の方々も沖縄市の中心街を訪れるようになってきました。少しずつではありますが、活気が出てきました。

 沖縄市は街づくりにICTを活用しようと積極的に動いており、アリーナの運営会社が決まった際には、これを提案しようと考えています。もちろん、提供するコンテンツの内容自体は興行者が何をしたいのかによりますが、沖縄市としてはアイデアやインフラがあることを伝えていきます。

 現在、1万人アリーナの建設計画に連動して、周辺にホテルの建設計画が出てきたり、バスターミナルなどの拠点整備のアイデアが出てきたりしています。これらが現実のものとなり、交通や宿泊施設といった課題が改善されれば、例えばゴールデンキングスの試合観戦に来た人たちがアリーナの近くで食事をして宿泊、という流れができます。街づくりなので時間はかかりますが、アリーナと街をつなげ、全体として「エリアリノベーション」を行うための布石を打っている段階です。