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スタジアムとアリーナが拓く未来

「する」から「観る」の転換で稼げるスタジアムへ

「スタジアム&アリーナ2016」続報(2)

2016/10/31 00:00

浅野 智恵美

 収益を生む施設への転換――。政府が目指すGDP(国内総生産)600兆円の達成に向け、日本のスタジアム・アリーナ関連ビジネスへの成長期待が高まっている。2016年9月末に開催されたイベント「スタジアム&アリーナ2016」(主催:英ALAD社、横浜アリーナ)では、「スポーツ施設の設計と建設の動向」と題したパネル・ディスカッションが開催され、業界のキーパーソンが集結した。

 同ディスカッションのモデレーターは筑波大学 体育系 准教授 高橋義雄氏。そしてパネリストは、竹中工務店 大阪本店設計部設計第4部長の大平滋彦氏、梓設計 常務執行役員 設計室永廣スタジオ・リーダーの永廣正邦氏、山下ピー・エム・コンサルタンツ代表取締役社長の川原秀仁氏の3名である。

左から、筑波大学の高橋氏、竹中工務店の大平氏、梓設計の永廣氏、山下ピー・エム・コンサルタンツの川原氏。それぞれ設計・建設に携わる目線で意見を述べた
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 竹中工務店は日本の“スーパーゼネコン” 5社の1社。東京ドーム、札幌ドーム、大阪ドーム、名古屋ドームなど国内の主要ドームを手がけた実績がある。梓設計は、建設・設計、都市計画コンサルティングなどを幅広く手がける。グッドデザイン賞など多彩な受賞歴を持つ。山下ピー・エム・コンサルタンツは1997年に山下設計から独立し、プロジェクトマネージメント/コンストラクションマネージメントを主な業務としている。

 ディスカッションの冒頭、高橋氏は「今までの日本のスポーツ施設はスポーツを“する”競技者のための施設が多く、人を集めるエンターテイメント興行というよりは“教育”に重きを置いてきていた。しかし、時代は変わり政治・社会・技術の変化と共に“観るため・事業のための施設”へ、エンターテイメントとしてのスポーツイベントを開催する施設へと転換することが重要となってきた」と述べた。

 実際、スポーツ庁と経済産業省は日本のスタジアム・アリーナを「コストセンターからプロフィット(利益)センターへ変える」という方針を打ち出している。

驚異のローコスト・スタジアム

 最初に、竹中工務店の大平氏が大阪市立吹田サッカースタジアムの設計・建設についてプレゼンテーションを披露した。吹田サッカースタジアムは、国際基準である4万人収容のサッカー専用スタジアム。ガンバ大阪の本拠地である。同スタジアムの大きな特徴が、「寄付金で作られた日本初のスタジアム」であることだ。建設資金はすべて民間からの寄付金と助成金で賄われている。

 寄付金を集めるため、ガンバ大阪とサッカー界、関西財界で構成される募金団体を立ち上げ、事業主・発注者となった。寄付金は法人721社から99.5億円、個人から6.2億円、助成金は35.1億円、合計140.85億円が集まった。さらに完成したスタジアムは吹田市に寄贈され、市が施設所有者となり、ガンバ大阪を「指定管理者」に任命している。指定管理の契約期間は2063年3月までの約48年間。スポーツ施設としては異例の長期契約となっている。

 さて、集まった140億円でスタジアム建設が始まったわけだが、総事業費140億円で4万人規模のスタジアムというのは、同規模のスタジアムの予算と比べて半分程度だ。圧倒的なローコスト設計・建設が求められた。

床面積は最大40%削減

 吹田スタジアムは徹底的にコンパクトにまとめる工夫が凝らされている。観客席はコーナー部分のすべてに設置し、スタジアム全周で途切れない。それでいて、上下階の観客席を少し重ねることで平面サイズを最小化している。

 国内の同規模スタジアムと比べて床面積は最大40%削減した。観客席の中に選手ベンチを組み込む構造にしてあり、関係諸室も必要最低限にとどめている。

 施設のコンパクト化を図りつつも、ファンへの配慮も欠かさない。吹田スタジアムの観客席とピッチとの最短距離はわずか7m。ファンとの距離を最大限近づけている。これだけではない。一般の観客席を3層にしているのに対し、ホーム側は2層にしている。これは、「一枚岩となって応援したい」というサポーターからの要望を反映している。コストは抑えつつ、かけるべき所には投資しているのだ。

大阪市立吹田サッカースタジアムで、サポーターからの要望によって実現した観客席(資料:竹中工務店)
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 スタジアムのコンパクト化は、建設費用を抑えるだけでなく施設運営者の負担も軽減する。竣工の直前まで、施設の「メンテナンスレス」について施設管理者と検討し続けたという。

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