記事一覧

スタジアムとアリーナが拓く未来

日本の観客席に世界標準を 仏社が仕掛ける「半常設」

2016/09/28 15:00

浅野 智恵美

 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)、2020年東京オリンピック・パラリンピックなど、日本で相次いで開催が予定されている国際的な巨大スポーツイベント。その裏で問題点となっているのが、会場建設費の高騰やスタンド(観客席)不足だ。

 日本でスタンドというと、RC造(鉄筋コンクリート構造)のものがメーンだ。安全性には長けてはいるが、長期的な利用を前提としているため、コストがかかり、工期も長い。一方、リオデジャネイロオリンピックで話題になったのが仮設のスタンド。単管足場を組んだような簡素な作りで工期やコストは抑えられるが、「観客が飛び跳ねただけで大きく揺れる」といった声が上がっていたように安全性に不安が残る。

 この問題の解決の糸口として注目されるが、「スタジアム&アリーナ2016」に出展したイベント向けソリューション・サービスを手がける、フランスGL events社の「GL events Stadium Solution」だ。

コンセプトは「セミ・パーマネント」

 GL events Stadium Solutionは、S造(鉄骨構造)の鉄骨スタンド。コンセプトは“セミ・パーマネント”だ。パーマネントとは「永久・常設」という意味を持つため、セミ・パーマネントは「半永久・半常設」ということになる。

 最大の魅力は、組み立て・取り壊しが簡単で、低コスト・短工期で済む点だ。一般的なコンクリート造と比べると、コストはおよそ50%、工期は50〜70%の削減が可能となる。コンクリート造で2年かかるところを、3カ月程度で施工してしまうこともできる。

 リースも常設もどちらにも対応可能。期間を決めての設置やクラブチームなどが半永久的に使用することもできる。不要になれば、異なる会場で再利用することもできる。この汎用性の高さは日本にとっても大きな魅力だ。

 セミ・パーマネントのスタンドは、特別に変わった設計や難しい設計をしているわけではない。ユニット化されたシステムで構築されていて、既に決まっている寸法の中に、希望に応じた数の座席を用意できる。ワンユニットを積み上げていくので、「この場所に通路を設けたい」といったように、自由にカスタマイズすることも可能だ。

日本導入へ。残された課題

 欧州を中心に、既に世界ではGL events Stadium Solutionのような、取り付け・撤去が容易な鉄骨タイプのスタンドが主流になっている。しかし、日本がセミ・パーマネントスタンドを導入するのには、法律・規制といった壁を越えなくてはならない。鉄骨材ひとつとっても、日本ではJIS規格への適合が必須だ。GL events社のノウハウを日本で導入・活用するためには、さまざまな日本の法律・規制をクリアしていくことが必要だ。

日本の企業とフランスの企業が手を取り合い、日本のスタジアムにおける課題解決を目指し、新たな潮流を生み出そうとしている
[画像のクリックで拡大表示]

 そこで、GL events社とタッグを組み、日本の第一人者としてセミ・パーマネントスタンドの普及に取り組んでいるのが、埼玉スタジアムなどを手がけ、スポーツ施設の分野でも豊富な経験を持つ梓設計だ。立ちはだかる障壁をどう解決していくか、日々知恵をしぼっている。

 例えば、日本でコンクリートのスタンドを設置するとなると「工事発注」となるわけだが、軽さといった同ソリューションの長所を生かして「備品発注」とすれば、法的な課題の解決も十分に考えられる。また、安全性については構造強度の検証、火災が起きた際の避難導線の検証など、日本でのイベント開催を安全・安心に進めるための検証を繰り返し行っている。

 梓設計は「スタジアムを建てた後の収益性や街づくりに向けた役割など、ソフト部分の提案ができてこそ設計会社である」という信念を持つ。本来であればコンクリート造のスタンドにした方が同社の利益は大きくなるが、世界の潮流、そして国内のニーズを優先的に考え、GL events Stadium Solutionの展開に至った。

 今までの日本には「仮設」か「常設」か、という選択肢しかなかったが、GL events社と梓設計の2社によって「セミ・パーマネント」という新しい選択肢ができた。2社のプロジェクト開始から約1年。現在は、導入を検討しているスポーツ施設も増え、認知度も大きく向上している。世界標準であるセミ・パーマネントが、日本標準になる日も近いかも知れない。

日経テクノロジーオンラインSpecial