記事一覧

スタジアムとアリーナが拓く未来

「スポーツ×音楽」、アリーナ不足の共通課題解決へ新タッグ

「スポーツビジネス産業展」報告(1)

2018/04/09 05:00

久我 智也=ライター

 現代の人々の価値観は、「モノ」から「コト」へと転換してきている。そのため今後の日本の経済発展は、いかにその需要を満たすかが重要なキーとなっている。スポーツと音楽はコト消費を促進する打ってつけのものといえるだろう。そして、この2つは、地方創生を実現するだけの力も持っている。

 スポーツ、音楽、地方創生。今後この3つの分野はどのように絡み合い、相乗効果を生んでいくことになるのか。「スポーツビジネス産業展」(主催:リードエグジビションジャパン、2018年2月21日~23日)において、日本トップリーグ連携機構代表理事会長の川淵三郎氏、コンサートプロモーターズ協会会長/ディスクガレージ代表取締役社長の中西健夫氏、衆議院議員/ライブ・エンタテインメント議員連盟会長の石破茂氏の三氏が登壇し、そのヒントが語られた。本稿ではそれぞれの講演とパネルディスカッションの要旨を、前後編に分けてお届けする。

共通課題に直面するスポーツと音楽

 実は、スポーツは音楽から大きな恩恵を受けている。それは、スポーツ業界よりも音楽業界の方がアリーナや体育館の使用料金を多く負担しているからであると川淵三郎氏は言う。

 「代々木第一体育館(東京都渋谷区)では、年間にスポーツイベントが120回ほど、音楽イベントは200回ほど開催されていますが、その使用料はスポーツよりも音楽の方が高いのです。代々木第一体育館やさいたまスーパーアリーナ(埼玉県さいたま市)、横浜アリーナ(神奈川県横浜市)といった施設はいずれも黒字経営になっていますが、それは音楽業界のおかげといえます」

日本トップリーグ連携機構代表理事会長の川淵三郎氏
[画像のクリックで拡大表示]

 結果的に音楽業界がスポーツよりも多く費用を負担してくれているおかげで、スポーツ業界が割安でアリーナを使用できることにつながっているというのだ。こうした関係にあるスポーツと音楽は、今、「アリーナ不足」という共通の課題に直面している。川淵氏と中西健夫氏はそれぞれ次のように話す。

「2015年に日本バスケットボール協会の会長に就任したときに驚いたのは、東京には1万人以上の観客を入れられる体育館・アリーナが非常に少ないということでした。しかも、代々木第一体育館や東京体育館(東京都渋谷区)、有明コロシアム(東京都江東区)といった1万人以上を収容できる施設を確保するのも簡単ではありません」(川淵氏)

「コンサート市場はずっと上り調子で成長していたのですが、4、5年ほど前から全国で会場を確保することが難しくなり、コンサートをするアーティストの数と会場の数の需給バランスが崩れ始めたのです。そのため、堅調に伸び続けたコンサート市場の成長が一時停止し、我々としてもどうやってもう一度成長を遂げるかということに頭を悩ませていました」(中西氏)

 コンサート市場の市場規模は2007年から2015年まで9年連続で拡大し続けていたが、その成長は2016年に止まってしまっている。2020年東京オリンピック・パラリンピックを控え、首都圏の体育館やアリーナ、コンサートホールなどの改修やメンテナンスが重なったことがその要因だ。成長を続けていた音楽業界、これからの成長が期待されるスポーツにとって大きな壁となっているアリーナ不足に立ち向かうために、両者が手を結ぶことになったのだ。

コンサートプロモーターズ協会会長/ディスクガレージ代表取締役社長の中西健夫氏
[画像のクリックで拡大表示]

これからのアリーナには音楽業界の意向も必須に

 昨今、スポーツ業界ではスタジアム・アリーナ改革に関する議論が盛んに行われている。アリーナ不足を解消するために、アリーナの新設や既存の体育館の改修は必須事項であるが、さらに「アリーナ文化の浸透」と「音楽業界の意向を取り入れること」も忘れてはならないと、川淵氏は指摘する。

 「日本には体育館はあるけれど、アリーナはありません。つまり、日本にはアリーナ文化がないということも、バスケットボール協会会長就任時にわかりました。アリーナ文化とは、観る人の視点で造られた会場という意味です。非日常空間が広がり、快適な設備で試合や飲食、オリジナルグッズなどを楽しむ文化が日本にはまだありません。象徴的なものが、多くの体育館で生じている女子トイレの長蛇の列です。こうしたスポーツを観る上での障壁を認識している人は多くいますが、いまだ解決には至っていないのです」(川淵氏)

「アリーナを造っていく上で、音楽業界の意向を取り入れなくてはなりません。例えば、コンサートの舞台を設置するためにはトラックが入れる動線を作らなくてはなりませんし、音響効果も考えなくてはならない。貴重な収益源であるグッズ売り場のスペースを用意するといったことなども、設計の中に盛り込む必要があります」(同氏)

 観る側の視点に立ち、音楽との共存を果たしている理想のアリーナとして川淵、中西両氏が挙げたのが、米国のマディソン・スクエア・ガーデンだ。NBAのニューヨーク・ニックスやNHLのニューヨーク・レンジャースなどの本拠地であり、様々なミュージシャンのコンサートも開催されるこのアリーナは、アリーナ部分は2万人、コンサートホールは5000人が収容可能となっており、年間に開催されるイベント数は400以上にも上る。スポーツにとっても音楽にとっても聖地ともいえる場所だ。こうした場所があることで関連業界だけではなく周辺地域の経済活性化も期待できるため、日本にもこのような象徴的なアリーナを造ることはスポーツ業界や音楽業界の悲願になっている。