「すごさ」をどのように伝えるか

―― サンウルブズは、その一翼を担えると。

池田 地域密着の取り組みや、ファンとの心のつながりという観点で考えると、サンウルブズは国内のラグビーファンの心を1つにまとめる存在になり得る。日本には他にラグビーのプロチームがなく、唯一、サンウルブズが最もそこに近づいている存在だからです。

 加えて、サンウルブズは、スーパーラグビーで戦っているチームです。これは、野球で言えば米国のメジャーリーグ、サッカーであれば欧州のUEFAチャンピオンズリーグに日本チームが参加しているようなもの。すごいですよね。ラグビーをやっていた人は分かっているのかもしれませんけれど、世界で戦っているというすごさ、スーパーラグビーのすごさは、まだ世の中に全然伝わっていません。

2017年シーズンに秩父宮ラグビー場で開催されたニュージーランドのブルーズとの試合の様子。サンウルブズが勝利した(写真:©JSRA photo by H.Nagaoka)

 実は、ベイスターズも似たような印象でした。横浜のあれだけいい場所にスタジアムがあって、国内に12チームしかないプロ野球チームの1つなのに、あまりお客さんが入っていなかった。でも、ファンと心を通わせる様々な取り組みを手掛けることで、多くのファンが集まるように変わっていきました。

 だから、「サンウルブズという日本のチームがスーパーラグビーで戦っている」ということのすごさをきちんと伝えて、国内唯一のプロラグビーチームとしてラグビーファンはもちろん、まだファンではない人たちも含めて心を通わせることができたら、かなり大きな可能性を秘めていると思うんです。ラグビーファンからは「2019年以降、ラグビーはどうなるんでしょう?」とよく聞かれますが、「ファンと心を通わせる」という壁を乗り越えられるかどうかが日本のラグビーを面白くしていくカギではないでしょうか。

―― スーパーラグビーの主催団体SANZAR(サンザー)とサンウルブズの契約は2020年まで。その後もサンウルブズを継続していくためには、国内の盛り上がりは必須ですね。

池田 チームとファンが心を通わせて、ラグビーファンの熱、民意が高まっていき、サンウルブズやスーパーラグビーを押し上げてもらえるかどうか。そのための装置というか、ラグビーファンも、ラグビーファンでない人も楽しませられる空間づくりの1つが、青山ラグビーパークの取り組みです。子どもたちも、ラグビー場周辺の地元の人たちも観戦に来るようになり、ラグビーにあまり興味がない人がラグビーをつまみに余暇として遊びに来てくれるようになったら、最高ですよね。

 日本には野球もあるし、サッカーもあるし、バスケットボールも立ち上がった。さらにラグビーが日本のスポーツの中で大きな位置を占めるようになれば、2020年の五輪が終わってもスポーツを「見る」「支える」という文化がこれまで以上に広がっていきます。多様な競技が日本のスポーツの軸になった方がいいじゃないですか。ラグビーには、それだけのポテンシャルがあると思います。繰り返しますが、他のプロスポーツリーグと比べて圧倒的にすごい点は、日本のチームが世界の最高峰リーグで戦っているということです。

―― でも、ラグビーを知らない人にそれを伝えるのは、なかなか難しい。「すごさ」をどのように伝えていきますか。

池田 海外でのチャレンジの様子を伝えていくということが大きな取り組みの1つです。今シーズンのサンウルブズの試合数は16試合。そのうち国内開催のホームゲームは6試合だけで、残りの10試合は海外で行われます。

 海外の試合はどういう環境で行われているのか。どういうスタジアムで試合をしていて、スタジアムがある街にはどのようなラグビー文化があるのか。遠征で試合をしている他の時間に日本のチームは何をしているのか。こうした舞台裏は、あまり伝わっていません。それを発信していくことが、スーパーラグビー、世界で戦っているすごさを伝えることにつながっていくと考えています。実現していくためには、メディアの皆さんとも協力していく必要がありますし、自分たちもウェブサイトやソーシャルメディアを通じてこれまで以上に発信していかなければなりません。

JSRAが公開した「青山ラグビーパーク」のパブエリアのイメージ(画像:©JSRA)
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 もう1つの取り組みは、6試合のホームゲームでお客さんに世界を感じてもらうことです。例えば、ニュージーランドのチームと試合する際には、ニュージーランドの文化を伝えたり、ニュージーランドのチームを応援する外国人と一緒の雰囲気を共有したりできる空間をつくっていく。

 試合中だけでなく、ラグビー場の外に設けるパブエリアでは、五輪やW杯のときでないと味わえない国際的な空気を味わえるようになるでしょう。「今日は南アフリカのチームとの試合だから、南アフリカのお酒や食べ物が楽しめる」といった取り組みもあるかもしれない。

 こうした雰囲気は、国内のリーグである野球やサッカーではなかなか味わえないと思います。「世界」というキーワードを「毎シーズン」「毎試合」使えるプロチームは、日本にはないですから。

―― そう考えると、日本だけではなく、世界を見てもそういう立場にあるプロスポーツチームはほとんどないかもしれませんね。

池田 そう思います。けれど、チームが持っている貴重な資源、そしてその可能性の高さは、一般にも、ラグビー界にも、スポーツ界にもほとんど伝わっていません。正直なところ、この仕事に携わるようになるまで、僕自身もあまり知りませんでした。サンウルブズの試合は観戦していましたが、すごさを分かっているようで分かっていませんでしたね。

 2019年に日本にはラグビーW杯がやってきます。「どれだけ盛り上がるのか」と疑問視する声もありますが、僕は大会期間中にラグビーはかなりのブームになると思っています。国内のかなり多くの人々が世界レベルのラグビーを見ると思うんですよ。その目が肥えた人々に、2019年以降も世界レベルのラグビーを見せていかないと、日本のラグビー文化は落ちていってしまうでしょう。

 今は2019年を超えてラグビー文化を広げる好機で、大きな可能性があります。それを生さない手はありません。先ほど話したようにスポーツ文化の裾野を広げるということにもつながっていくのですから。

(後編「人気はみんなでつくる、ラグビーパーク ファンと一緒に進化」に続く)