一方、上林氏は「どちらも間違いだと思っている」と発言した。スタジアム・アリーナが街のシンボルとなるためには、機能を拡張するというよりも、人々に共通の思い出を与えられるような場所にすることを優先すべきだというのだ。

 「日本は1つの学校に体育館とプールというスポーツ施設がある世界的に見ても稀有な国です。そこには、体育の授業や部活動に励んだ人々の思い出がある。共通の記憶があるということがシンボル的な空間になっているということだと思うのです」

 「そう考えると、施設を多機能化していくことは性急なのではないかと感じています。観るスポーツも、するスポーツも、支えるスポーツも一括りにした上でシンボライズできるような仕掛けを考える。その方が、街のシンボルにするためにはリアリティーがあるのではないかと考えています」(上林氏)

 ITや多機能化、ファシリティーといったものは観戦環境を向上させるためには非常に重要なことではあるが、スタジアムやアリーナが地域の人々にシンボルとして認められるためには、より心情に訴えかけるものが必要になるといえるのかもしれない。そしてそのための仕掛けをつくることが、主体者側には求められていくことになるのだろう。

「観る・する」だけではなく「支える」側の観点を

 パネルディスカッションの最後に、上林氏から街を巻き込んだ形で運営をしている好事例として、山口市情報芸術センター(通称、YCAM)についての紹介がなされた。

「YCAMは2003年に建設されたアートセンターで、展示空間のほか、映画館や図書館、レストランなどを併設した複合施設です。最新のIT機器を導入してメディアアートに注力していることが特徴なのですが、そうしたテクノロジーを活用して運動会を行っているんです。例えばプロジェクションマッピングを用いてツイスターゲームのようなことをしたりする。その競技は、地元の人たち自身が考え出しています」

 「こうした取り組みを通じて地域のITリテラシーが高まることにつながりますし、アイディアを考え、イベントに参加することで、施設が拠点となって人と街がつくられることになります。スタジアム・アリーナでも、このように同じ価値観を共有し、街そのものの価値を高めることができるととても面白いのではないかと感じています」(上林氏)

 スタジアム・アリーナについて考えていく上で、観る・するだけではなく、いかに地域がその施設・スポーツを支えたくなるかという観点も必要になる。そして、支えることで地域にも利益を還元しなくてはならない。今後スタジアム・アリーナ改革の議論が進んで行く中で、この視点の重要性が増していくことになるだろう。