日経エレクトロニクス2014年10月13日号のpp.92-069「無線センサーネットの活用例、インフラ監視などを実現へ」を転載した記事です。

工場や発電所、交通、農業などさまざまな分野で、現場の状態を常に監視し管理や制御に応用するために、無線センサーネットワークへの期待が大きい。ただし、信頼性の高いネットワークを構築するには、センサーネットならではの要求仕様を理解し、構築の勘所を学ぶ必要がある。最終回となる今回は、無線センサーネットワーク技術の応用範囲の広がりを解説する。

 現代の日本社会は世界でも有数の安全な社会であり、サービスや製品の品質は極めて高い。それでも、解決しなければならない社会問題は幾つもある。今後進む少子高齢化を受けて顕在化する課題も少なくない。信頼性の高い無線センサーネットワークの構築法を解説してきた本連載の最終回は、こうした問題の解消につながる応用例を示したい。いずれも実証実験などから有用性が実証されつつあるものだ。詳細は明らかにできないものの、米Linear Technology社のDust Networks部門の製品を活用する事例もある。そうした経験も踏まえて、実際に構築可能なシステムを紹介する。

 日本社会を襲う少子高齢化は、さまざまな弊害をもたらす。例えば国内市場の縮小に伴い、経済成長はますます輸出に頼るようになる。しかし、家電製品などの大量生産品の製造は既に新興国に移行しており、日本は他国をしのぐ高品質な製品やサービスで勝負せざるを得ない。これまでも強かった電子部品、精密機器、素材などに加えて、注目度が高いのは高効率石炭ガス化発電、上下水道設備、高速鉄道、高度医療機器などの社会インフラである。日本ならではの技術力を発揮して、新興国を中心に大きな市場を開拓できそうだ。

原発の安全性向上に利用

 ただし、そのためには乗り越えなければならないハードルがある。2011年3月11日の東日本大震災で大きな被害を受けた原子力発電システムに対する信頼性の回復だ。震災の経験を活かし、さらに安全なシステムを構築・輸出するためにも、福島第一原子力発電所を取り巻く環境の安定化や、既存原発の再稼働は喫緊の課題である。

 ここに無線センサーネットワークの出番がある。福島原発の汚染水管理の自動化や、除染によって発生した土砂の中間貯蔵所における長期にわたる管理、既存原発の安全基準クリアのための環境モニタリングなどに使える(表1)。人手を介さずに検査・管理できるセンサーネットワークは、作業員不足や人件費高騰の問題を解決し得る。ネットワークを無線化することで、配線や保守の手間を減らして、適切な場所にセンサーノードを配置することも可能になる。福島原発や停止中の原発で無線センサーネットワークの運用実績を積むことは、日本の原子力発電所自体の競争力向上にもつながるはずだ。

表1 今後の無線センサーネットワークの応用例
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 こうした用途にDust部門の製品が利用するTSMP(Time Synchronized Mesh Protocol)方式が適しているのは、これまでの連載で指摘してきた通りである。原子力発電所に関する各種の監視・管理は、Dust部門の技術を使った米Emerson Electric社の「Smart Wireless」製品群の用途と同様であることも、TSMP方式が向くことを裏付ける。Smart Wireless製品群には、既に30億デバイス時間を超える累積稼働実績がある。

 実際にTSMP方式を適用するとしたら、原子力発電所の敷地をカバーするには、数百単位のノードが必要になるだろう。農地のような見通しのよい場所と異なり、多くの建造物や金属製の設備がある場所ではノード間の通信到達距離は短くなるためである。Dust部門の製品を使った場合、通常の市街地での到達距離は地面から1mの高さにノードを設置した場合で50m程度である。原子力発電所のような場所ではさらに短くなる可能性がある。

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