日経エレクトロニクス2014年9月15日号のpp.86-91「運用上のトラブルを未然に防止、自己修復やセキュリティーが肝」を分割転載した前編です。

工場や発電所、交通、農業などさまざまな分野で、現場の状態を常に監視し管理や制御に応用するために、無線センサーネットワークへの期待が大きい。ただし、信頼性の高いネットワークを構築するには、センサーネットならではの要求仕様を理解し、構築の勘所を学ぶ必要がある。今回は、データセンターの長期間の運用で重要になる無線環境の変化への対応について解説する。

 前回は、設置が容易で電池だけで長期間動作し、データの欠測を防げる無線センサーネットを構築するための基盤技術であるTSCH(Time Slotted Channel Hopping)注1)方式の具体的な動作を解説した。無線センサーネットワークの構築に欠かせない5つの要件のうち、(1)設置の容易さ、(2)長期の電池駆動、(3)接続の信頼性をどのように達成しているのかを、米国で実用化が進む「スマートパーキングシステム」を例に挙げて示した。

注1) TSCHをTSMP(Time Synchronized Mesh Protocol)と呼ぶこともある。同じ方式を違う視点から表した略語と言え、TSCHはネットワークの動作、TSMPはネットワークの形態に基づく表現である。

 今回と次回は、残る2つの要件である、(4)環境変化への適応と(5)セキュリティーを取り上げる。いずれも、システムを長期にわたって運用する上で避けては通れない項目だ。

 今回も米Dust Networks社の製品を使ったネットワークの実用例を取り上げ、実現方法を詳しく説明する。同社の製品は基本的にIEEE802.15.4eといった標準規格に準拠しているが、以下の説明には規格で定められていない実装面での詳細や、現在規格を策定中の部分も含まれる。

データセンターの空調制御に利用

 今回紹介する事例は、「データセンターの空調制御」である。米Google社や米Amazon.com社といった大規模なITサービス企業では、巨大なデータセンターに無数のサーバーを設置して処理能力を拡大し続けている。それらのサーバーから出る熱は膨大であり、サーバーの周囲温度が上がりすぎると装置の寿命が短くなることから、適切な冷却が必要になる。そのために大規模な空調設備が設置され、それらが消費する電力は、データセンターの消費電力全体の30~40%にも上るとされる。

 この負担をなるべく減らすため、例えばNTTファシリティーズが提供する空調制御システムでは、サーバールームに温度センサーを3次元的に配置して、空調機を適切に制御している(図1)。このシステムが使う温度センサーのネットワークでも、上記の5つのポイントが重要であり、これらを実現できる手段としてDust社の製品が選ばれた。Dust社製品では、センサー設置の条件は「電波が届く範囲に他の3つのノードがあること」だけで、これを満たせば空調制御上で望ましい場所にセンサーを設置できる。電池による駆動時間や接続の信頼性の要求にも応えられた。

図1 NTTファシリティーズのデータセンター空調制御システム
NTTファシリティーズが提供するデータセンターの空調制御システム「Smart DASH」(開発は米Vigilent社)では、データセンター内に3次元的に設置した温度センサーを利用して空調機を最適制御し、過冷却による無駄な消費電力を削減できる。(図:NTTファシリティーズ)
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 今回のテーマである環境変化への適応とは、例えばサーバーラックを追加して周囲の電波環境が変化しても、設置済みのセンサーの設定をユーザーがなるべく変更せずに済むことを指す。環境変化に応じて自動的にネットワークの構成を組み替える機能を実装することが重要だ。もう1つのセキュリティー面での要請は、センサーの情報が漏洩してサーバーの稼働状況を第三者に知られたり、悪意のある者の攻撃により空調制御を乱されたりといった事態を未然に防ぐことである。多くの脅威に対処するため、何段階もの対策が必要になる。

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