原油や非鉄、鉄鉱石、穀物などの一次産品は、価格の変化に対して需要量、供給量ともに柔軟に反応できない。これを「価格非弾力的」という。わずかな需給変化でも、それを増幅する形で価格が大きく変動することを意味している。だからこそ投機マネーが流入し、さらに大幅な価格変動を招く。一次産品がコモディティ(国際市況商品)と呼ばれるゆえんである。

 原油市場は2014年秋に価格が暴落して以降、「価格低迷」→「産油国の財政悪化」→「協調減産への動き」→「油価上昇」→「米シェールオイル増産観測」→「油価押し下げ」といった悪循環に陥っている。

 供給過剰が解消できない中、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油価格は、1バレル・50ドルを挟む不安定な展開が続いた。しかし、2017年後半に入ると、原油は50ドル台を回復する動きを強めている。主要産油国の協調減産による「需給再均衡」(Rebalance)に向けた動きが本格化する一方、米シェールオイルの活動にも陰りが見え始めたためだ。

 今回は、2017年以降の原油市場における「需給再均衡」への動きを確認し、2018年を展望したい。

きっかけはOPECと非OPECの協調減産

 石油輸出国機構(OPEC)は2016年11月29日の定例総会で、低迷する原油価格をテコ入れするため8年ぶりに協調減産を決めた。減産幅は日量約120万バレルで、2017年1月から6カ月間実施し、原油価格の動向を踏まえて延長の是非を検討する。サウジアラビアが約50万バレル削減して日量1000万バレル強とするほか、イランも経済制裁前の同380万バレル弱に生産を凍結。内戦が続いていたナイジェリアとリビアは減産を免除された。

 さらに翌12月10日、OPECはロシア、メキシコなど非OPECとの閣僚級会合を開催し、2001年以来15年ぶりの協調減産でも合意した。非OPECの減産は日量60万バレル(うちロシアが30万バレル)で、OPECの減産分と合わせると日量180万バレルとなる。これは、世界の原油生産量の2%弱に相当する。

 2016年の世界石油市場での供給過剰分は日量100万バレル程度と見られていた。

 当時、国際エネルギー機関(IEA)は、2017年の世界石油需要が16年から日量130万バレル(日量9630万バレルから9760万バレルへ)拡大すると予測していた(2017年11月月報では160万バレルに上方修正)。つまり、増産がなければ、この時点で1日当たり30万バレルほど需要が供給を上回ることになる。

 加えて、日量180万バレルの減産が継続すれば、世界の石油需給バランスは日量で210万バレルほど改善する(需要が供給を210万バレル上回る)。そうなれば、30億バレル前後と史上最高レベルにまで積み上がったOECDの商業原油在庫も減少に転じ、原油価格の押し上げにつながるとの見立てである。

積み上がった原油在庫は減っていくか?
OECD原油在庫と世界の石油需要

 とはいえ市場関係者の間では、原油が50ドル台を回復するとの見方には疑問が残った。

 1つは実効性の問題だ。減産合意はあくまでも口約束であり実現される保証はない。また、減産の基準が、生産量が記録的高水準にあった2016年10月の日量3383万バレルに対するものであり、2016年8月の非公式会合で合意した生産量(日量3324万バレル)からは60万バレルの減産に過ぎない。世界的な供給過剰を解消するには不十分で、仮に原油価格が上昇すれば米シェールオイルの生産も活発化する可能性があるためである。

 実際、2017年の原油価格は協調減産がスタートした年初こそ50ドル台を回復したものの、3月には再び50ドルを割り込み、3カ月半ぶりの安値をつけた。背景には需給再均衡に対する懐疑があった。そもそも、サウジには減産を続けたくない理由がある。イランやリビアが増産を続ける中、スウィングプロデューサー(需給調整役)を続けた場合、市場シェアを失いかねない。

協調減産の再延長、再々延長へ

 原油価格に下振れリスクが残る中、OPECは2017年5月25日の定例総会で、6月末に期限を迎える減産を2018年3月まで、9カ月間延長することとし、非OPECとの閣僚会合でも協調減産の継続を正式決定した。ただ、市場では、減産が順守されれば需給が均衡に向かい原油市場は安定するとの見方がある一方、米シェールオイルの増産を促すとの見方も浮上した。

 OPECは、石油市場を安定化させるため11月30日の総会では、非OPECとの協調減産を2018年12月末まで再延長することで合意。これまで減産を免除されていたリビア、ナイジェリアについても生産量の上限(両国で日量280万バレル)が設定された。これにより、足元の原油価格は50ドル台後半での底固い推移となっている。

 OPECが協調減産を続ける背景には、長引く原油価格低迷による財政悪化がある。特に、盟主サウジアラビアの2017年1~3月期、4~6月期のGDP成長率は、それぞれ前期比-0.3%、-1.0%と2四半期連続のマイナスとなり、リセッションに陥った。

油価低迷と減産で下降するサウジ経済
サウジアラビアの経済成長率と原油価格

 2011~13年に年間3000億ドルを超えていた石油輸出収入は、2016年は1344億ドルに縮小。サウジの2014~16年の財政赤字額は計2372億ドルに拡大し、2014年に7300億ドルあった外貨準備は、2017年8月には5000億ドルを割り込んだ。

激減するサウジの収入
OPECの石油収入

米シェールオイルの生産にも限界が・・・

 OPEC諸国とチキンゲーム(消耗戦)を続ける米シェールオイル産業は、これまでのところしたたかだ。特に、米トランプ大統領が6月2日、地球温暖化対策の枠組みである「パリ協定」からの離脱を表明したことで、シェールオイルの増産が進むとの見方が広がっている。

 米エネルギー情報局(EIA)は、シェールオイルの生産量は2017年8月に日量558万バレルに達し、2007年の統計開始以来の最高水準に達したと報告。2017年および18年の生産量は2年連続で過去最高を更新すると予測している。全体の原油生産量も2018年には初めて1000万バレルを突破するとの見通しを示した。

 確かに、米石油サービス大手ベーカー・ヒューズ社によれば、12月1日時点の原油・ガスのリグ(掘削装置)稼働数は929基(うち原油は749基)で2週連続で増えているものの、ひと頃の勢いはない。EIAの楽観的な予想に対して、シェールオイルにも限界が見えてきたとの見方もある。

 現在、北米のシェールオイルの産地には、DUCs(Drilled but Uncompleted Wells : 掘削済みだが、未仕上げの抗井)と呼ばれる生産開始の前段階にある抗井が既に4000基強あるといわれる。つまり、シェールオイルはしばらくは増産しやすい状況にある。

 しかし、1本のシェールオイルの油井は2~3年でピークを迎え、その後は急速に生産量は減る。増産を持続させるには、次々と新規の抗井を増やす必要がある。

 問題は、既に優良な鉱区はほぼ開発し尽くされ、さらに抗井を増やすには、高コストの鉱区開発が欠かせないが、これまで3年間にわたり原油価格が50ドル前後で低迷したことにより、新規の開発投資が進んでいない。

 シェールオイルにとって、いわば「油田在庫」に相当するDUCsが継続的に開発されていないとすれば、シェールオイル自体の生産量もいずれ減少に向かう。

2018年末、世界石油需要は日量1億バレルへ

 一方、世界の石油需要は増加している。IEAは2017年11月の月報で、世界の石油需要は2017年の日量9770万バレル(前年比160万バレル増)から18年には同9890万バレル(同120万バレル)に達するとの見方を示した。2018年10~12月期には同9970万バレルと史上初めて1億バレルをうかがうことになる。

好調な世界経済を背景に伸びる
世界の石油需要

 背景には世界経済の拡大がある。国際通貨基金(IMF)は2017年10月、世界経済見通しを発表した。2017年、2018年の世界経済成長率の見通しをそれぞれ3.6%、3.7%とし、前回7月の見通しから0.1ポイントずつ引き上げた。

 これを受けて、石油需要も拡大を続けている。米国(2017年成長率2.2%、2018年成長率2.3%)、EU(同2.1%、1.9%)をはじめ先進国の強い内需や企業の景況感の改善、良好な金融環境などが成長を支えるとの見方だ。

 一方、リスク要因として、「予想困難」な米トランプ政権の規制、通商、財政政策や英国のEU離脱に伴う混乱、世界の中央銀行による早過ぎる利上げ――を挙げているが、需要増のトレンドは堅そうだ。

 中国の石油市場も拡大している。IMFは、中国についても成長率の見通しを2017年6.8%、2018年6.5%とし、7月予想からそれぞれ0.1ポイント上方修正した。これは、当局が2022年まで拡張的な政策を維持するとの見方に基づくものだ。

 2017年9月の中国の原油輸入量は日量900万バレルを超え、過去最高になった(1-9月平均では日量850万バレル)。OPECの10月月報によると、2018年の中国の石油需要は日量1255万バレルに達するのに対して、国内生産量は同381万バレルにとどまる。差し引き同874万バレルの輸入が必要となるなど、今後も石油輸入は底堅い。

伸びる中国の石油消費と原油輸入
中国の石油需給(2017・18年は予想)

2018年は需給均衡化を達成、短期的な供給不足懸念も

 こうしてみると、2018年は需給両面から見て供給過剰問題が解消し、需給再均衡に向かうことになりそうだ。ここに、中東の地政学リスクが加わり、原油価格を押し上げる可能性も考えられる。

 中東地域では再び地政学リスクが高まっている。イスラム国(IS)掃討作戦で力を発揮したクルド自治政府の治安部隊とイラク中央政府軍が対立。イラク軍が北部の油田都市キルクークに部隊の増派を続けている。

 サウジに関しては、ムハンマド皇太子の強権かつ攻撃的な対外政策を危ぶむ声も多い。サウジとイランとの覇権争いがイエメン、レバノンでの代理戦争に発展している。

 市場では、こうしたサウジ内外における一連の動きを、「皇太子の陰謀」と捉える見方があり、中東における大きな不安定要因となりつつある。こうした中、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認めると正式に発表した。中東情勢はますます混迷が深まっている。

 中東地政学リスクの高まりは、原油の供給不安を醸成し、価格押し上げ要因となる。2018年の原油価格は1バレル60ドル台を回復する動きを強めそうだ。