化石燃料や金属などの「資源投入」だけでなく、金融や資本など世界の「経済産出装置」も限界に直面しつつある。さらに市場外に蓄積されたCO2排出などの外部不経済が人類や生命をいよいよ圧迫し始める。西洋で始まり世界に広がった工業文明の行き着く先を占う。

 工業文明の基盤である現代の資本主義経済は、自然から採取した化石燃料や金属などの資源を市場経済に投入し、経済活動を通して国民総生産(GDP)を増やす循環を繰り返すことで成長してきた。一方で、市場経済の外部に公害やCO2排出などの「不利益」や「損害」が必然のようにつきまとう。

 つまり、資本主義経済は、(1)「資源投入」、(2)「経済産出装置」(投資や金融など利益を生み出す仕組み)、(3)「環境破壊」(外部不経済)という結合的な因果関係をもつ根幹的構造によって成り立っている。今回はこれら3つの要素が絡み合いながら変転する「文明」を展望する。

 IEA(国際エネルギー機関)は2012年10月、世界の在来型石油生産が2005年にピークアウト(頭打ち)し、2025年に3割減少、2035年に6割減少、2050年には8割減少すると予測した(2011年10月の予測改定)。

 これと前後する形で、IMF(国際通貨基金)は2011年4月、石油生産が年率3.8%で減少し、最悪の場合、世界のGDPは20年後に1割減少するという試算を発表した。

 IEAとIMFの予測は、世界的な2つの機関が「世界の石油減産と経済縮小」の可能性を初めて認めた歴史的な発表だったと言えるだろう。石油と経済の成長神話は、2010年代の初めにすでに崩れ始めていたと言っていい。

世界のGDPは最悪で20年後には1割減少
IMFによる石油生産とGDPの将来推計

世界の研究者が予言する文明の危機

 英国の作家で、石油文明論で世界的に知られるナフィス・アハメドは近著で、(1)石油採掘のEROI(投資対収益)の悪化による正味エネルギーの減少、(2)石油供給量の減少、(3)それらによる経済危機と経済破綻、そして、(4)地球温暖化による渇水や飢饉、(5)社会不安と地政学的危機の深刻化、といった複合化した「文明の危機」(Crisis of Civilization)が迫っていると警告する(Failing States, Collapsing Systems―Bio Physical Triggers of Political Violence、2017年、Springer)。

 アハメドよれば、中東産油国は2030年までに石油輸出の減少、外貨収入の減少、水・食糧危機などの複合危機に直面する。米国は在来型石油がすでに希少化し、シェールオイルも2020年過ぎには減産に向かい、2025年までに水・食糧危機に陥る。

 中国は中東産油国の石油輸出減少で巨大人口を養うエネルギーを調達できなくなり、2030年までにやはり、水・食糧危機に直面する。北海油田がピークアウトした英国やノルウェーのほか、ドイツ、デンマーク、ロシアなどの欧州も2030年までに同様の危機に見舞われるという。

 この予測が当たるのかどうか。予測には不確実性がつきものだが、2030年ころまでに大きな転換が起きそうだということは、頭の片隅に置いておく必要があるだろう。

 今後、もし本当に石油生産の減少と経済の縮小が進行すると、石油に依存して発展してきた近代がいよいよ終わるのかと、多くの人々が感じるようになるかもしれない。実は、このような仮説は、英国の社会学者でピークオイル論者として有名なポール・トンプソンが21世紀初頭からすでに主張していた。

 トンプソンは「ポストオイル時代」を見据えて、(1)「ピークオイルの覚醒」が広がり(2005年)、(2)「秩序あるエネルギー転換」が起きるが(05~2030年)、石油減産が進むと、(3)「アナーキーな石油争奪・経済危機」(30~50年)の時代に移り、今世紀後半以降、最終的には、(4)「廃物再生利用の経済」(50年代以降)の時代、(5)「自給自足」(60年代以降)の時代――つまり、「近代の黄昏」(The Twilight of The Modern World)を迎えると予見した(カッコ内の年代は筆者の推測を補足)。

 石油減産と希少化が進む2030年代以降には、産油国でさえ供給余力が乏しくなり、海外への輸出ができなくなるどころか、石油輸入国に転換するとの予測さえある。

 そうなれば、石油は「戦略物資」(=紛争財)に変貌し、強国による石油争奪と占有化へと無秩序化するかもしれない。

 「石油消費の最大組織」でもある大国の軍部は、すでに今世紀初頭から石油供給不足を見通し、戦争遂行エネルギーとしての石油争奪に備えていたフシがある。

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