筆者は2018年6月、この連載で「21世紀半ば、工業文明は終結する」という問題提起をした。しかし、世界経済が衰退傾向をたどる中でも、技術革新と事業革新は続く。石油資源や地球環境問題の制約を背景に何を革新していくのかが問われる。

 石油経済研究会の水野和夫氏は、日米英の「利子率」(金融投資収益率)や「利潤率」(実物投資収益率)が1974年~81年にピークアウトした後に長期的な低下傾向を示し、資本主義経済の衰退が始まっていたことをいち早く、著書「資本主義の終焉と歴史の危機」で指摘した(水野氏の最近の記事はこちら)。

 近年は欧米の経済学者からも、2008年の金融危機後、10年以上に及ぶ「非伝統的金融緩和」をもってしても、経済の衰退から脱却できなかったとの見解が表明されるようになった。

 今年3月、元米財務長官のローレンス・サマーズ・ハーバード大学教授と英中央銀行のイングランド銀行でチーフアドバイザーを務めるウカシュ・ラヘル氏は、米国を除く世界の実質利子率が長期的に低下し、2014年にはマイナスに落ち込んだことを検証する新たな研究論文を公開し(*1)、内外の経済金融界で注目を集めた。

*1:Lukasz Rachel and Lawrence H. Summers,‘On Falling Neutral Real Rates, Fiscal Policy, and the Risk of Secular Stagnation’, March 2019, Brookings Papers

 この論文をベースに主要国の金融政策の限界を論じた、英ファイナンシャル・タイムズ紙コメンテーター、マーティン・ウルフ氏の論評を「日本経済新聞」(2019年3月14日付け)が紹介していたので、ご記憶にある読者もおられるだろう。

 サマーズ氏といえば2013年のFRB(米連邦準備制度理事会)での講演で、「米国経済の長期衰退(declining through long ages)」を指摘して世界を驚かせたことがあった。

 大事なことは、1990年代以降、世界の経済成長率が長期的に低下し、これに連動して利子率も低下していることである(グラフ1)。背景には、労働力の高齢化、生産性の伸びの鈍化、格差の拡大、投資財の値下がりなどがあると考えられる。

 ローマクラブの「成長の限界」説を継承し、著書「成長なき繁栄」などで知られる経済学者のティム・ジャクソン氏も同様に、労働生産性低下や格差拡大で経済成長率が低下傾向にあり、世界経済が「長期停滞(secular stagnation)」に陥っていることを解き明かしている(*2)。

*2:Tim Jackson,‘The post-growth challenge : Secular stagnation, inequality and the limits to growth’, CUSP Working Paper No.12, May 2018)

 ジャクソン氏は、過去の高成長時代に石油採掘を進めすぎた結果、石油の採掘投資対獲得収益比率である「EROI」が低下したことが経済成長率低下をもたらした大きな要因だと指摘する。また、1人当たり所得の成長率が2030年に「ゼロ」化し、世界経済の衰退が進むという厳しい見方を表明している(グラフ2)。

長期低迷する世界経済
グラフ1●利子率と経済成長率の推移
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所得の成長率が2030年にゼロへ
グラフ2●1人当たり所得増加率
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「衰退経済」に抗う技術革新の攻防

 マクロ的には資本主義経済が衰退期に入ってきたとしても、ミクロ経済の担い手である個別の企業や産業においては、企業力や革新力の強弱によって盛衰模様は違ってくる。なぜなら、技術革新や事業革新に挑戦し、衰退に抗い、成長の持続を目指すプレーヤーの出現が期待されるからだ。

 資本主義経済はダイナミックな成長メカニズムを内蔵している。未来の語り部となるオピニオンリーダーが時代ごとに現れ、新たな「物語」としての次世代のメガトレンドを創出する。企業や産業は技術革新や事業革新に挑み、そこに資金や人的資源を集中させ、成長をもたらしてきた。

 今世紀初頭から現在にかけて台頭してきたテーマは、「再生可能エネルギー」や「スマートグリッド」「スマートシティ」だった。

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