石油の採掘コストが上昇し、石油に頼れない時代が来る。だが、日本は脱化石燃料を推進する条件を備えている。19世紀以降、資本蓄積のスピードを競った資本主義による成長を支えたのは、エネルギーが凝縮された安価な石油だった。だが、日本の社会はこれ以上の急激な資本蓄積を必要としていない。史上最低金利(ゼロ金利)がそれを裏付ける――。「資本主義の終焉と歴史の危機」などの著書で知られる、水野和夫・法政大学教授が独自の経済史観から脱石油を説く。

 近代はその誕生の経緯からして反近代的である。「無限」の空間と時間を前提とする近代は、「有限」である化石燃料に全面的に依存する社会だからである。化石燃料が無限に使えないとすれば、近代社会が終わるのは必然と言える。

 今回は、化石燃料消費と資本蓄積(金利水準)の観点から、日本の現状と進むべき方向性を論じてみたい。

 近代は、1543年のコペルニクス革命に始まる。コペルニクスはアリストテレスの「閉じた宇宙論」を崩壊させ、宇宙は「無限」と主張した。

 無限の空間の概念は大航海時代を拓き、リスクを果敢に取った者が富や資本を蓄積できる時代が幕を開けた。

 「無限」を切り開くために、富を「無限」に蓄積する。そのために「より速く、より遠くに、より合理的に」が近代の合い言葉に、そして資本主義社会における最適な行動原理となった。これはこの400年変わることなく、資本家や企業経営者はあたかも普遍的原理であるかのように信じた。資本蓄積のスピードを測る尺度が利子率であり、利潤率である。

金利とエネルギーの密接な関係

 20世紀末になって、日本の10年国債利回りは1610年代にイタリア・ジェノバで記録したこれまでの最低利回りの記録を更新した。2016年になると、経済大国で初めてマイナス金利となった。ゼロ金利はこれ以上の資本の蓄積が難しくなったことを意味している。

 「より速く、より遠くに、より合理的に」行動するには、エネルギー密度の高い化石燃料の利用が不可欠だった。なかでも原油と天然ガスはエネルギーの中で最も瞬発力がある「より速く」に最適なエネルギーだった。

 近代とは工業化によって豊かな社会を実現した社会である。工業化とは機械化であり、機械は必ずエネルギーを必要とする。より多くのエネルギーを消費し、より多くの機械を利用すればするほど、資本蓄積のスピードが速くなる。

 中世から近代へ移行する過程で生じた大航海時代は、閉じた地中海世界から七つの海を統合しようとするオランダ、英国が主導する資本主義へと変貌した。

 13世紀になって、金利を取ることがローマ教会によって認められた。13世紀以降の金利の歴史は資本主義の歴史でもある。

 いかに資本蓄積に化石燃料が欠かせないかは、金利の歴史をみれば分かる(グラフ1)。

近代以降、最低金利を記録したのは4カ国だけ
グラフ1●金利の歴史(出所:A History of Interest Rates[SIDNEY HOMER]、日本銀行のデータを元に著者作成)

 金利が低い国は資本蓄積が進んでいる国で、かつ豊かな国である。利子率や利潤率は(最終利益/投下資本)で算出され、投資は最も収益率の高い対象から順次実施されるため、収益逓減の法則が働く。

 原油の採掘が進めば進むほどEROI(エネルギー収支比)は低下する(「石油はこれから『正味エネルギー』が急減する」参照)。

 それと同じように、資本蓄積も進めば進むほど投資採算は悪化する(金利が低下する)。

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