DAZN、Jリーグと10年間の長期契約の理由

英Perform Group CTO講演(後編)

2017/12/12 05:00

 「2017年シーズンから10年間で総額2100億円」。サッカーJリーグと巨額の放映権契約を締結した英Perform Group(パフォームグループ)が展開するのが、スポーツ専門のストリーミングサービス「DAZN(ダ・ゾーン)」だ。

 「将来的にスポーツのライブ配信はテレビからOTT(over the top)と呼ばれるネット配信へ移行する」。強気の姿勢を見せるDAZNが描く未来は・・・。2017年11月10日、CDN(Content Delivery Network)サービス最大手の米Akamai Technologies社の日本法人が主催したイベントに登壇した、Perform Group CTOのFlorian Diederichsen(フロリアン・ディデリクセン)氏の講演の後半の模様をお伝えする。

英Perform Group CTOのFlorian Diederichsen氏。アカマイ・テクノロジーズが2017年11月10日に開催したイベントの講演に登壇した
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 Perform Groupは、日本市場で長期間に渡ってしっかりとサービスを提供していきます。市場の需要を理解してベストなサービスを提供し、対価を頂きたいと考えています。そのために日本で2つのオフィスを持ち、コンテンツのローカライズや顧客サービスの日本語での提供をしています。そのために数百人を雇用しています。

 Jリーグと10年間という長期契約を結んでいますが、それはなぜか。Jリーグの価値が過小評価されていると考えているからです。通常の放映権契約は2~3年ですが、短期間で価値を高めるのは難しいので、10年契約にしたのです。

 実際、我々はJリーグの価値を高めるために数々の投資をしています。高密度Wi-FiをすべてのJ1スタジアムに敷設、試合中にさまざまなコンテンツをお客様が楽しめるようにしました。また、スタジアムに光ファイバーを敷設し、J3の試合は4台のカメラでプレーを撮影しています。J1の試合はカメラを3台追加し、12台体制で映像を制作しています。

3試合をリアルタイムで同時視聴

 新サービスに対する投資もしています。その1つが「Jリーグ・ゾーン」です。NFLが提供している「レッドゾーン」のサッカー版で、見たい複数の試合をリアルタイムで同時に見られます。具体的には、1つの画面内で3試合がリアルタイムに中継され、コメント付きの試合はメーンの画面で、そのほかの2試合は小さい画面で並行して見られます。見る試合の変更も可能です。

2017年4月に開始した「Jリーグ・ゾーン」の画面(右)。同時間帯に開催されている3試合を1画面内で視聴できる(図:Perform Group)
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 DAZNの番組では積極的に「スター」を紹介しています。リーグの発展にはスタープレーヤーが必要です。これによってクラブの価値が高まり、ストーリーも生まれる。Jリーグから国際的に活躍するプレーヤーを生み出して欧州に移籍したり、逆に欧州からJリーグに移籍することを活性化したいと思います。

 例えば、DAZNはドイツでJリーグの試合を中継していますが、2017年7月に元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキー選手がヴィッセル神戸に加入して以来、ドイツで視聴者数が増えています(1節当たりの平均アクティブユーザー数が約8倍に増加)。

ドイツにおけるJリーグ中継の視聴傾向(図:Perform Group)
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4KよりもHDRに魅力

 2018年の取り組みとして、まずは映像のクオリティーを高めます。現在は最大6.6Mbps(ビット/秒)のビットレートでHD映像を配信しています。これはケーブルテレビでのHD映像と同等です。しかし、競合他社はより低い4M~5Mbpsで配信しているので、映像の品質を保ったまま同等のビットレートに下げます。

 また、コーデックを現在のH.264からH.265/HEVCに変更して4K映像の配信に対応します。正直なところ、私は4Kがそんなにすごいとは思っていません。ダブルブラインドテスト(二重盲検試験)で4Kと非圧縮のHD映像などを見比べても、違いはほとんど分からないからです。モバイルはもちろん、家にある大型のテレビでもそんなに差が出ません。機器メーカーが4Kに対応してくれと要望しているので、我々もやるのです。もっとも、4K映像はVR(仮想現実)やAR(拡張現実)には有効だと思います。

 私は4Kよりも、「HDR」(ハイダイナミックレンジ:従来より明暗差をダイナミックに表現できる技術)に興味を抱いています。誰が見ても違いが分かるからです。HDRへの対応は1年以内にやりたいです。

レイテンシーの課題に取り組む

 ただ、我々には課題があります。映像の遅延(レイテンシー)です。その大きさはどのパッケージかによって変わりますが、通常は60~90秒もあります。正直言って、これは長い。スポーツ中継を見るだけだったらいいですが、国によっては試合を賭けの対象としている場合があります。この遅延時間を10秒程度にすべく、CDNサービスのAkamai Technologies社と改善に取り組んでいます。

 我々は日本市場に大きな期待をかけています。2019年にはラグビーW杯、2020年には東京オリンピックが開催されます。これから先の約3年は素晴らしい年になると思います。

 2018年にはロシアでサッカーW杯が開催されます。こうした3つの大型スポーツイベントを通じて、スポーツ観戦の仕方が変わってくると思います。今、インターネット上でされているソーシャルでの情報共有、カスタム化した体験、データ分析などを持ち込み、観戦体験を高めていきます。OTTは今後5~10年で完全に普及するでしょう。そのとき、スポーツ自体が大きく変わっていると思います。